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狂室  作者: みづ きづみ
オワリノ編
20/37

17時限目 闘走

◇◇◇◇◇


二〇〇五年 十月二十四日 午後一時五分



翔は、必然的に大野田と今津と逃げることになった。

他にも束になって逃げているのがいる。

「どうするよ! これから!」

今津が他の束になっているチームを観ながら言った。

「取り敢えず、武器と隠れる場所を探そう。翔、地図を」

大野田が応えた。

翔は「おう」と返し、地図を開いた。

「今は二階だ。で、ここの近くに家庭科室があるけど……」

「よし、そこだ」

大野田が頷いた。

3人は家庭科室に向かった。

今いるところから数百メートルのところにある。

3人が家庭科室を目指したのは、武器調達の為だ。

恐らく家庭科室には包丁がある。他にも何か武器になるものがあるかもしれない。

翔は”死神サン”と出会すという可能性を呑み込み、家庭科室への道を急いだ。

◇◇◇◇◇

同刻


翔達の他に魚島俊、小木真也、石田光の3人もチームを組んでいた。

「みんな、先ず隠れる所を探そう。地図を開いて」

このチームの中でのリーダーは石田だ。

強面の魚島は拒否、小木は声を発しないので仕方なくなったという感じだ。

「ちょっと待ってくれ。武器調達はいいのか」

強面の魚島が問う。

「いや、武器調達を先にしてしまうと、もし”死神サン”に出会った時、メンバーがバラバラになってしまう恐れがある。でも隠れる場所を先に決めておけば襲われても最終的には一ヶ所に集まってこられる」

石田が真剣な顔で言った。

「成る程な。そいつは同感だ」

強面の魚島も感心した様だ。

「あの、……ちょっと…タンマ」

そう言ったのは小木だ。どうやら見掛け通り体力が無い様だ。

3人は少し休むことにした。だがちんたらと時間を無駄には出来ない。

一つの場所に長居すれば見付かる確率は間違いなく上がる。

1、2分の休憩で、直ぐに隠れる場所を探しに戻った。

小木は足手まといになりそうだと石田は思った。

置いていこうか……そうも考えた。

だが、己の内の正義感がそれを許さなかった。

石田は正義感が人一倍強いのだ。

時折ペースを落としながら小木を気遣った。


◇◇◇◇◇


女子。


女子達は3人グループと1人に別れていた。

お嬢様気質の河木飛鳥は、ふらふらと他の女子達から離れて行ってしまった。

なので3人グループは西川、里宮、希崎となる。

3人はいく宛も無くさまよっていた。

だが、ある時西川が言った。

「あちこち走り回っていても体力の無駄だよ。どこかに腰を落ち着かせようよ」

2人はそれに賛同した。

女子3人グループは隠れる場所を探し始めた。

そして一人の河木はトイレに籠っていた。

「何で私があんなやつらと一緒に逃げなきゃいけないのかしら」

河木は第一ゲームでもこうしてトイレに隠れ、隙あらば他人のペンダントを奪っていた。走りには自信のある河木。陸上の大会でもかなりの成績を残し、地元では一番速かった。

河木は今回も隠れる作戦でいこうと思っていた。

だが…その作戦は脆く簡単に崩れることになる。


◇◇◇◇◇


「ここだ」

翔達は家庭科室にたどり着いた。

だが鍵が閉まっている。

「まさか武器は禁止か?!」

大野田がドアを叩く。

「いや、普通の鍵だ。コンピュータはない」翔はドアとドアの隙間を覗き込んだ。

「じゃあぶち破ろうぜ」と今津。

「どうやって破る?」

「どうって……」

今津は言葉に詰まった。

「簡単だ。こうすれば良い」

咄嗟に今津と大野田の2人が翔とドアから離れた。

ガシャン!

