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狂室  作者: みづ きづみ
ハジマリノ編
2/37

1時限目 終わりの始まり

◇◇◇◇◇

13時間前


二○○五年 十月二十三日 午後五時四十五分


 あの時、翔達は一週間後に迫った文化祭のため、教室で居残りをしていた。


 「翔、ここ頼む。楽しんでる絵をな」

そう言ったのは班の班長で、この浅川高校2年4組の学級委員を任せられている、吉永竜彦(よしながたつひこ)だ。

翔に絵を描くように頼んだのだ。

吉永は典型的な自己中心な人物で、しばしばクラスの人間と対立していた。

吉永に依頼された翔は少々苛つきながらも、彼の言う通りにした。

稲川翔(いねかわしょう)、彼は陸上部にいながら美術部より絵が上手いため美術部よりしつこくスカウトが来る。


今回も班の絵描き役として抜擢された。

「描けたよ、竜彦」

翔は吉永に絵を見せる。

「おお!流石は翔!上手いなぁ」

吉永は満足そうだ。

翔は思わず笑みを溢す。


「あーめんどくせぇー」

そう言ったのは杉山永久(すぎやまとわ)だ。学校で一番大きく、力と体重がある奴だ。


親が力士のせいで杉山も7、80キロ体重がある。しかもすぐキレる癖があり、他校からは浅川の鬼と恐れられている。そのおかげでこの学校の安全は保証されている。

「おい、杉山。ちゃんとやれ。文化祭まであと一週間しか無いんだ」

注意したのは上本結城(うえもとゆうき)だ。

イケメンにしっかりした性格。吉永よりも頼りになる。


班メンバーは杉山がキレないかとドキドキしていたが「はいはい、分かったよ」と言ったので全員安堵の息を漏らした。

「てか、あたしも杉山に賛成なんだけど。マジだりィー」

藤田美紀(ふじたみき)だ。顔は良いが、自己中心的で吉永と仲が悪かった。

「美紀ちゃん、あと少しで帰れるからもうちょっと頑張ろ?」

そう話し掛けたのは4組のアイドル、桜田優奈(さくらだゆな)だ。

大人っぽい性格なのに童顔。翔も密かに恋心を抱いていた。


そして翔の性格といえば、顔こそ平均的な男子のそれだが優しさと気配りの出来る男子として、女友達も多かった。故に、彼に好意を抱く女子も少なくない。


黙々と作業を続ける。

少しの間静寂が教室を支配した。

窓とドアは全て閉められ、外界からの音をシャットアウトしている為、石油ストーブの音だけが耳に入る。



キンコーンカンコーン

「ぶふぇー。やっと終わった」

下校チャイムと同時に杉山が床に寝転がった。

「よし、模造紙を準備室に置きに行こう」上本が言った。

文化祭で制作したものは全て準備室に置くことが義務付けられている。

「班長だけで良いじゃねぇか」

杉山が不満そうに言う。

「何だと? 班長がやらなきゃいけねぇ義務があんのかよ!」

吉永が激を飛ばす。

「ああ。班長は、班の為なら何でもするんじゃねーのかよ!」杉山が食ってかかる。

「んだと、コラ!!」

「待って2人共!僕が持っていくよ」

翔が止めに入る。模造紙を丸めて脇に抱えた。

どちらも自己中心的だ…。

「稲川君、私も手伝うよ」

近くにいた桜田が声を掛けてきた。

「い、いいよ。1人で行くよ」

翔は心の中でガッツポーズをとり、教室のドアへ歩み寄る。

翔はいつもの様にドアを引いた。

ガッ

 【?】

 (開かない…可笑しいな)

 (もう一度引こう)

「?? ……ん?」

「どうした?」

杉山が翔の元へと寄ってくる。

「ドアが開かないんだ」

「はは。鍵が閉まってるだけだろ?」

杉山は鍵の部分を見た。

「あれ…?」

閉まっている時は鍵の取っ手が下に下がっている筈だが、いまは取っ手は上に上がっていた。

杉山はドアを引いた。

ガツン

 (やはり何かが引っ掛かっている。)

「どうした、2人共」

上本も近付いて来た。

「何か、おかしいんだ、ドアが開かないんだ」翔と杉山は困惑の表情を浮かべている。

「本当だ。くっ!」

何度もドアを引くが、びくりとも動かない。

吉永が見に来た。

「開かねーのか?」

 呑気なものだ、と翔は思った。

「ああ。全員で引こう」

4人で取っ手を一斉に引いた。

ガッ

糞!駄目か。

翔は心の中で舌打ちする。

「クソ! 何なんだよ!」

杉山は拳でドアを叩いた。

「窓を調べてみよう」

吉永と上本、翔が窓の鍵を開けて取っ手を引く。

やはり、結果は同じだった。

「ねぇ、どうなってんの!?」

藤田が問う。

気だるそうな顔だ。

「黙れブス」杉山がキレ気味に返す。

「うるせーなデブ!」

藤田も応戦する。

杉山は眉間に皺を寄せたが、今はそれどころでは無いと踏みとどまった。


「あーもー畜生! 何で全部開かないんだ?!」

吉永が腹出たしげに言った。

「誰かが昨日の内にコンピューター式の鍵を掛けたんだ。ここ…」

上本の指差すドアの隙間方向には小さな黒い物体があった。

赤く、等間隔に点滅している。


? …何故こんなものを………?

翔は体を嫌な予感が走るのを感じた。


「ら…拉致ってやつか?!」

吉永が汗を垂らして言う。

「恐らくは……」

女子の2人は怯えていた。

その時、スピーカーから大音量の校歌が流れてきた。

『すばら~しき、このー川。青空に輝け~』そして間奏。だがそこで校歌は途切れた。

『皆サン、今晩ハ。ソシテヨウコソ』

背筋が凍るような声。高い声と低い声をごちゃまぜにした様な声だ。

『アナタタチニ残ッテモラッタノハ他デモナイ、死ノゲームニ参加シテ頂ク為デス』

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