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「盗み聞きかい? ったくたち悪いねぇ君も」
堂々と聞けばいいのに、という言葉は飲み込んでおいた。
窓際に気配はあるのだが、それは姿を見せなかった。
「……疑われているのか?」
返る、低い声。
「あぁ、あのひとたぶんなんでも疑ってかかるタイプだしね」
ミントはあっさりとした返答を返す。あながち嘘ではないが、質問の返答として的確ではない言葉を。
「だって、シオンは知ってたと思うよ。カイゼの領主がサイロン家とつながってるってこと。それをわかってて、あえて知らないふりをしてさ、偶然を装って保護してもらうなんてよくやるよ」
サイロン家の名前を出したとき、シオンは厳しい表情をしていた。
それは驚愕や疑惑や過去の怨念などではなく、これからの成り行きに対する緊張だ。ミントはそう確信していた。
「……なぜあの男がそこまで知りうる」
このつながりは特別に秘密とされているわけではなかったが、あまり公にされていないのもたしかだ。エヴァン王国の人間でもないシオンが知る情報としては、深く入りすぎていると思われてもしかたがない。
「そんなことまで知らないよ。それ調べるの、君の役目じゃん」
「……―――」
もともと口数の多くないミントの『友人』は、返答に悩んだあげくただ押し黙ることに決めたようだ。ミントはいつも、寡黙な彼の代わりのように、二倍多くおしゃべりをしている気がする。
「少なくとも、あれは身分ある立場にいたはずだねぇ」
ミントは力のある貴族というわけではないが、それなりの地位ではある。だからこそわかる、貴族独特の身のこなしや作法、教養。シオンは何気ない態度を取ってはいるが、にじみ出る地までは隠し切れない。
もっとも彼は、その繊細すぎる容姿から、貴族らしい優雅な物腰というのがあまりにも似合いすぎていて、街人の中にいて恍惚の眼差しを向けられることはあっても、不審には思われないのだ。
「エリシャの貴族の……生き残りかな」
王家と違い、貴族は従順であれば処罰は免れたはずだ。カストゥール王国内での権力はないに等しいが、土地や財産の所有は認められたと聞いている。
「そういう地位にあったのなら、たしかにエヴァンの情報を得ていてもおかしくないかもねぇ。今の状況では困難だろうけど、不可能じゃない」
人の上に立つ立場にいたのならば好都合だ―――ミントは主観だけではそう思う。
「エリシャの民が……それも魔道使いが、あの王都でどうするか楽しみだよ」
ミントはけっして、慈善事業で個人を助けない。魔道使いと王都……この状況だからこそ彼らを助けて、王都への道を開かせた。
「リトルセ嬢も利用されるだろうけど、それはしかたない」
「―――……」
言葉は返らなかった。ただ、緊張だけが伝わってきた。
「ま、とりあえずあの三人、明日にでも出発するよ。よかったね」
とはいえ、彼はどんなことがあろうとリトルセを守ること以外にさしたる興味はないのかもしれないとミントは思う。
「いや……」
「あれ? よくないの? 急いでほしかったんじゃ」
「―――イデアが、来ている」
「なんだって……?」
今度はミントが沈黙する番だった。