10時限目 蠍|(サソリ)
そろそろ、ハジマリノ編もクライマックスですね。
◇◇◇◇◇
ぐちゃ……にちゅ……べちゃぁ……
翔と杉山は現実とは言いがたい光景を前に動けないでいた。
ぐちゃぐちゃになった体の破片の上にもうひとつの体が現れた。
「………マジか」
「す、杉山、それの充電は?」
翔がレールガンを指差した。
「空だ」
「くそ」
この現状を前に2人は驚く程冷静だった。
いや、冷静で居ようとした。
少しでも理性が崩れれば、今にも叫び出しそうだ。
狂っている。
有り得ない。
こんな所でこんな事をしてることもだが、目の前にいるこいつは……
何なんだ……何なんだよ………
「何なんだよ!」
翔は気付くと、叫んでいた。
サソリはそれを待っていたかの様に此方に向かって来た。
「ちいっ! 逃げるぞ! 杉山!」
翔は立ち尽くす杉山の腕を引っ張る。
が……びくともしない。
その間にもサソリは迫って来ている。
「おい! 杉山! どうした!?」
翔は何度も杉山の腕を引いた。
「俺は…残る」
「はあ? 何言ってんだ! 馬鹿野郎! 一緒に逃げるんだよ! 早く!」
「離せ…」
杉山はうっとうしいという様に翔の手を振り払った。
そして手にマシンガンを持つ。
「翔、俺はお前に出逢えて本当に良かった。恋愛感情とかそういうの抜きで大好きだ。これからも一緒にいたい」
サソリが立ち止まる。
何か雄叫びの様な物を挙げた。
「何…何死ぬ間際みたいなこと言ってんだ! ふざけんな!」
「はは。その台詞、何回言われたかなぁ。……楽しかった。この短い人生。お前という人間がいたからこそだ。翔、ありがとう。お前は生きろ。そしてこの忌まわしい、下らないゲームを終わらせろ」
「とぼけてんじゃねぇ! くそデブが!」
「……いいから、行け翔」
「行かない」
「いや、行くんだ。ほら」
「ここを動かない」
「いいから、行けぇええええ!!!」
翔は驚く。
杉山はここまで覚悟していたというのか。
なのに、俺は……
自然と涙が頬を伝う。
「いいか、翔。お前は他の奴らとは違う。お前は特別なんだ!」
「はっ? ど、どういう…」
「とにかく、お前は死んじゃならねぇ。死ぬな! これは命令だ! 行け」
翔は杉山には見えていないと知りながらもこくりと頷き、杉山の向く方向とは逆に走りだした。
目から溢れる水滴を拭う。
杉山…お前の言う通り、俺は生きる。絶対生き残ってやる!そう心と杉山に誓い、翔は走り続けた。
足は何処へ向かっているのか……。
自分にも分からなかった。
「…これは命令だ! 行け」
そう言った後、杉山は翔が頷いたのを感じ取った。
そしてたったったっという軽快な走る音。
「生きろよ、翔」
杉山は涙を流しながら笑っていた。
そして…
「よぉ! くそサソリ! お前の正体…いや、お前達の正体は分かった。おおっと! 襲っても無駄。」
サソリはどうやら人間の言葉が分かる様だ。
ははーん。TVの時も分かってたのか。
「どの道、お前達の正体は……?! おいおい、マジか」
杉山はぼやける視界を晴らそうと目を拭う。
視界に飛び込んで来たのは、赤い赤い赤い。
十数人の”死神サン”だった。
杉山を取り囲む様にして並んでいた。
「おおお! 凄い焦り様だな。俺がお前達の正体を見極めたことでこのサソリが呼んだのか?」
………………………………沈黙
「答えないということは図星かぁ?」
尚も誰も何も言わない。
いや、話せないのかもしれない。
しかし…
「おい! スピーカー! 聴こえてんだろ!」
杉山は何処となく叫んだ。
『ホウ! 見抜イテイマシタカ!』
「ったりめーだろ。俺達を何だと思ってる」
『高校生』
「…ま、まあハズレじゃないな」
『トコロデ、ゴ用件ハ?』
「ああ。俺はもう死ぬ。だから最後に俺の質問に答えて欲しい」
『ハハハ。死ヌノナラ意味ハ無イノデハ?』
「真実を知って死ぬのと、得体の知れない奴に殺されるのとどっちがすっとするか分かるか?」
『成ル程』
「分かって無いな。まあいいや。じゃあ一つ目。お前達は◇◆□■●か?」
『ホホー! ソコマデ分カリマシタカ! 素晴ラシイ!』
「ふん。じゃあ次。……………、……………………?」
『……ソレハ答エナイデオキマショウ。デナケレバ、アナタガ質問シテイル意味ガ無クナリマスヨ?』
「まあそういうことになるがな」
『モウ質問ハイイデスネ?』
「ああ。もういいや」
『ハハハ。ソレデハ…』
◇◇◇◇◇
二○○五年 十月二十三日 午後十時五分
桜田、吉永の2人はまた図書室に隠れていた。
あの罠も仕掛け直してある。
「このパン、不味いな」
吉永は口に残ったパンをペットボトルの水で流し込む。
「ほお?|(そお?)」
桜田は美味しそうにパンを頬張っている。
味の感覚に差が出たのは家庭環境のせいだろう。
桜田はパンをごくりと飲み込み、吉永と同じ様に水を飲んだ。
「ふー。疲れたな」
「うん。ちょっとね」
桜田は首を傾けてにこっと笑った。
吉永はシカトした。
今までは吉永にあまり好感を持っていなかった桜田もこの状況の中、少し考えが変わった。
勿論恋愛感情は無い。
好きなのは…
「あのさ、桜田さ…」
「んー?」
「稲川のこと好きだよな?」
「ぶふっ!」
ペットボトルの水を飲んでいた桜田は口から水を吹き出した。
「ち、ちょっといきなり何てことを!」
「いや、ちょっと思っただけ。御免」
「いいけど…てか何で分かったの?」
「みんな噂してるし、お前の稲川に対する態度を見てりゃ直ぐ分かるよ」
「そ、そうかな…」
桜田は頬をポッと赤く染めた。
「一つ言うと、稲川もお前のこと好きだぜ?」
「え?」
今何て……
えええええ?!?!
