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外側から帷が切り裂かれた。
抜き身の剣を持った男が、確認できるだけで五人、何の断りもなく部屋に入ってくる。
ユティアはシオンに抱きかかえられて、部屋の隅にうずくまっていた。
「おい。女が二人?」
「男と女が一人ずつじゃなかったのか」
侵入者たちは戸惑いの表情で部屋を見回した。ほかに誰かが隠れていると思ったのかもしれない。けれどこの殺風景な部屋に、隠れる場所などあるはずもないのはすぐにわかる。
「おい、ほかのやつはどこにいったんだ?」
シオンはユティアを離さずに少しだけ首を動かして、男たちのほうを見上げる。長い髪をさらさらと揺らして首を振った。
(……ほ、ほんものの女の人みたい)
おかげで恐怖がどこかに行ってしまった。それはそれで、感謝すべきことなのだろうけれど、自分よりも女性らしく振舞える男性を目の前にすると、さすがにあまり嬉しくはない。
「……まぁいい。とりあえずこいつらを連れていこう。ジュラ様が来る前にな」
男たちに無理やり立たされて、一階までの階段をシオンと手をつないで歩いた。
(本当に、女装……得意だったんだぁ)
仕種、表情、どれをとっても女性そのもの。金に任せて着飾る女たちはユティアも多く見てきたが、彼女たちよりもずっと妖艶で、美しかった。
一階に下りると、すでに神殿にいたほとんどの人々が、その場に集まっていてそれぞれ不安そうな表情を浮かべていた。
ジュラの仲間と思われる男たちに囲まれて、中央に座らされている。男たちの中にはまだ少年と呼べる年頃の子供たちもいて、レクトの姿もあったのだが、ユティアは気づかないふりをした。レクトのほうも同じようにしたから、ほっとした。ずるいと思いながら。
ジュラは黒衣を纏っていると聞いていたが、その場にはいなかった。
ユティアたちも囲まれている人々の隅のほうに座らされた。そこには少年を殺されたあの母親もいた。神殿で一日中祈っているのだろうか。
彼女もユティアを見つけて軽く会釈をした。シオンには気づかなかったようで、見知らぬ女性がそばにいることに少しだけ怪訝そうな表情を浮かべる。
(女の人にも気づかれない完璧な女装って……)
カディールの言葉が誇張ではないことを、こんな状況下で知ることになるとは思わなかったが、たしかに役には立っている。ここにシオンがいないと思わせておけば油断が生まれるからだ。
この部屋に囚われているのは三十人ほどだろうか、それを十人以上の男たちが囲んでいた。その中から一人、小柄で痩せた男が前に進み出てきた。
「今日からここは、ジュラさまの管轄になります」
なんの脈絡もなく、いきなりの宣言だった。ざわめく人々。
神殿に住んでいた神使いだけでなく、ユティアたちのような旅人もいる。毎日のように神殿で祈っているカイゼの住人もいる。
それぞれの立場から、ざわめきは大きく広がっていった。
だが、神殿というのは政とは一線を置いていて、厳密には国や町の所有物ではないはずだった。それを思い出して顔を上げようとしたユティアを、シオンの手が押さえる。静かに首を横に振った。
女装は完璧で、誰にも知られていなかったが、さすがに声を出したらばれてしまうのだろう。だが、何か言いたげな表情をしたのは一瞬だけだった。
「おとなしくしておれば、愚民といえども使い道はあろう」
神殿の入り口のほうから、衣擦れの音とともに黒衣の男が姿を見せた。神殿の中にあってあまりにも異様な格好に、ユティアは思わずシオンの袖に強くしがみついた。
急にしんと静まり返る。
緊迫して、自分の心臓の音すら聞こえていた。