やけくそ
「なんだありゃ」
思わず出た呟きはイケメン主人公というより雑魚の脇役みたいなものだが仕方あるまい。
俺の名前は池面太郎。池面・太郎ではなく池・面太郎だ。
高学歴、高収入、高身長でルックスはイケメン。足も長い人生の勝ち組だ。
もっとも最近は転職したばっかで給料がちと落ちたのだがな。
辞めた理由は前の職場がイヤになったとかじゃなくてまぁあれだ。
上司の紹介の見合い相手にフられてからと言うもの上司に気を使われていたのが逆に精神的に辛かったのと相手の人のことを思い出して辛くなるから逃げるように辞めた感じだ。
日本は基本的に転職野郎に優しくない国柄でそこは嫌いだ。
入ったばっかで場の空気がまだわかってない、狭い職場のローカルルールを知らない、教えなければならない事があるからと色々と理由をつけて人の給料を減らしにきおってからに。
そんな言い訳で減らす事に理由をつけるのなら俺が優秀な分に優秀料金払えやボケと言って暴れたくなるがまぁ金に困ってるわけでもないのでそこまで細かいことは言うまい。俺ももう言い年した大人だからな。
本来は大阪在住の俺様が新人だからというだけでわざわざ片田舎の東京なんぞに2週間も研修で行かなきゃらならん事も我慢してやるよ。
ま、それはそれとして人の足を引っ張る能力以外は全てにおいて俺より劣るクズどもとの付き合いの為に酒飲んでとした後の帰り道。
一人で酒が落ちるまでブラブラと歩きながら、そういえば東京のデートスポットのお台場の海岸とやらを見た事無かったなと思い出した俺は、もう夜で日も沈んでるが軽く見てみるかと思ってそっちに行く事にした。
お台場といえば1分の1スケールのロボットの置物が云々言われた時に興味はあったのだが超都会大阪在住の俺が東京なんて片田舎に行くのをイヤだとめんどくさがったから結局見に行けなかったこともあったっけ。
あの頃は若かったものよ。
そう思ってるうちにお台場に到着した。
夜のデートスポットなんて人が居そうなもんだが海がきちゃない東京らしく人の気配はあんまり感じなかった。
まぁ海がきちゃないのは東京だけじゃないので別にそこまで東京の悪口を言ってるわけではないのだが。
それにしても臭いな。
で、お台場がなんぼのもんじゃいと思いながら見たがまぁ普通だったな。
想像通り、大した物ではなかったぜ。
そう思ってた頃が俺にもありました。
しかしそれは俺の思い違いだったらしい。
俺は今まで見た事がないものを見せられた。
なんだあれは、一体何なのだあれは。
そう思わずには居られない。
東京ではあれが普通なのだろうか。
恐ろしい……
俺はイケメンなので視力は2.0以上ある。
ちゃんと測ったのは随分前だが今でも多分4~4.5くらいはあるだろう。
夜目も結構利くのだ。知り合いの忍者に忍者にならないかとスカウトされた事もあるレベルだ。
そんな俺だから遠くでもはっきりと見えた。
お台場の海岸に3人の人間、内訳は男が1人で女が2人。
顔立ちは男は贔屓目に見て普通くらいの……子供か? 高校生か大学生かは判らんが20かそれより下くらいだろう。
女の方は20前後と20半ばくらいか? 顔のほうは男の方とつり合ってない位に整ってるがまぁ世の中ブサイク男が何故か美女にモテる事も有るしそう不思議に思うものでもあるまい。
普通かそれ以下くらいの子供が美人といえるレベルの女2人を連れ歩いてるのもまぁありえない光景ではないのだ。
俺も好みの女は世間一般で言われるブサイクで性格が悪い女という事になってしまうからな。人の趣味にとやかく言う気にはならん。
で、それだけならありふれた光景なのに何が俺を驚かせているのかと言うと、男と20半ばくらいの方の女のケツに火がついているのだ。
別に何かにせっつかれて期限ギリギリの状態の比ゆ表現ではない。
本当にケツに火がついてるのだ。
ケツの穴が火炎放射器になってるかのようにボーボー燃えているのだ。
いくら俺がクール系イケメン主人公とはいえあんな光景見せられれば
「なんだありゃ」
と、素の反応をしてしまうのも仕方あるまい。
その後、ケツから火を出す男と女がケツの燃えてない女をツープラトンのブレーンバスターで綺麗に投げたら火が消えてしまった。
面白かったからもっと見てたかったんだがなぁ。
3人の男女はケツから火が消えた後も海岸でじゃれあっていたがもう火が出ることも無さそうだし俺はその場を立ち去った。
しかしあれは一体どういう現象なんだろうか?
