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あたし、糸島美月は私立守定高校二年、十六歳である。

にょきにょきと伸びた身長は百六十七センチと平均より随分高い。しかも成長期は終わっていないらしく、まだ伸びるつもりらしいこの身体。みしみしと軋んで膝が痛い。もう良いというのに。

この身長さえなければ、容姿は至って普通。没個性!の自覚がある。

背中の中程まで伸びた黒髪を一つ結びにし、手入れをほとんどしていない顔はつるんとしていて地味だ。

女生徒のほとんどは学校にも化粧をしてきているが(一部の生徒は特殊メイクか?と言いたくなるくらいだ)あたしは自分で眉カットすらしていない。母親が勝手にやってくれる。更には「若さに甘えるな!」と、化粧水や日焼け止めなんかも付けられるので肌は綺麗だと思う。


自分で言うのもなんだが、一年からずっと首席で生徒会役員方の覚えもよろしい優等生であるあたしは一年から生徒会に在席しているのだ。

生徒会と部活を兼任するのは難しいので、中学から続けていた陸上は半年ほどで辞めてしまったが走るのは好きなので早朝ジョギングは続けている。


何と言うか。

自分でも可愛くない女だと思う。外見も、内面も。

社会に出れば、女のくせにとか言われる事間違いなし。そいつらをこてんぱんにする自信も実力も付けるつもりなので問題ないが。


こんなに可愛くない女を追い掛ける東光寺は、きっと頭がおかしいのだ。うん、間違いない。


神様が一つ願を叶えてくれるというのなら、五月末、あの男に出会う前に戻りたい。







「お帰りなさい。今日は捕まったんだ」


よれよれと教室に戻ったあたしに大変だったね、と愛らしく笑った「かづ」は、本当に可愛い。

身長はあたしより十センチは低いし、子供の頃から病弱だったので庇護欲をそそられるか細い肢体。男共が喜んで守ってあげたい!と手を挙げる女の子だ。

小作りな顔にばちんと大きな双眸は、びっちりと多くて長い睫毛に囲われている。ぽってりとした厚めの下唇が可愛い。きちんと手入れをされ、うっすらと化粧をしている彼女は文句のない美少女だ。



糸島香月。


信じられない遺伝子の悪戯だが、かづはあたしの双子の妹だ。しかも一卵性。

エコー写真を見せられても、他人の写真との取り違え、そうでなければ母子手帳の記入ミスだと信じて止まない。


顔の造りは一緒だと家族は言うが、それは嘘だ。あたしの睫毛はそんなに長くないし、目も大きくない。あたしは肉食動物でかづは草食動物。それくらい違うというのに。

騙されてやるもんか。

地味を好むあたしは自分の容姿に不満はないが、せめて名前は入れ換えて欲しかったとは思う。

美しい月、なんて、あたしの柄じゃない。小学生時分にわざと間違えて呼ばれた。あ、勿論鉄拳制裁を下したので、それは直ぐに止んだのだけど。

その時、あたしよりかづが怒っていたのに驚いた。

「みづちゃんは美しいもん」とか血迷った事を口走っていたので、とりあえず保健室に連れてってベッドに押し込んだっけ。

懐かしいなぁ。



「みづちゃん?」

「ああ、うん大丈夫」


ぼんやりと思い出に浸っていたあたしを不安げに眺めていたかづは、本当に?と念を押した。


「あれの相手で疲れただけだよ。あーもう消えればいいのに」

「みづちゃんが言うと、本当に消しそうだから怖い」


消える、じゃなくて消すと言っている辺りが、あたしを理解してくれてるなぁと思う。

でもね、と。かづは頬杖をしてあたしを上目使いに見上げてきた。これは男を確実に落とすテクニックだ!あたしが会得するのは無理で、無駄な技術である。


「東光寺くんに任せてみれば良いとあたしは思うよ?」

「かづが悪魔に!悪魔に乗っ取られた!」

「そんな訳ないし」

「ううう。酷いよぉ。あいつにあたしを売るんだ。あたしが要らなくなったのね!それならそう言ってよ!ひっそりと独りで商魂逞しく生きてやるんだから!」

「死んでやるぅーって言わないのが、みづちゃんだよねぇ。商魂って、何の商売始めるの?」

「突っ込むトコそこ?」

「「モモ」」


冷ややか声にあたしたちは振り返った。

モモはその声通りに冷たい印象を与える眼鏡っ子である。中身も冷凍庫より冷たい。

木城百華。

あたし同様、全く男受けしないクールビューティ。ズバズバと物を言うので女の子受けもあまり良くないが、ご近所さんで保育園から同じだったあたしたち双子とは馬が合い、物心付く前から一緒に居る。


「あんたたち息は合ってるわよね。ちゃんと双子に見えるわよ」


空いていた隣に腰を下ろしたモモはショートカットの黒髪を整えた。


「毎日飽きないわね、東光寺も、あんたも」

「何よ。逃げるのを見るのも飽きたから捕まれと、モモはそう言う訳か」


あたしがじろりと睨んでみてもモモは悪びれる様子もない。にまにまといやらしい笑みを浮かべている。


「別にぃ。あんたが逃げ回ってるの面白いし楽しいし?まだ飽きてないから続けていいわよ」

「他人事だよなー偉そうだなー」

「そーよ。他人事。私に被害がないなら、見てる分には面白い」


本当に冷たい女である。これと十六年の付き合いだというあたしたちも大概優しい女だ。うんうん。

でもさ、とモモはあたしをじろりと見遣った。


「みづは磨いてもらうべきだと思う」

「はっ!何を言うかなモモは!お昼に変なものでも食べた?」

「あんた自分のこととなると、本当にダメね。どこが卑下する容姿なの?」

「あたしは普通だ。かづみたいに可愛くないの!」

「素材は一緒よ?寧ろ、みづちゃんのが整ってて綺麗だし」


二人してあたしをじっと見るなというのだ。

あたしは深々と息を吐いて黙り込む。もう予鈴が鳴る時間だ。

あたしはこうなると話題を変えない限り口を開かない。それを知っている二人は顔を見合わせてから苦笑した。



誰が何と言おうとあたしは自分が目立つことをよしとしない。

それはかづと比較されるから、という訳ではない。かづは本当に可愛くていい子だ。

騒がしいのが嫌いで(クラス行事で騒ぐのも苦手だが、何故か毎回中心に立たされる。なぜだ)誰にも邪魔されず黙々と勉強したり読書に勤しむ事に幸せを感じる。

そんなあたしがアレと関わるなんて有り得ない。


あんな派手な男は友人としてもお断りだ!

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