うんこの話
「うん、この話は無かった事にしといてやろう。その方がそっちにとっても都合が良さそうだ」
てめえら元気でやってっか?
俺はいつも通りだな。
俺の名は池面太郎。池面・太郎ではない。池・面太郎だ。
高学歴、高収入、高身長で足が長く運動神経も抜群、運も良くてルックスはイケメンという完璧超人だ。
年齢は今や40代のナイスミドルだがまぁイケメンと言ってよかろう。
で、そんな俺だが現在はア……ジャスティス王朝という国に居る。
住んでる訳ではない。単にうちの国とアメ……ジャスティス王朝との国交を踏まえた話し合いに出向いているだけだ。
国王の俺自らが動いてするような事でも無いかも知れんが、まぁたまには外国に行きたいということよ。国王は滅多やたらに外に出ることも叶わんので、たまには外に出たいのだ。
そう、俺は独立国家、面太国の初代国王なのだ。国王になった経緯とか、そこら辺はどーでもいい。別に国王になったとかで俺がどう変わった訳でも無いしな。
さて、それで冒頭の台詞だがな。
うちの国は表向きは世界最大の石油産出国と、その他色々な技術を売りにしている国ということでもある。
国土面積はかなり狭いし人口も少ない上に、実は軍隊も持っていない国なので、どうも他国から舐められているように感じる。
だからだろうかな。
石油の売り上げや技術の放出と引き換えに、上から目線で『守ってやろう』という薄っぺらい意思が透けて見える話し合いにしかならなかった。
こっちがわざわざ国の代表、国王直々に出向いたのも良くなかったと言ったところか。
アメリ……ジャスティス王朝の連中は、こちらが自分から庇護下に入ろうとしているように見えていたのかもしれん。
細かくは言うまでも無いが、全体的に舐めた条件での友誼を結ぼうとしてたがったのだ。
大体からして、俺との話し合いの席についてるこいつ自身がアメリkじゃなくて、ジャスティス王朝の大統領ではなく、多少は上の方なのか知れんが一外交官でしか無い事からも、うちを下に見ているのが良くわかる。
これだからアメ公もといジャスティス王朝の連中は嫌いなんだ。バイクは好きだがな。
俺は他人を見下すのは大好きだが、他人に見下されるのは大嫌いでな。
ともあれ、そういう事もあって、超上から目線でバカにするように言ってやったのさ。
ちなみにテーブルの上に足を投げ出して仰け反った、超偉そうな態度で、だ。偉そうってか、実際に偉いんだがな。
「なっ」
俺のその言葉、アホどもは理解するのに1~2呼吸くらいの間を要していた。
「ふ、ふふふ。何を言い出すかと思えば」
「何を言い出すもクソも無い。俺の国は独立国家よ。他所からの圧力なんぞを受ける理由は一切無いな」
元より話し合いなんぞするつもりでここに来たわけではない。ただその事を言いに来ただけだ。
「石油の販売はお前らの態度次第で今まで通りに続けてやっても良かったんだがヤレヤレ。お前らの態度が気に入らんから値段は引き上げる事にしよう」
ニヤニヤ笑いながらアホどもを見下す俺。超気分が良い。
イケメンたるもの、他人は見下すのが正義よな。つまり俺は全人類を見下す権利を持っているということ。そして権利とは使って何ぼのモンゆえに、俺は他人を見下す態度を隠すつもりは一切無いのだ。
そうしていろと、逆に落ち着きを取り戻したのか。
外交官の野郎はどっしりと椅子に深く座りなおし、小物のクセに大物ぶった態度を取り出した。
「……成り上がりのジャップの分際で調子に乗りおって」
「ジャップじゃねえよ」
日本国籍なんぞとっくに捨てたわ。
と、俺が余裕の態度で見下しているのに対し、対面の雑魚は指を鳴らす。
すると部屋に居たガードマンのマッチョどもが全員懐から拳銃を抜いてこちらに向けてきた。
指を鳴らして合図なんて生で見たの初めてだが……現実で見るとちょっとマヌケだな。
「君たちには拒否権なんて無いのだよ」
「おいおい、今日は話し合いじゃなかったのか?」
