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狂室  作者: みづ きづみ
ハジマリノ編
8/37

7時限目 腹

◇◇◇◇◇


二○○五年 十月二十三日 午後八時四十五分


 「あーもー! 無いなー。そっちあったか?」

「何回も聞くな。無いよ」

翔、杉山の2人は給食室を探した後、その近くにある、教員更衣室や職員玄関を白み潰しに捜索していた。

2人は既に壁を壊すことを完全に諦めていた。

職員玄関の鍵を銃で壊すというのも、試みたが、撃った銃弾は鍵には当たらず、跳ね返り、危うく杉山を殺すとこだった。

何故、跳ね返ったかは不明なままだ。

また、犯人達が何か仕掛けていたのだろう。

「翔」

「あー? またか? だから無い…」

「俺、腹減った」

グルルルルル。

わお。

そうだ。

俺も人間だった♪

腹……減ったな。

翔は携帯電話を開いて時間を確認した。

もう九時前…

3時間か…

「とにかく、我慢しろ。さっさと全部のペンダント集めて家に帰ろうぜ」

「ああ。それは大いに分かっている。しかしだな…」

杉山が食について語り出したので、無視してペンダントを探すのに集中した。

しかし、さっきから全く見付かる気配が無いな。

戸棚の中。下。机の下。

1個目はあんなに簡単な所に置いてあったのに、2個目は全然だ。

何処に在るんだー。

出ておいでー

良いものあるよー……はぁ、俺、疲れてんのかな。

そんな悲壮感の中、杉山が小さく叫んだ。

「やった! あった!」

本当か?

翔は杉山の元に小走りで駆け寄る。

杉山の手にしていた物、それは…

「ラッキー! カロリーメイド発見!」

「何だよ、そんな物か」

翔は肩を落として落胆し、持ち場に戻った。

後ろから、

「何だよ! 俺が見付けたんだぞ! 別けてやんねーからな!」とか言っている。

ますます、疲れる。

「ちょっとの間、黙っとけ」

翔は捜索を再開した。

更衣室のロッカーを全部開けてみた。

「無いな」

次は、洗面台の下の棚。

両開きのドアを開けてみる。

ふむ。何も無いな。いや、在ることは在るんだが。

歯磨き粉とか、そんなのばかりだ。

翔は少し休憩することにした。

使う機会の無い刀を洗面台の上に置き、アサルトライフルを立て掛けた。


それにしても腹が減った。

家に帰ってからの軽食がどれだけ有難いことか、こんな時に気付かされるとは。

食事は大切なんだな。

洗面台の鏡に持たれかけながらそんなことを思った。

杉山はカロリーメイドという過去形食品を食べて満足そうだ。

「おい、杉山。喰ったんなら探せよな」

「ああ。もちろんだ!」

調子のいいやつ…。

「てか、杉山。何処でその食い物手に入れたんだ?」

「ああ、教師の置いてた服の中。体育教師の赤田のだ」

「ふーん。あいつなら普段から持ち歩いてそうだな」

ん…?

普段から持ち歩いて…

ペンダント……普段から持ち歩いているやつ…

「杉山! そこに、音楽教師の末谷先生の服はあるか?」

杉山が服を掛ける為のロッカー内を探る。

「あるよ。これだ」

杉山がプラプラと服を手にぶら下げた。

末谷は装飾品が好きだ。

もしかしたら、そこに犯人達からのヒントが?

