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狂室  作者: みづ きづみ
オワリノ編
35/37

32時限目 素晴らしき力

◇◇◇◇◇

同刻。


大野田は支配人の立ち会いを演じていた。

「くっ。まるで動きを捉えられない。」

大野田はこの五分間、全ての攻撃を避けられ続けていた。

『無駄ですよ。今の私は常人の通常身体能力より20倍なんですから。捉えられなくても当たり前です。』

「………どうなってる。お前は何者だ?そうやって力をコントロール出来るのか?」

『鋭いですね。そうです。私は己の力を10倍から100倍へ調整出来るのです。50m走は本気を出せば1秒と掛かりません。』

「殆ど瞬間移動じゃねぇか。」『いえいえ、瞬間移動とは違います。なんせ自分で移動しているのですから。…………他にも肌の硬質化等も可能です。』

「………お前みたいなやつが世界中にいんのか?」『はい。現在はその力が覚醒していないかもしれませんが、必ずいます。もしかしたら貴方かもしれませんしね?』

「俺はそんな気持ち悪い人間じゃねぇ。」

『おやおや、それは憤慨ですね。この素晴らしき力を忌み嫌うとは。………!そうですね。ではゲームといきはしょう。私は今から希崎さんを捕まえて罰部屋まで連れて行きます。それを阻止することが出来ればあなた方二人を解放しましょう。どうです?』

「ふざけるな!希崎を巻き込むな!やるなら俺とお前だけのゲームにしろ!」『意見は受け付けません。では、いきますよ。』

支配人は体を斜めに傾け、走り出す姿勢を取った。

ドンッ…と刹那の衝撃。

大野田は間に合うわけもなく、一瞬にして希崎は連れ去られてしまった。

「くっそぉおお!!希崎!くそ!」

大野田は自分の無力さに絶望し、その場にへたりこんだ。悔しさから何度も床を叩く。

俺のせいだ………


◇◇◇◇◇

希崎は透明の箱の中で眼を覚ました。

罰部屋は普通のマンションの一室と特に変わりない。

家具の無い部屋の真ん中に立たされている。

だが、その殺風景な部屋の一片に、不似合いな色が写り混んだ。

「何、やだ。気持ち悪い………」

それは何とも形容し難い生物だった。

顔面はカミキリムシ……とでも言おうか。その中央には赤い小さな眼が八つある。腕は六本。長い尻尾がゆらゆらと左右に揺れている。全身はくすんだ灰色だ。全長は1.2mというところだろうか。兎に角異様な雰囲気をかもしだしていた。

小さく『ココココ……』と鳴いているその生き物……虫は、希崎の閉じ込められている罰ボックスに近付いた。

罰ボックスは穴が開いてはいるものの、円形で半径は約5cmだ。この虫が入るスペースはない。

希崎は一先ず安堵した。直ぐには死なない。上手くいけば逃げ切れると…………しかし、希崎のその考えは脆くも崩れ去る。

虫は先ず、罰ボックスにしがみついた。「!!??」

希崎は虫の足裏を見て軽く驚いた。

足の裏に、獣様な口が着いていたのだ。そして腹には不自然な切れ目。簡単に開きそうにぐにゃぐにゃとずれている。

「……何を……する気?」希崎は虫の裏側を見て、いい知れぬ不安感を覚えた。

不意に虫が『ゴゴゴゴ』と鳴いた………と同時に、虫の腹が開く。

「ひ………」希崎はこの瞬間、言葉はおろか、発声の機能を失った。

虫の開いた腹の中には、もうひとつ顔があった。何本も伸びる不気味な牙。緑色の液体に汚れた触手。この世の終わりを向かえた地球は、もしかするとこんな生物が徘徊しているかろしれない。

『キシャアアアアアアアアアアアアアアア!!』虫は一声威嚇すると、腹の中の虫から腐乱臭を漂わせるどす黒い液体と吐き出した。

その液体を浴びた罰ボックスは、まるで水飴の様にドロドロと溶け出した。

しゅわああああと音を立てて崩れた壁の向こうに見える未知の生物と、死への恐怖。希崎の脳内は既に崩壊しており、思考能力は停止している。

虫はジリジリと間合いを詰め希崎に近付いた。

おもむろに希崎の体を捕らえ、その六本の脚で両手両足を掴む。その弾みで足の裏の口が肉に歯を突き立てる。

血はつつーと滑らかに滴り落ち、床の上を軽快に跳ねた。

『クコココココ』虫が止めだとばかりに鳴く。そして腹をがぱりと開く。

もうひとつの顔が姿を見せた。

中の虫は、希崎の腹にその長い牙を突き刺した。

ぐちゅっと嫌な音がして、希崎のその弱い体を貫通させた。

完全に希崎と密着した虫は、その腹部から大量の酸液を噴き出した。

しゅおおおおおおと煙を上げながら、滑る様に希崎の体は溶けた。血をも溶解し、更に溶けていく。

しゅううううううううううううううううううじゅおおおおおおおお。


最後に残ったのは僅かな希崎の体液と大量の虫の酸液だけだった。


現在時刻九時五分

ゲーム開始から約八時間

そろそろ終わりが見えて来ました。


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