「そそそそそ、それ本当?! マジか?!」
「う、うおお。本当だよ。てか汚い」
吉永が指す方向は桜田の口元。
透明な液体がとろりと垂れていた。
「わあ?! 涎!」
桜田は直ぐにぐいぐいと拭った。
「…………………あのさ」
「今度は何?」
「いや、あの、俺のさ。彼女にさ、伝えて欲しいことがあんだ」
「ちょっ!ー死ぬみたいなこと言わないで!」
「いや、もしもの話だよ、もしも! もしも、俺が死んだらさ、2年5組の真鍋に伝えてくれ。『大好きだ』ってな」
吉永が照れ臭そうに桜田を見ると、桜田は真剣な顔をしていた。
「そういうことは自分で言って下さいー!」
桜田は頬をぷーっと膨らましてそっぽを向いてしまった。
「……そうだな。生きてここを出よう」
「うん……うん?」
「何だ? どうした、桜田」
「吉永君、あれ……」
それは綺麗に輝くペンダントだった。
2人は大急ぎでそこへ向かう。
本と本の間に挟まってある、綺麗な青いペンダント。
中央には『口』と書いてある。
「口?」
「何のことかは分からないが、取り敢えずペンダントゲットだ! でかした桜田!」
桜田は「私に感謝しなー」とおどけて言った。
その時、
ガシャン!
「!」「!」
ドアの向こうに赤い装束を来た、”死神サン”居た。
圧倒的な存在感。
そいつは今、図書室のドアを開けようとしていた。
何度も何度も何度も、ドアを引く。
手に武器は無いんだろうか。
それでドア窓を叩き割ればいいのに。
今回、吉永はドアの罠にもう一工夫加えていた。
ドアを引く前にドア窓を割られて中に入られては意味が無いと、ドア窓にも仕掛けを作った。
ドア窓を割ると同時にそこから銃が出現し、割った人間を撃つというものだ。
まず、相手が窓を割る。
すると窓の破片が部屋側に落ちる。
破片が落ちるであろう場所には紙(本の切れ端)が置いてある。
それが破片で切れ、紙の力によって止められていた、ビニール紐に括られた銃が下に落ちようとする。
その銃の下にはバネ。
そのバネに持ち上げられた銃は、天井にぶち当たり、天井に仕掛けられたフックに引っ掛かる。それも引き金部分に。銃は斜めになり、窓の外にいる人間を上手く狙い撃つ。
これは天才のなせる技術だった。
成功するまで何度も試した。
弾は消しゴム。引き金はちょっとの圧力でも動く様調整。
仕掛け、調整、試行、その全てをほんの短時間でやってのけたのだ。
天才としか言い様が無い。
ガシャン、ガシャン。
未だに”死神サン”はドアを引いている。
ドア窓!ドア窓!ドア窓!ドア窓!ドア窓!
吉永は呪文の様に何度も頭の中で唱え続けた。
そして”死神サン”は気づいた。
ドア窓に向かって、武器を取り出した。
それは長い斧。
ブン!
そんな音が聴こえた気がした。
バリリン!
ガラスが割れる音。
バシッ
紙が切れた。
バイッ
バネの音…ズガァアアアン!
そして銃声。
弾丸は”死神サン”の脳天に直撃した。
ギュルルルルルルル…ブシ!
頭の中で回転した弾丸は脳内を食い破り、最後に”死神サン”の後頭部を大きく破壊してその姿を現した。
びちゃびちゃとその脳ミソが垂れる。
そしてゆっくりと”死神サン”は倒れた。
「よし!」
吉永は小さく叫ぶ。
「わーいわーい!」
桜田は跳びはねて気持ちを表現した。
「よし、桜田、ここから早く…」
ズガァアアアン
「う………」
「え……吉永君?」
”死神サン”は割れた窓にしがみ付きながら、此方に銃口を向けていた。
あれ程の傷を負っても尚生きているとは…普通の者なら考えられない。
銃はどうやら、あの仕掛けに使った銃らしい。
”死神サン”はそのまま、床に伏した。
「くっ! ……」
腹を押さえる吉永。
脇腹からじわぁっとあかい鮮血が滲み出ている。
「吉永君! 吉永君!」
桜田は大粒の涙を溢し泣いている。
「泣くな、桜田。なあ、桜田。最後に一つ頼みてーことがある。げほ! げほ!」
吉永は血へどを吐き出した。
「彼女のこと!? まかせて、必ず…」
「ちげぇよ。俺が頼みてぇのは、桜田、この、このゲームを終わらせろ。この糞みたいなゲームをな。上本に頼まれてたけど…俺じゃ無理だった。だからよ…」
「分かった! 分かったよ! 吉永君!」
「へ…。あと一つ…稲川に負け…んな………」
大好きだったよ……真鍋……
吉永は静かに眠るように息を引き取った。
現在時刻 十時十五分
ゲーム開始から、約四時間十五分