翔は直ぐに末谷の服をチェックしてみる。

外ポケット、内ポケット、ズボンのポケット。

「くっ!」

だが、予想外に末谷の服内には何も無かった。

「何を慌ててんだ?」

「……何でも無い」

翔は再び落胆し、洗面台に座った。

「糞! 何で何も出てこない!」

翔は勢い剰って鏡を拳で割ってしまった。

「まあまあ、落ち着け」

杉山が(なだ)める。

まるで態度が逆だ。

その時、校内放送が掛かった。

「!」

「!」


◇◇◇◇◇


八時三十分



「はぁ…はぁ…」

「はっ…はっ…はっ…」

2人の息は荒い。


階段から逃げて数分。

2人は図書室に逃げ込んで来た。

鍵は開いていたので、丁度良い。

中から鍵を閉め、簡単な仕掛けも作った。

ドアを無理矢理こじ開けると、入り口横の本棚から本が雪崩れて来る仕組みだ。

まず、ドアに図書室にあったビニールの紐を括り付け、それを上下に別ける。

次に段ボールを用意。

それをずらりと並べられている本の後ろに設置する。

そして、段ボールに穴を開け、そこにドアに括り付けておいた紐を結ぶ。

これで完成だ。

ドアが開かれると本棚の中の段ボールが引っ張られ、本が雪崩込む。

それに、ドアに括りつけて置くことで、本が重りになって中々ドアを開けられなくなる。

まさに、2段仕込みだ。

「取り敢えず、仕掛けは完成だ」

吉永が汗を腕で拭いた。

「こんな仕掛けを、こんなに早く…凄いね! 吉永君」

桜田が笑顔で褒め称える。

「ああ。ありがとよ」

吉永には彼女がいるので照れたりはしない。

が、彼女より可愛いと心底思う。

こんな俺は、彼氏失格か?

まあ、美しいもんに惹かれるのは人間の(さが)というものなのかもな。

「ち、ちょっと休もう」

吉永は図書室の壁にぐたっと持たれる。

流石に疲れた。

昼飯喰ってから…もう約八時間くらいか。

マジで腹減った。

吉永がお腹を押さえていると、横からこもった音が聴こえてきた。

「…えへへ」

桜田の腹が鳴ったのだ。

「気にすんな」

「……ふふふ」

「? 何だ?」

桜田は吉永を見て笑いを堪えている。

「吉永君てさ、みんなの前だと性格違うんだね? 何だか今の吉永君、可愛い」

「ああ?」

俺が可愛い…だと?

「あっ! 違うよ! そういう可愛いじゃなくて…」

「じゃ、どういう可愛いなんだ?」

「何かキザっぽい!」

「…………」

……キザ?……それは喜ぶべきなのか?……うーむ………キザ…か……。

てかキザって何?

「そ、そうか。ありがとう」

「はは!」

「? 今度は何」

「それ、喜ぶことじゃ無いと思うけど」

はあ、俺はこの女が苦手だな。

馬鹿にしてんのか?

いやいや、まてまて、熱くなるな。

彼女は励まそうとしているんじゃ…いやでも、こんな無神経な女が……。

稲川は何でこんな奴に惚れ込んでんだ?

どうせ、顔だけだろな。

そう思いつつ、近くにあった本を取り出し、読む。

小さい時からの英才教育のおかげで、本を読むのは嫌いじゃない。むしろ、好きだ。

手に取ったのは、『シェイクスピア』

の某本。

すらすらと読み進めていく。

吉永はこの学校の中でも、特に頭が良く、将来を期待されている。

幼少期からの厳しい勉強、勉強、勉強、勉強、勉強の文字通りの毎日。

娯楽を高1になるまで知らず、大学は東大以外は考えられない。

そんな家庭の為か、遺伝か分からないが、そのせいで自己中心的な考え方しか出来なくなってしまった。

吉永はある意味、この時代の被害者の一人なのだ。


桜田は、何もせず、ただボーッとしていた。

彼女の家庭は貧乏で、毎日生活が大変だった。

そんな中、親が見付けて来たのがこの浅川高校だ。

定時制。寮あり。給食制。給食費無料。受験料、成績による。

この、桜田家に舞い降りた神の思し召しに両親は直ぐに食いついた。

親は、桜田に猛勉強を強いた。

部活には行かせず、吉永と同じ様に毎日勉強。

吉永と違ったのは、しっかりと休みをくれる事だった。

友達付き合いは一応出来たし、中学校生活を謳歌しきってはいないが、存分に人並みには楽しめた。

だが、桜田は親を恨んでいた。

あんな猛勉強が無ければ、もっと沢山の友達が出来たし、部活動で汗も流せた。

自分は何故、あんなにもあの時必死に勉強していたのだろう。

そう思うと後悔ばかりが募る。

だが、今この歳になって考えてみると、あの猛勉強は親の愛ではなかったのだろうか。

自分に少しでも良い高校に入って欲しいから…その親の気持ちを、あの時自分はうっすらと感じていたんだろうか?

それに此処に来て、稲川君とも出逢えた。

自分は頑張って良かった。

今ではそう思っている。


「私も、何か読もうかなー」

桜田は立って本を探した。

それと同時に、校内放送が掛かった。

校歌が流れ始める。

これは2番の冒頭部分だ。

『♪』

リズムだけの所で曲は途切れ、あの背筋の凍る声が流れた。

『参加者ノ皆サン。一階ノ生徒玄関ヘ集マッテ下サイ。コチラカラ、ディナーヲ配布シタイト思イマス』



現在時刻 八時四十五分

ゲーム開始から、約三時間

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