翔が消火器でドアではなく窓を割った。

「やるね」今津はにやりと笑った。

「それより、辺りを警戒しよう。死神共が来るかもしれない。前回より敏感な筈だ」大野田が散らばる様に指で指示した。

翔と今津は左右に別れた。

何も音はない。姿も確認出来ない。

大丈夫だったようだ。

今津は大野田にOKサインを見せる。

翔も大野田のいる所へ戻った。

3人は一斉に中に入った。

バリバリとガラスが更に割れた。

家庭科室はむあっとしていた。

大きな料理机が6つ。その他棚が幾つかある。

「よし、みんな武器になりそうな物を探そう。死神がきたら報せてくれ」

そう言って、3人は作業に取り掛かった。包丁は簡単に十個見付かった。

ケースに収めてポケットに容れる。

3つずつ別けたが、一つ余った。残しておこうと翔は思ったが、大野田が、他のチームに武器を与えることになる、と壊した。

ポケットにごつごつした刃物を容れているので少々動きにくかった。

取り敢えずこれだけでいいだろうということで、隠れる場所を探そうと翔が初めに部屋を出た。そして………「し、死神…」

翔がぼそりとぼやいた。

それに気付いた大野田と今津が急いで部屋から出る。

3人の目線の先に……奴は居た。

”死神サン”。斧を肩に載せ、偉そうにこちらに歩いて来ていた。

このとき翔は何か今までとの違いに気付く。

”死神サン”がこれまでと違う。

感情があるのか?