「これが、話し合いなのだよ」
雑魚がニヤリと口を歪め、手を振り下ろす。
それで全員が銃をバキュンバキュンと撃ってくればサマになったのかも知れんが、その手を下ろした合図は銃をもったマッチョどもがずいっと距離を詰めさせるだけのものでしかなかった。
なんだかなぁ。
「君に拒否権は無い。君は我々に言われたとおりの契約書にサインをするだけでいい。黄色猿には悪く無い条件だろう?」
「これだから白人の虚弱児は嫌いなんだよ。お前らの肌の色は気持ち悪い。見た目もキモイ。ついでに脳味噌も虚弱児か?」
「なんだとっ」
ありったけの本音を篭めてバカをバカと言ってやると、バカはバカだからバカッと怒る。
マッチョマンどもも俺の発言にムカついたのか、表情を歪めるがそれだけだ。
「くっ、痛い目を見ないと自分の立場も理解できんようだ。おい、足を撃て」
そして対面の雑魚はマッチョに命令を下すが、その命令が実行されることは無い。
何故か。
それは俺の後ろに控える進君の力によるものだ。
見た目は10代かそこらの少年に見える進君。
国王である俺が今回のお話の秘書兼護衛として連れてきたのは彼一人だ。
ここの連中どもは精々が小姓として連れてきた程度にしか思ってなかったようだがそれは違う。
彼、御飯ヶ進君は俺の設計図を元にわが国の開発部が作り上げたスーパーロボットなのだ。
ちなみに設計図の段階ではブス女だったのに美少年型にされて俺がブチ切れたのは言うまでもなかろう。
そんな彼の性能だが粒子サイズのマシンを常に散布して、外敵の体内に滑り込み間接をロックして動きを封じたり出来る超性能だ。
無論、間接をロックするだけでなくこちらの指示通りに動かすことも余裕で出来る。
さらに彼の護衛範囲内に居れば仮に近所で核爆発が起きても、俺の体に影響が出ないようにガードすることも可能という能力も備えられている。
今はマッチョどもの間接をロックしちゃいるが、ぶっちゃけ銃口を体に押し付けて引き金を引かれても、俺の体に毛ほどの傷も付かないのだ。すごいね、進君。
そんな進君が居るからこそ、俺は余裕だったわけだな。
イケメンな俺にかかれば進君が居なくとも銃で武装したマッチョどもくらいは余裕だが、一応外国に乗り込むわけだから食事とか空気に毒が入ってる可能性もあるので護衛として連れてきたわけだ。
で、その説明をしてやると雑魚は
「ありえん、そんな技術力が……」
なんて言っているが、有りえているからこその今の状況よ。アホめ。
そろそろ立場を理解できたかと思ったが、すると笑い出して雑魚は言う。
「そんな技術があるとは驚いたが、だったらお前らを帰すわけにはいかんな。そういう物は我が国でこそ、有効に使われるべきなのだ」
と。
この部屋は監視カメラでじっくり見られているから今頃国を挙げて俺たちに対する包囲網を敷いていて、俺たちはこの国から脱出することなんぞ出来ないぞ、という脅しだ。
それに対して俺はこういうのだ。
「進君が既にハッキングしてお前らのカメラの映像は編集している」
ついでに言うなら。
「逆にお前らがうちの国に舐めた態度の条約を出して、銃で脅している映像を全世界のテレビ局をハッキングして流す事も可能だ」
「ば、バカな……」
馬鹿はお前である。
とは言え、だ。余計なことを外国人に知らせすぎるのは良くないのである。だから。
「進君、こいつらの脳を書き換えて我が国に都合の言い人形にしちゃいなさい」
「はい」
これにて一件落着である。
「とまぁそんな感じでこっちでの仕事終わったしよー、帰国までの間にちょっとこの国の観光してきて良いよね」
『良くないです。ただでさえ王様はフラフラと遊びまわりすぎなんだからちゃんと国に帰ってきてください』
「だが断る」
本国にも連絡したのでこれから少しの間は自由時間である。
ちょいとばかしアメリカ合衆……ではなくジャスティス王朝をぶらっと見て回ってもバチは当たるまい。
「王様、いいんですか? 帰らなくても」