オナラでは有るまい。
ジャプンで昔やってた漫画のキャラがオナラを燃やして強敵と戦うシーンもあったが俺の経験上オナラじゃああはならない。
どういう経験かは聞くな。
それはさておき賢い俺はすっかりあの現象に夢中だ。
翌日の仕事中でも表面上は周りに合わせながらも脳内では海岸で見たアレの事で頭が一杯だ。
俺は優秀なので表面上の部分だけで取り繕うだけでも周りの連中よりよほど優秀にやれるので仕事中にケツファイヤーの事を考えていてもやる事はやっているので給料泥棒にはならないのだ。
そして東京に居る間中ずっと考えていたのだが俺にはあの現象がわからない、という結論が出た。
翌日のニュースでなんかケツから火を出してハイジャックしたとかいうガキの話も出ていたが恐らく無関係であろう。
お台場で見たケツファイヤーの二人は完全に止めて制御していたのだから。
しかしケツから火が出て全然熱そうにしていないのが解せぬ。
あとどうやって継続的に火を出しているのか? この謎が解けないうちは俺が自分の身を実験台にして再現してみようとしても上手く行くまい。
優秀な手品師は体の中にパイプを通しているという話をギャグ格闘マンガで見たがアレのようなものなのだろうか?
だとしたら長期休暇のときにでも手術したいと思わざるを得ない。
しかし俺の勘はあの二人は体にメスを入れていないと言っている。
ケツから火を出してるように見えるあれ、手術で再現しようとするのなら恐らく太ももか左右のケツに燃料を入れ仙骨に沿うようにパイプを居れケツの穴の後ろから火の出口になる穴を設置する手術だろうが、あの時のツープラトンの投げと、その後のじゃれあいの動きを見るに体の中のパイプを気にしているような動きに見えなかったからだ。
いくら海の傍とは言え体の中に可燃性の燃料を入れた男女が無防備にあんなアクションをするとは思えないし、そもそもあんな不衛生な場所でプロレスをやっていたら装置に何らかの不備が出るのを気にしなくてはなるまい。
とてもそんな風に見えなかった以上、あの3人は生身でケツファイヤーを出して遊んでいたのだ。
あんな面白そうなことが俺以外に出来て俺に出来ないというのは到底許せることではない。
俺は東京での研修を終え大阪に帰ってきてからも真面目に仕事をするフリをしながらあの現象を自分で再現するにはどうするのが正解かと考え続けた。
人一倍頭が賢く優秀でハンサムでカッコイイ俺だが結局、答えは出なかった。
何日も徹夜続きで頭をフル回転させていた俺は精神的にやばい状況だったのだろう。
やけくそになってトイレでうんこをした後、オナラを燃やしてアレを再現してくれるわ! と考えるに至ってしまった。
別に何の勝算もなくやったわけではなく、今の俺は子供の頃と違いかなり自分の体を思い通りに操れるようになっていた事もあり、オナラも溜め込んだオナラを『ブッ』と一発で出し切るのでなく細く長いオナラを意図的に出す技術を身につけている。
普通に生きていくのには全く役に立たん技術だがどうしてもオナラが我慢できないのに静かな場所なんかでは、すかしっ屁が役に立つのさ。
それは兎も角だ、俺はもうあの現象は継続的におならを出し続けそれを燃やしていたのではないかと結論付け、早速自分でも再現してみたのだ。
翌日、ケツを火傷して病院に行く為に会社を遅刻する俺の姿があった。
人間、焼けクソになっちゃいかんね。
アナルファイヤーはつばこさん作『ちょっと変わった黒魔術を紹介します 』内の『海岸で自分と親友が女の子をブレーンバスターで投げるまでアナルが燃える黒魔術』参照です
黒魔術による不思議なアナルファイヤー現象なので物理的に真似をしないようにしましょう