そう考えていたとき、大野田が叫んだ。

「闘うぞ!」

「ええ?! マジかよ!」

今津はいやいやと首を振っている。

「俺も同感だ」翔がそう口にし、今津が「だよな! だよな!」と言った。

「いや、違う。大野田に同感だ」途端に今津の顔から光りが消えた。

「闘おう。勝てる」

翔は自分で言っておきながら何処からこんな自信が湧いてくるのだろう、と不思議に思った。

だが、今なら勝てそうな気がする。

翔は声を上げ、”死神サン”に向かって行った。

大野田がそれに続き、今津も躊躇いながら走り出す。

「フハハ。立チ向カウトハ」

「!!!???」「!!」

3人に衝撃が走る。

”死神サン”が喋った……。

翔は驚きながらもその足を緩めなかった。

包丁が”死神サン”の腹を目掛ける。

だが回避され、背中ががら空きになった。そこへ”死神サン”が斧を振るう。

だが背中へ到達せず、地面に斧が落ちた。

”死神サン”がうめき声を出した。

翔はよろけながら体勢を立て直した。

そして振り返る。

「………くそくらえ、死神…」

大野田と今津の包丁がそれぞれ2本ずつ”死神サン”の脇腹に突き刺さっていた。

どさりと地面に横たわる死神の『死体』。

翔はそこで違和感を感じた。

「あれ、これって俺達を捕獲するんじゃねーのか? 何で殺しに来た?」

「あ、そうだな。何故…」

ピリリリリ、ピリリリリ

「!!」「!!」「!!」

急に鳴った携帯電話にびくっとなる3人。

大野田の携帯が鳴っていた。

「で、出るべきか?」

翔と今津は頷いた。

大野田はそれを受け取り、通話アイコンをタッチした。

「も……もしもし」

『ドウモ、コチラスピーカーノ声ノ主デ御座イマス』

「ああ?! お前か! 何の用だ」

『申シ訳アリマセン。先程アナタ方ガ倒シタソノ”死体サン”ハルールヲシッカリト読ンデオリマセンデシタ』

「意味わかんねーこと言ってんな。ルールなんざ知るか。おいスピーカー」

『何デショウ?』

「この死神野郎、第一ゲームと若干、感じが違うんだが、これは」

『アア。当タリ前デスヨ。第一ゲームハ死体。ソシテ第二ゲームノ今回ハコノ学校ノ教師デスカラ』

「?!!???!!?? え……今……え?」『デスカラ、コノ学校ノ教師デス。ナノデ生身デ簡単ニ死ニマス。ソノ代ワリ足ガ物凄ク速クナルヨウニ手術シマシタ』

「う、嘘だろ……おい」

『イエ、本当デス。ア、勿論精神モ手術デ改造シテアリマスヨ』

「……………………」

大野田は衝撃的すぎて言葉が出なかった。

『デハ、キリマスネ』

そう言い残し通話は切れた。

「スピーカーのやつからか。何て?」

大野田は聞いたことを全て伝えた。


「……マジかよ……こいつが?」

今津は死んでいる死体の仮面を剥いだ。

「…………………嘘だろ」

仮面の下は普通の顔だ。まだ辛うじて生気がある。だが至るところから青くなっていた。

「………そうか。なら、俺達が逃げるのは無理かもな」

翔が険しい表情で言った。

「ああ。幾ら体育会系でも無理があるな」

大野田も翔に応答する。

「これからは行動は慎重に行こう」

翔は2人と目を合わせた。力強い目だ。これからの決意を表していた。


3人が気を取り直し、隠れる場所を探そうとしたとき、それは起こった。

ピリリリリリ、ピリリリリ

また大野田の携帯電話が鳴った。

今度はスピーカーの声の主からではなかった。

「石田?」

『ああ! 大野田! あの河木が捕まった!』

「あ? 誰だ? それ」

『大野田は知らないか。河木は短距離200mで負けなしの女だ! 男子の記録とほぼ同じ速さを持つやつ』

「………そんなやつが捕まったっていうのか………」

『大野田達も気を付けろ!』

「てか何でそんなこと知ってる?」

『俺達は目撃しちまったんだ。あいつが捕獲されるとこを』

「…………分かった報告ありがとう」

『ああ。じゃあな』

大野田は通話アイコンを乱暴に押した。

「河木が捕まった」

「! ……そいつは確か有力選手じゃなかったっけか?」

「ああ。男子と同レベルらしい」

「てことはまずいだろ! 俺達より速い女が捕まったんだぜ? しかも男子と同レベルってかなりのもんの筈だろ?!」

「落ち着け、今津。あいつは独りでいたから捕まったんだ。大人数、せめて3人以上でいれば相手を撹乱させられる。大丈夫だ」

翔が今津をなだめる。

そして今津が「でもよ…」と言ったとき………。

「? おい翔。携帯の画面が切り替わってるぞ?」

「大野田、お前もだよ」

翔が指差した。

それぞれの画面には、いやいやをする河木の姿があった。力一杯に逃げようとするが”死神サン”達はびくのもしない。

すると画面に徐々に崩れた文字が浮かび上がってきた。


【罰 その一】


「罰? その一?」

「これはあいつの言ってた罰ゲームのことじゃねぇか?」

「捕まったら罰を与えるって、これか? まさかこれか? 俺達にその様子を配信すんのか?」

「じゃあこの部屋は罰部屋か」

翔だ。

翔は嫌な予感がした。波瀾の予感だ。

カメラは河木の真ん前を写している。

”死神サン”達が河木の腕に手錠を掛ける。そして無理矢理椅子に座らせ、その体を椅子に縛り付けた。

河木は身動きが出来ない。

辺りを不安そうに見回す河木。

しばらくすると罰部屋に”死神サン”が3人現れた。

カメラが真横から斜め上へ切り替わる。

”死神サン”の手には虫かご。

その中に何かいた。

カメラが虫かごをズームする。

そこに写ったのは………

「ゴ、ゴキブリ?」

白い背中に赤いラインが二本入った見たことのないゴキブリだった。

少なくとも日本にこんな蟲は絶対にいない。

『コレハ”人喰イゴキブリ”ダ』

”死神サン”が河木に向かって言った。

河木はゴキブリというワードにびくりと身を震わせた。

2人の死神サンが河木の両脇に立ち、河木の口を無理矢理開いた。

「!! まさか!」翔が叫ぶ。

画面の中の河木も叫んでいる。

『いやあああ!! やめて!!! いやよ! いやあああ!!』

河木の右側にいた”死神サン”が河木の頬を叩いた。

そしてその後ろ髪を引っ張り、顔を上に向けさせた。

斜め上から撮っているカメラにしっかりと河木の口内が写された。

綺麗に整った歯。舌も綺麗だ。

そこに不似合いな邪悪なゴキブリが姿を現す。

虫かごを持つ”死神サン”が虫かごからゴキブリを取り出した。

そしてそれを一気に口の中へ、いや、喉の奥へ突っ込んだ。

『ぎゃああああああああああああああ!!』

河木の断末魔が携帯の画面を揺らした。

”死神サン”は手錠を外し、椅子から解放した。

河木は直ぐ様部屋から出ようとするが叶わなかった。

『うぐ! ああああ!』河木が腹を押さえてうめきだした。

『きああ! うううう! ぐぐぐぐぐぐ! あああ!』

「そんな……もしかして」

今津はそれ以上言葉を発してはいけない。

そしてついに河木のうめきが叫びに変化した。『うおおおおおおおおお!!! ぐきゃああああ!!』

あの綺麗な河木はもういなかった。

そして…………


現在時刻午後一時四十五分

ゲーム開始から約四十五分

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