「俺がルールブックだから良いんだよ」
そういう事である。
でもまぁ、俺は自分の仕事に責任を持つ大人の男である。イケメンである。
だから観光なんて半日もせずに帰る予定では有るが。
「折角だから飯でも食いに行こうぜ。食道楽の土産話でもしてやれば国の連中も満足するだろ」
「さいですか」
という事で、俺と進君はこの国の飯屋で飯を食っていったのであった。
進君はロボットだが超高性能な為に御飯を食べてうんこも出来る優れものよ。
「ただいまー。これお土産のロブスター」
「うるせえバカ! とっとと仕事しろや!」
「おいおい君ぃ。俺は王様だぞ」
「普通の王様は外交をお忍びでやって一人で話を進めたりしねえんだよ! いくら雑魚い国との外交でもちゃんと何するか言ってから動けバカ!」
「バカっていうほうがバカなんだよ。それはそうと俺王様やぞ、もうちょっと口の聞き方に気をつけろよ」
「うるせえバカ! 良いから仕事しろよや!」
めんどくせえなぁ。外交の際の外国との話し合いとかなんて、進君からのリアルタイムの通信でバッチリ聞いてただろうし国の方針なんてわかりそうなもんなのに。
まぁこの国は良くも悪くも俺があってこその国だから、何か決めるにしても俺が居ないと始まらない部分はあるし、こやつらが勝手に暴走できないというのもわからなくは無い。
「それはそうと食べすぎでポンポン痛い」
「そういうのは後で良いから次は石油の生産量を変える必要がありそうなので先にそちらの話から」
うんこの後で良いだろ!……それから1時間後。
「トイレ行きたい」
「それよりも今後、外国からの圧力が表面に出てくることと思いますのでその対応に対してですが」
うるせえなぁ。
ちなみにうちの国は小国だし軍隊も無いから、しょっちゅう他の国からの嫌がらせもあったりしたが、そういうのに対する対応は色々有るのだ。まぁそんな細かいことは別にどうでもいいか。
今はうんこだ。
「で、国民に向けての政策や説明ですが……」
「だから先にトイレ……」
「そんな話は後で良いんです! 王様は真面目にやってください!」
くそう。うちの国の連中は優秀なのは良いが真面目なのが駄目だな。
「あー、もう。めんどくせえなぁ。たかが一国との外交で内外に向けてこんな面倒な目を見るくらいなら、世界征服しちまった方が楽かも知れん。オチオチうんこも出来やしない」
「はいはい、良いからとっとと真面目に」
「わかったわかった、やってやるから」
そういう事になった。
おなか痛いのに頑張る俺、超かっこいい。
結局会議はそれから4時間ほどかかって終わった。
超おなか痛い。
「んじゃ今日はこれくらいで良いだろ。解散!」
そして俺の号令の元、国の重鎮たちも堅苦しい雰囲気が柔らぐのであった。
オンとオフの切り替えは有能な人間に無くてはならない能力なのだ。
「あ、そうだ王様。外国で観光してたんですよね。どんなところ回ってたんですか」
「そういやロブスターが土産だったっけ。何食ってたんです?」
「カニとか食いに行きましょうよ」
「向こうのコミックとか無いんですか?」
だが限度があるだろ。
気安いぞ貴様ら!
「いや、そういう話は後で良いから……」
「いやいや、土産話してくださいよぉー」
「待て、俺の話を聞け」
「それよりロブスター貰ってって良いですか? 家族に持って帰りたいし」
「俺もなんかください」
「次に外国行く時は俺も連れてってくださいね」
俺の言うこと聞けよ!
「うるせえ! 今はそんな話っ」
いい加減イライラした俺は、つい腹の底からでかい声を出して怒鳴ってしまったのだが、それが良くなかったらしい。
腹の中身はパンパンだというのに空気を吐き出す前の一呼吸、その一押しが効いた。
ぶりぶりぶー!
「……」
「……」
「……」
「……」
何時間も溜められたうんこが出たのだ。
出てしまったのだ。
「……え、ええっと、何の話でしたっけ」
「うんこの話だよ!」
クソァ!
終わり