ヤマネ編Ⅰ
わたしの名まえはやまねといいます。
わたしのおへやはきょうかいの地下にあります。おおきくてふかふかな白いベッドがおいてあって、ここでいつもねています。
このベッドは『てんがい』というおおいが上についているから、ねているとおひめさまみたいなきぶんになります。
このきょうかいにはほかにも白ちゃんがすんでいます。白ちゃんはわたしよりもおねえさんです。
ねこさんというかっこいいお兄さんもいます。
「ーーマネ、ヤマネ!」
気がつくとわたしはベッドの上で、ビルに体をゆすられていました。
「大丈夫か? またうなされてたけど」
「うん、へいき」
ついさっきまでこわい顔のおじさんにおいかけられていたはずなのにへんだなと思いました。
「ねぇビル、わたしさっきまでおにわにいたのにいつのまにかえってきたのかな?」
「そりゃ夢だ」
「ゆめ?」
「そうだ。それより起きてられるうちに早く食っちゃえよ」
テーブルにはビルがもってきてくれたパンとサラダがのっています。
ビルはこうして毎日わたしのごはんをもってきてくれます。
「うん、いただきます」
パンはバターのかおりがして、サラダはくるみいりでとってもおいしそうです。
でも今はごはんよりもおはなしがしたいです。
「あのねビル、今日わたし……」
サラダのコーンを一口たべてからビルにはなしかけました。
「あーとーで! おまえこれ以上やせたらエーヨーシッチョーになっちゃうぞ!」
「なあにそれ?」
「いいから早く食う!」
白ちゃんがおいていったひこうきの図かんから目をはなさないままビルは言いました。
さっき夢で見たこととか、たくさんおはなししたいこと、あるのにな。
わたしは長く起きていることができません。
ねないようにがんばってみるけど、どうしてもねむくなっていつの間にかねてしまっています。
だから今じぶんが起きているのかねているのか良くわからないことがよくあります。
何でこんなにねむくなるのかわかりません。
それによくへんなものがわたしのまえにあらわれるようになりました。黒いかげみたいなものとか、歯のはえてるりんごとか。
へんなものたちはこわいし、おはなしはさいごまでできないしすこしかなしいです。
きっとあの女のひとのせいでせかいがこわれちゃったんだと思います。
ごはんをぜんぶ食べおわって、こんどこそおはなしをしようとしました。
そのとき、とつぜんへやの中にへんなくろいかげの人みたいなのが入ってきました。
こわくてわたしはさけびました。
ビルがおどろいた顔でわたしに何か言っていた気がしたけど、わたしのひめいと重なってよく聞こえません。
かげはわたしにゆっくり近付いてきて、わたしに手をのばしてきました。
きっとあれにさわられたらしんじゃうんだ。体がすくんでにげることもできないで、おもわずぎゅっと目をとじました。
でもしばらくそのままでいたけどなにもおこりません。
あれっと思っておそるおそる目を開けると、いつのまにかわたしはお母さんといっしょに立っていました。
お母さんの他にもたくさんの人がいます。
理由はわからないけど、すごく不安な気分になってよくまわりを見回してみました。
いろんな色のきれいなステンドグラス。
木の長いつくえ。
高い天井。
ここはきょうかい?
みんな前の方を見てる。
バラのもようのしろいさいだん。
そこで何かえんぜつしている女の人。
時間が進むにつれてどんどん不安が大きくなっていきます。
もうすぐかねがなる。
となりに立っているお母さんを見上げました。
「にげよう」って言いたいのにうまく声が出せません。
女の人のえんぜつはまだ続いています。
にげなきゃ。
つくえと人のあいだをすりぬけて、大いそぎで外をめざします。いそいでるのにわたしの体はゆっくりとしかうごいてくれません。ゼリーの中で走ってるみたい。
どきどきしすぎてむねがいたいです。
大きなとびらに手をかけたとき、うしろのほうでずっと聞こえてた女の人のこえがぴたりとやみました。
きょうかいのかねがなりはじめました。
みちゃいけない。
でも私の体はかってにうしろをふりかえろうと動いていきます。
かねのせいで声はきこえない。
でもみんなさけんでる。
女の人だけさんでない。
さけべない。
だって女の人はーー