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狂室  作者: みづ きづみ
ハジマリノ編
12/37

11時限目 翔と桜田

◇◇◇◇◇


二○○五年 十月二十三日 午後十時二十分



 たったったっと乾いた足音が廊下に響いている。

たった1人になった翔は行く宛も無く、走り続けていた。

先程まで泣いていたが、何も変わらないと泣き止んだ。

「……くそ!」

翔は何度も杉山の殺されるシーンを想像していた。

あいつはもうこの世にはいない…頼れるのは自分1人だ。

そう自分に言い聞かせるが、杉山の死ぬ瞬間の映像が頭からこびりついて離れない。

まるで鉄に付いた錆の様に。

翔は取り敢えず何処かを探そうと目に付いた第一音楽室に入った。

銃で部屋を警戒するが、誰も居なかった。

部屋にはモーツァルトやベートーベンの絵が飾られている。

夜に眼が動くとかそういう噂を聴いたことがあるが…

「…ふん! くそ食らえ!」

だが、杉山を失った今の翔には何処吹く風だ。

「ま、ここを探すことにしよう」

翔は捜索を開始した。


◇◇◇◇◇


同じ刻


 桜田は兎に角ペンダント探しに夢中だった。

放送室。

スピーカーから声が流れてくるのでもしかして、と少し怖かったが思いきって中に入るとそこには誰も居なかった。

ペンダントを探してみたが、どうやら無い様だ。

次は家庭科室、技術室、と順に探してみたが未だ収穫は0だ。

道中は”死神サン”が襲って来ることは無く、スムーズに進んだ。

だが、ペンダントは無い。

そこで桜田は一つの考えに辿り着いた。

もしかすると、ペンダントは”死神サン”が多い場所に在るのかも…

そう考えた時、歓喜と共に肩をがくりと落とした。

私に人は撃てない。

なら”死神サン”と出会えば直ぐに殺られてしまう。

私は闘えない。

桜田は1人人気の無い場所を探すことにした。

希望が無い訳ではない。

現に図書室にあった。

今は、”死神サン”が全く巡回していない2年教室を探していた。

出てきて!ペンダント!でも、稲川君にも生きて欲しいし……ううん!駄目よ!吉永君の願いにあったもん!

稲川君に負けるなって。

桜田は頬をピシャピシャと叩いて魂を詰めた。


◇◇◇◇◇


「いやったぁぁああ! あった!」

翔は音楽室を跳び跳ね、地団駄を喜びの意味に使った。

手には青い、輝く綺麗なペンダント。

その中央には『校』と書かれていた。

「『西』と『校』……」

今までに手に入れたペンダント2つを並べて考え込む。

西…校…西…校…西…校…西校…西校?!

