プロローグ
今回は話の大まかな流れを述べているだけなので、正式な一話はまた次回です。
では。
西暦二千二十年頃の話だろうか。国際宇宙ステーションがその本部から、全世界に絶望を招く発言を残した。巨大隕石が地球に迫り、近いうちに衝突する恐れがあることと、それと同時に、予測不可能の規模の太陽フレアが近々起きるかも知れないと言うことだ。そんな信憑性のない話を口だけで言っても理屈は通らないとの事で、宇宙ステーションは世界各国の天文学者並びに、物理学者などからの支援を受け、衛星写真の提示及び、3D映像でのシミュレーションを行い世界にその確証をもたらした。そして、その2つはほぼ100パーセントの確率で同時に起きる、という計算さえも打ち出された。近いうちに、世界中は混乱に見舞われ、各国暴動が絶えない状況となった。
もちろん、日本でも同じ事は起きていた。当時の日本政府はこの状況に対し、国を挙げて回避方法を考える事にした。政治事情は赤字だらけで、国を挙げる事に金を使うんじゃないと、反論する者達が多数だった。しかし、政府はそれでもその方法を実行しようと、あるものを科学調合し始めた。それは、公に晒されず、完成して初めてテレビで情報が流されていた。
地球が滅ぶ事は、すでに確定されたものだと考えてもよい。ならばその前に、苦しみなしで死ねる方法があるとすれば、皆はどうするか。
そのテレビ放送は瞬く間にネットへと伝わり、そして、日本人を突き動かすのだった。
楽して死ねる。それは、とても良い事ではないだろうか。太陽フレアの激熱で焼け苦しむくらいなら、隕石衝突で痛みを伴い死ぬぐらいなら、その方が楽ではないか。その思考が日本人に芽生えた。政府が科学調合で完成させた、政府いわく楽に死ぬ事のできる薬。
楽死剤。
日本政府はそれを日本全国至るところに給付した。飲めばいつでも、楽にその生涯を終える事ができる。
人々は混乱によって乱されていた心をその一言で癒された。そして、迷うことなく快楽を求め、ただ死の為に薬を使用した……
が、誰一人としてその薬で死ぬ事はなかった。
いや、正確には……死んだけど、死んでいなかったのだ……
つまりこうだ。
その薬を使えば、正しく人間として生きていた自分の生涯は幕引きとなるが、その後、人間ではないものになるのだ。それは、まるで映画やゲームに出てくるゾンビのようなものになり、自我のないままに人を喰らう。もちろんそんな事があるとは政府は全く既知外で、すぐに使用中止を宣言した。しかし、その頃にはすでに日本の人口の約6割は不死体となって人を喰らい始めていた。
それでも政府は訴え続け、最後には……自分達でさえも喰らい殺された。
問題だったのは、その後の事だった。
日本が壊滅しかけ、世界にも楽死剤が広まった頃の話だ。隕石がいよいよ地球に急接近してきた、と宇宙ステーションが波にのせて全世界に発した。そして、予測通り大規模太陽フレアも発生するようだった。
世界に少数残った楽死剤無使用の人達は不死体になるくらいならこのまま死んだ方がましだ、とただ世界滅亡のその瞬間を待ち続け、終わりを迎えるはずだった。
だが、その終わりは来る事なく、地球は破滅しなかった。その理由は、巨大隕石がまさに地球に近づいてきた際に丁度大規模太陽フレアが起きた。その時、太陽フレアの発動圏内に隕石が重なり、太陽フレアは地球ではなくその巨大隕石にぶつかって、巨大隕石は太陽フレアの影響で地球に衝突する直前に四散し、その被害は地球に及ぶ事がなかったのだ。これは、簡単に言えば、宇宙ステーションとその周りを取りまく科学者の大きな誤算だった。なぜなら、彼らはどんな時も地球に隕石が衝突し、太陽フレアがさらに地球を襲う、というシミュレーションしかしていなかったのだ。常に最悪の事態を想定していたがために、そのほかの考えが芽生えなかったのだ。
故に、日本政府が国を挙げて作り出した楽死剤は全く持って無意味な物となり、甚大な被害を与えただけの大量虐殺扱いを受けた。しかし、国際連合はこの事で日本に重罪は与えなかった。それは、宇宙ステーションの誤算もあったため、また、副作用を知らないで開発してしまったため、だからである。それでも、何かしらの罰を与えろとたくさんの国から申し出があり、日本は、世界のおよそ9割の国との政治的交流の禁止を命じられた。つまり、世界から切り離されたのだ。また在日していて、楽死剤未使用の外国人は、強制で自国へと戻らされ、日本は完全孤立してしまった。それに加え、全国を不死体がうろつき回り、生きている日本人も、刻々とその数を減らしていった。
だが、そんな中、太陽フレアにより起きた衝撃が大きく磁場を狂わせ、人間の体内に異変をもたらした。異変と言っても、それは不死体化してしまうなどの悲しき異変ではなく、むしろその逆、日本人に希望をもたらす異変であった。
それは、異能力の開花。
人間の持つ微弱な磁場が、太陽フレアの衝撃とそれにともなう磁場により変化し、ある特定の人は異能力に目覚めた。その力は不死体を倒すために必要なものに、すぐさま利用されるようになった。そして、その異能力のおかげで日本はある程度まで復興し、少しずつ国として動き出してきた。
それから何年経っただろうか、今は磁場の狂いにより時間さえも定まらなくなっていて正確な日にちは分かっていない。しかし、もう何十年も経っている事は確かだ。
生き残った者達は、対不死体対策のためある機関を設立し、そして、こう名付けた。
聖騎士団、と…………
読んでいた本を閉じ彼は立ち上がる。一人用の寮室に備え付けられたベッドの上にある赤と黒の色彩を施した制服の上着を着用し、机に置いてあるホルダー付きの銃を制服胸ポケットにしまい、自室を退室。今日は実践形式の訓練がある。彼はその実践に出るメンバーの一人だ。今までも、実践は経験してきたし、いつも通りやれば出来るはずだ。だが、今日はいつも通り行われている実践とは少し違った。昇格試験も兼ねて行われるのだ。この聖騎士団では、稀に昇格試験がある。所属したての頃はランクFからはじまり、最終段階のランクSSSにつなげるための、ランクアップを繰り返す試験である。その試験に彼は挑む。実践中に、試験官は管理室からその様子を眺め、昇格にふさわしいか判断する。悪い時は降格までしてしまう時がある。しかも、試験官は意外と手厳しい。
「ふぅ……」
一呼吸おいて、心を落ち着かせる。廊下を歩いて行く時は誰とも口を聞いていない。彼は、このような重大な試験などがある時、人が変わったかのように集中する。それをわきまえて回りの騎士団員は彼に声を掛けていないのだ。もうこれは、すっかりおなじみ、という事だった。
今日の実践は体育館で行われる。体育館と言っても、その広さは尋常ではない。普通の学校にありそうな体育館の約5倍の広さを誇る聖騎士団の体育館はすでに団員で溢れているはずだ。喧騒が聞こえてくる。
「それじゃ……行こうかな」
彼は体育館の大きい扉を開け放ち、入館した……
乙
このプロローグ、しっかり読んでいくと後からの物語に深く関わる物となるので、覚えておくといいですよ!
これからよろしくお願いします!