1
ユティアが差し出した手を、いつもしているようにシオンは軽く握った。
エンディーンの気配などまるで知らないし、人を探す魔道を成功させたこともないユティアではあるが、シオンに対等であるかのように扱ってもらえたことが何より嬉しくて、つい頷いてしまった。
だが、シオンの手の冷たさを感じたとき、瑣末の不安が徐々に広がって来るのを感じた。
(大丈夫、かな……わたしじゃむしろ、邪魔しちゃうんじゃ)
その不安は、当然のようにすぐにシオンに伝わる。
「いつものように集中してくださいね」
「でも、どうしてわたしを?」
シオン一人のほうが、このように揺れることもなく、簡単だろうと思ってしまう自分の未熟さは少しなさけないのだが、実際そのとおりだった。
そんなユティアの戸惑いに、シオンはあっさりと答える。
「貴女が、探そうと言ったのでしょう? 貴女がやらなくては」
「―――あ」
身勝手で、短絡的な言葉だった。
自分で出来ないとわかっていることを、シオンがいるからなんとかなると他力本願で口にした。
(……そんなつもりじゃ、なかったのに)
ただ、リトルセのためになればと、思っただけで。
「あんたが自分から何かしたいなんて、言ったことねぇだろ」
「?」
カディールに指摘されるまで、ユティアにはそんな自覚もなかった。
何かを望むことも許されなかった日々を、まるで遠い遠い昔にしてしまえるほど、カディールとシオンはユティアにあらゆるものを与えてくれる。
誰かを、何かを、愛するこころ。
「そんなあんたがやりたいって言ったんだ。自分の言葉ってのは責任だ」
カディールの強い口調は、不安をゆっくりと取り除いてくれる。
「ユティア、私がいるのだからできますよ」
「うん……」
二人を信じようとユティアは改めて思う。その責任という意味をまだ、深く知らないのだとしても……。
そばには、リトルセもじっと見守ってくれている。その期待には応えたいと純粋に思うから。
軽く、目を閉じた。
その中で、屋敷の外にいることを想像して。
エンディーンの立ち姿を想像して。
そこから湧き上がる、揺れてどこへ向かうのかもわからない魔道力を、シオンがゆっくりと制御していく。
視界すべてに、白いもやがかかっているようだった。
見えない。
(―――リトルセの、大切な……ひと)
(どこに、いるの?)
徐々にユティアから、魔道力が溢れてくる。限界などないかのように。
「ユティア」
シオンの制止も、彼女には聞こえなかった。別の音に、かき消されていた。
『―――見つけた』
どこかでそんな、声が聞こえた。
やけに嬉しそうに、それでいて他人事のように。
それはユティアの空耳だったのかもしれない。
だが、同じ言葉を聴いたのか、シオンがはっと本能的にユティアから手を離していた。反対の手にある杖を、きつく握りなおしながら。
「おい、ユティアっ!」
「今は駄目っ」
いくつかの声が、鋭いはずなのにどこか遠くに聞こえた気がした。
(……どこへ―――)
どこへ行けばいいのだろう。