「まさか?!」

しかし、翔はその先を考えたくなかった。

結論に至ると、最悪な考えが頭によぎる気がしたからだ。

「……ま、まさかな……」

翔は苦い笑いを浮かべた。

「まあいいや。これで2つ目! あと半分!」

もしかしたら残りは相手チームかもしれない…と頭をよぎる。

「2対1はちょっときついな」

翔が思い浮かべたのは吉永と桜田。

杉山はもう還らない。

自分1人だ。

もし、銃撃戦にでもなったらこっちに勝ち目は無い。

翔はそう思っていた。

『♪♪♪♪♪』

「! 校歌!? まさか?!」

『水面~にう~つる美し~きか…ブッ』

2番のサビ出前で校歌は途切れた。

『エー、イキナリオ呼ビタテシテ申シ訳アリマセン。至急体育館ヘ来テ下サイ。尚、体育館ヘノ道ハ室内通路カラ来テ下サイ』

「…………何だ…」

室内通路…それは渡り廊下のことか。

渡り廊下は一年フロアから三年フロアを繋いでおり、その中間に体育館にも繋がる道がある。

渡り廊下自体はTの様な形になっている。

『十分以内!』

スピーカーから大音量の声が漏れてきた。

キーンと耳鳴りがする。

「声でかすぎ」

翔は急に痒くなった耳をほじくりながら音楽室を出た。

「!! うわっ!」

その途端に翔は巡回中…かどうかは分からないが”死神サン”と鉢合わせしてしまった。

しかし、”死神サン”は襲う様なことはせず、ただ立ち尽くした。

「え、何も……」

翔は軽く会釈し、(何故会釈したのか自分でも分からなかった)渡り廊下を目指した。

渡り廊下へ向かっている途中、『ア、ソレカラ参加者同士ノ殺シ合イハ今回ハ禁止デス』

「ああもう! 一気に言ってくれよな!」

翔は舌打ち繰り返す。

渡り廊下まで来た。

Tの字を右に曲がる。

「わっ!」

「うわあ!」

曲がってすぐの所に桜田がいたので背中に体当たりしてしまった。

「ご、御免…大丈夫?」

「あ…うん」

桜田がぎこちなく笑う。

くそったれ!このゲームのせいで桜田との距離がどんどん離れてるじゃねーか!

ばっきゃろー!

翔は桜田に笑顔を見せて「わりいな」とか言いつつ心で泣いた。


体育館は妙に寒かった。

「おい! 変な声野郎! 来たぞ!」

『変ナ声デハナイ!』

「あ! やっぱり俺達の声そっちにも聴こえてんじゃねーか! 嘘付きやがって!」

『トンダ勘違イ! 私ハ無視シタノミ! 聴コエテイナイトハ一言モ言ってイナイ』

「くっ!詐欺だ…」

『? 何カ言ッタカ?』

「………………」

『デハ、ココニ来テモラッタ訳ヲ言オウ。オ達前2人ニハ…』

「おい! ちょっと待て! まだ参加者全員来て無いんじゃねーか?」

『何ヲ。生存者ハ君達2人ダケジャナイノカ? 監視カメラデミテイタガ、全員死亡シテイタ』

「本当なのか?! 桜田! 吉永も?」

桜田は下を向いてこくっと頷いた。

翔は腕を外膝に打ち付ける。

くそ!

「お前だけは許さない!」

『……デハ本題ニ入リマス』

「無視するなぁ!」

『2人ニハ青イ”死神サン”ト戦って頂キマス』

「? 何故だ」

翔は声の主に怒鳴るのを諦めた。

『彼ハペンダントヲ所持シテイマス』

「…成る程。殺しゃあいいんだな!」

『ソノ通リ。タダシ、2人デ協力シテ下サイ』

「はあ? じ、じゃあ、青死神のペンダントは?」

『ソレハ善ハ急ゲ、早イ者勝ちデスヨ!』

声の主は楽しそうに笑う。

「……」翔は言葉を失う。

「い、稲川君……」

「ん?」

「私は……私は本気で行くから!」

「!! ……え…」

桜田の目は本物だ。

嘘偽りない覚悟の瞳。

そうだ、俺も杉山に…

「…ああ。俺もそのつもりだ」

『フム。下ラナイ友情劇ハ終ワリマシタカ?』

声の主は面倒臭そうに聞く。

『ソレデハ、始メマスヨ。ブチッ』

回線は途絶えた。

闘いが始まる。

お互いの殺し合いは禁止。

だがペンダントは早い者勝ち。

この生き地獄のルールの中に2人は飛び込むことになる。


がちゃん…

体育館の端のドアが開いた。

青い装束の”死神サン”。

手には死神らしい鎌がある。

仮面は通常と違い、怒り顔だ。

そこからは気迫というよりも怨念のような物を感じる。

ズガアアン

翔のすぐ真横で響く銃声。

桜田だ。

手には体とは不釣り合いなマグナム。

その銃口の先から白い煙が出ていた。


桜田は目覚めていた。

自分の中に宿した真の才能を発揮させたのだ。


桜田の祖父はイタリアでかなり有名な殺し屋だった。

もちろん日本人だが。

その血が桜田には色濃く流れていた。

桜田の本性が、この過酷な環境の中でついに剥き出しになったのだ。


青死神は肩に命中した弾丸を何も無かったかの様にこちらに向かって歩き出した。

「おいおい、やるねぇ、桜田」

翔は自分の背筋がぞくっとなるのを感じた。


現在時刻 十時五十分

ゲーム開始から約五時間

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