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狂室  作者: みづ きづみ
ハジマリノ編
3/37

2時限目 ルール

「死のゲームだと?!」

翔はスピーカーに向かって叫んだ。

『ソレデハルールノ説明ヲシマス』

相手には聞こえていない。

無視しているだけだろうか。

『ルールハ、至ッテ簡単。コノ学校内ニアル4ツノキーワードヲ2ツノチームニ別レテ探スコトデス。ソノキーワードノ容姿ハ全テペンダントニナッテイマス。片方ノチームガ全テノキーワードヲ集メタ場合、モウ片方ノチームノ皆サンニハ消エテ頂キマス』

「ル、ルールめちゃくちゃじゃねーか!」

「そんなこと誰がするか! クソヤロウ!」

皆、口々に言う。

だが、相手は聴こえているのかどうかは分からないが、そのまま話を続けた。

『制限時間ハ13時間。明日ノ7時マデデス。尚、校内ニハ、”死神サン”ガ巡回シテイルノデ気ヲ付ケテ下サイ。ソレト、”死神サン”ヘノ対抗策トシテ、皆サンニハ、武器ヲ所持シテ頂キマス』

「武器なんか使える訳ねーだろ! 意味わかんねーこと言ってねーでさっさとここから出しやがれ!」

杉山が激怒する。…が、

『ソレデハ、チームワケヲシテ、6人全員ガ武器ヲ持チマシタラ、ゲームスタートトシマス』そこで声は途切れた。

「ああーくそぉ! 畜生! どうすんだよ!」

杉山は壁をガンガン殴っている。

「と、とにかく(みんな)落ち着こう」

上本がメンバーを静かにさせた。

「上本、マジでこんなことやる気かよ!?」

吉永が不安そうに言った。

「まだやるとは言ってないだろ?」

その時、教室の真ん中の床が自動で開き、中から武器が大量に出てきた。

ショットガン、アサルトライフル、マシンガン、日本刀、手榴弾、地雷、更には、レールガンという代物まである。

他にも、用途の分からない武器や、見るからに凶悪な物もある。

「こ…これだ」上本が頷いた。

「あ?」

「僕達はどうせここから出られない。なら、戦って勝とう!これだけの武器(モノ)がある、僕達に勝ち目が無いわけじゃ…」

「いや、無いだろ」吉永が半ば自嘲気味に言った。

「そうだ、恐らく相手は戦闘のプロだぜ? 俺らみたいなガキがこんなもん持ったからって、急に強くなる訳じゃねーだろ」杉山がこめかみに血管を浮かばせて言った。

「でも、やらないよりはマシだろ。このまま悪戯に時が経つのを待ってたって、助かる保証は無いだろ。仮にどっちかがキーワードを全部集めたとして、助かるかはわかんねぇ。でも、挑戦した方が生き残れる確率は高いんじゃねぇのか?」

翔が言った。

その筋の通った言葉に皆は納得した。

「じ、じゃあ先ずはチーム分けからだな」

上本が手を叩きながら言う。

「とりあえず、片方に1人ずつ女子を入れようぜ」

その杉山の提案に上本が頷く。

「確かに、女子2人に男子1人じゃ、心細い」


◇◇◇◇◇


 結局、チームは、翔、杉山、藤田と吉永、上本、桜田の2つに別れた。

翔は桜田と同じチームになれなかったことを少し残念に思ったが、今はそんなことは言っていられない。

(みんな)忘れるなよ、俺達は敵同士だってことを」上本は3人(翔達のチーム)に向かって言った。

最後は武器選びだ。

皆、用心してフル装備で行く。

翔はアサルトライフルと日本刀を装備した。もう少し装備したかったが、武器は思いの他重く、逃げる時の妨げになると、この2つの武器を選んだ。

杉山はレールガンとマシンガンを選んだ。杉山曰く、攻撃は最大の防御らしい。

桜田は可愛らしく、小さなマグナムを一丁持っただけだった。

藤田もライフルを一丁持つだけだった。

翔は相手のチームの装備はよく覚えていなかったが、(桜田の装備は覚えていた)上本が動きやすい物を選べと言っていた様な気がする。


 全員が武器を装備したところでドアが開いた。

翔が取っ手を引くと、難なくドアが動いた。

そして、上本が去り際にこう言った。

「お互い、幸運を祈ろう」

「余計なお世話だ」とだけ返しておいた。

上本達は上の階へ上がって行ったので翔達は下へ行くことにした。

「ね、ねぇ。生徒玄関へ行ってみない?」突然、藤田が言い放った。

「何でだ?」杉山が問う。

「生徒玄関、もしかして開いてないかな~って」藤田は苦笑した。

「まあ、確率はほぼゼロだけど、キーワードをついでに探せるし行こう。宛が無いよりは良い。それに下の階に行った方が良いだろう。相手チームと鉢合わせの恐れもあるからな」

翔は生徒玄関への道を指差した。

「お前、そんなに頭切れるやつだったっけ?」

杉山は武器をいじりながら言った。

「まあ、この学校に入学出来るだけの頭はあるよ」

曲がり角に差し掛かった。

翔は銃を構える。

レーザーサイトが付いているが、今回は使わない。

その光で”死神サン”に居場所がバレてしまわないようにだ。

銃を構えた先は廊下。

暗くて先が見えず、延々と続いている様に感じる。

?!……

音がする。ハイヒールでコツコツと歩いているような。

その音を聴いただけで、翔は頭に頭痛を訴えた。

翔はそこで観た。それを。

死、そのものを。

”死神サン”。

紅い装束に身を包み、まるであかずきんちゃんを思わせる。だが、その顔の位置には、不可解なニヤケた面が付いていた。しにがみさん…死にがみさん…死がみさん…死神さん…しししししししししししししししししし死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死。


……頭にはその文字しか浮かばない。

目が合えば死ぬ。

翔は直感でそう感じた。

それと同時に激しい吐き気。

「ンプ……」

思わず、膝を地面にしたたかに打ち、口を手で押さえた。

「おい! 翔! どうした?! 大丈夫か?!」杉山が翔の肩を掴む。

「しっ! 黙れ! ”死神サン”がいる! 逃げるぞ!」

3人は一目散に違う方向の廊下に逃げ込んだ。

どうやら”死神サン”はこちらに気付いていないようだ。

翔はいざとなれば、この銃で、とも思ったが今回はその必要は無かった。

3人は素早く、そして慎重に生徒玄関へ向かった。

翔と杉山は銃を肩の高さで固定し、辺りを警戒する。

銃を肩の高さで維持するのは、思ったより力がいる作業だった。

生徒玄関には誰も居ない。

「よし、慎重に行くぞ」

翔が後ろを警戒し、杉山が前方を注意する。

「藤田、一応ドアを開けてみてくれ」

杉山が生徒玄関のドアを銃で示した。

「おっけー」

藤田は軽快に小走りでドアへ向かった。

………そして、

「ぇあああ!」

ごちゅっ、ばきばきばきぐちゃ…

「おい、杉山どうし……ぅわああああああ!」

杉山の声と同時に藤田の脳天めがけて、刃渡り2、3メートル程の«刃»が落ちて来た。

当然、藤田は真っ二つに断裂した。

杉山は死体が2つに別れる時、その内部を見た。

「オッグ、ぅおぇええええ!」

黄色く臭い離乳食の様な物が、藤田の死体へ吐き掛けられる。

«刃»は地面の下へ吸い込まれて行くように入って行った。


眼前に拡がるのは血の海。

艶やかな、紅い脳ミソが頭蓋骨からはみ出ていた。

「ふっ。あはははははははははは!!!!!」杉山は死体を見て狂った様に笑った。

「おい! 落ち着け! お前の声で”死神サン”が来たらどうすんだ! 静かに…」

その時、翔と杉山の背後に、あの紅い装束が現れた。

それに気付いた2人は直ぐ様飛び退く。

何故なら”死神サン”が既に斧を振り下ろしていたからだ。

生徒玄関のタイルがばきゃっと音を立てて割れた。

ロッカーの陰から翔がアサルトライフルを撃ち放った。

けたたましい音と共に射出される弾丸が”死神サン”を襲う。

だが、弾丸は服を破っただけで”死神サン”を仕留めることは出来なかった。

「翔! 退け!」

杉山のレールガンがバチバチと電気を放っていた。

翔は直ぐに飛び退いた。

同時にレールガンが射出された。

大量の蒼く光る電磁波が”死神サン”を粉々にした。

ぐちゃぐちゃと飛び散る肉片が生徒玄関を朱く染める。

翔の口の中に、”死神サン”の臓器らしき物が入ってきた。

吐き気を覚え、それを取り出すと、翔は驚愕した。

「これが、キーワードか?」

机の上に置かれていたペンダントを拾い上げる杉山に、翔は口の中に入り込んだ物を見せた。

「杉山、これ…」

翔が見せた物、それは真っ青な臓器だった。

死臭のする、腐った臓器。

もはや、生きている人間のそれではない。

「何で青いんだ? 普通は赤いもんじゃねーのか?」

「もしかしたら、”死神サン”は本当に死んでいるのかも」

「い、いや、そんなこと……」

その時、あの足音がした。

コツコツとハイヒールの様な音が。

2人はロッカーの陰に隠れた。

バレなかったという保証はない。

足音はロッカーの真横にまで迫った。


 翔と杉山はそっと”死神サン”のいるであろう場所を見た。

そこには案の定、”死神サン”が居た。

藤田の死体を掴んで何やらごそごそとしている。

何かぶつぶつと言っている様にも思える。

そして数分後、”死神サン”は立ち上がった。

辺りをキョロキョロと見回し、そのまま行ってしまった。

そして翔はあることに気が付いた。


藤田の死体が消えている。

「?! 何でだ?! 藤田の死体が無い」

「ああ?! 本当だ?!」

「奴は何をした?」

「いや、俺は見ててもよく分からなかった……」

「…俺もだ………」

2人は、この嫌な空気の中、ただ立ち尽くすのみだった。

ここから、バトルが本格化していきます。

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