異世界転移3秒で、ドラゴンスレイヤー!
さっき、神様っぽいやつがいた。
目を開けると、森にいた。
見知らぬ空、見知らぬ匂い、見知らぬ世界。
そう、異世界転移だ。
「やったぜ」
思わずガッツポーズが出た。
まずはステータス確認だろ、と思った瞬間だった。
空が、黒くなった。
「……は?」
影。
圧倒的な質量。
翼が風を裂き、森がざわめく。
巨大な赤いドラゴンだった。
「いやいや、初手でそれは反則だろ?」
言い終わる前に、俺は丸呑みにされた。
ぱっくんちょ、と。
******
「……は?」
ブリブリブリッ、ブリッ、とすごい音がした。
俺は一瞬、自分の耳を疑った。
ここは異世界だ。
剣と魔法の世界だ。
ドラゴンもいる。
神様っぽいのもいた。
だけど、今聞こえたのは、ファンタジーに要らない音だった。
アイドルがトイレに行かないように。
俺の憧れたファンタジーの王『ドラゴン』だって、こんな音は出さないはずだ。
「ええっ……。マジで?」
胃袋が激しく躍動する。
ごろごろごろっ……。
ぎゅるるるるるっ……。
外から苦しそうな咆哮が響いた。
『GERIIIIIIIIIIIッ!?』
「ちょっ、待てよ」
嫌な予感がする。
ものすごく嫌な予感がする。
ぐぐぐぐぐっ、と押され、流され、運ばれる。
「俺は、毒ですか?」
どこへ向かっているのか。
考えたくない。
だが、考えなくても分かる。
生物の構造なんて異世界でも大差ないはずだ。
「臭っ!? くさああああっ!」
勢いはどんどん加速する。
臭いもどんどん強くなる。
目が痛い。
鼻が痛い。
心も痛い。
「待て待て待て待て待て!」
光が見えた。
希望の光ではない。
人生でできれば一度も目にしたくない種類の光だ。
「いや、それは駄目だろ!!」
ブリッパッ!
俺は空へ放り出された。
飛んだ。
とても飛んだ。
信じられないくらい飛んだ。
ドラゴンの尻から放たれたとは思えないほど、美しい放物線だった。
「死因、ドラゴンの脱糞による墜落死」
空は青かった。
雲は白かった。
人類が手つかずの雄大な森が広がっていた。
「嫌すぎる……。死にたい」
遠くには険しい山々。
その向こうには、雪を頂いた山脈まで見える。
絶景だった。
「……いや、死ぬのか。これ」
異世界だ。
間違いなく異世界だ。
俺が夢見た冒険の世界が、そこにあった。
******
ベチャッ!
巨大なドラゴンだけに、うんこも巨大だった。
俺は、うんこに守られた。
うんこがクッションになったのだ。
「……助かった?」
助かったらしい。
全身は痛い。
心はもっと痛い。
だが、生きている。
少なくとも骨は折れていない。
うんこの中、俺はゆっくりと立ち上がった。
足元を見る。
うんこだった。
見渡す。
うんこだった。
振り返る。
やはりうんこだらけだった。
『SINUUUUUUUUUUUッ!』
ドラゴンの咆哮が轟いた。
見上げると、巨体が空中でふらついている。
翼が乱れる。
高度が落ちる。
どう見ても様子がおかしい。
「えっ……。」
不意に羽ばたきが止み、そのまま落下。
巨体が森に叩きつけられる。
地面が揺れた。
鳥たちが一斉に飛び立つ。
木々が大きく揺れる。
ファンファーレが高らかに鳴った。
「……は?」
色とりどりの紙吹雪が舞い、地面に落ちる寸前で消える。
どこからともなく光が差した。
神々しい。
やたら神々しい。
俺の周囲だけスポットライトみたいになっている。
「なんで?」
視界にウィンドウが浮かんだ。
『伝説のドラゴン:エンシェントルビードラゴンの討伐成功!』
「討伐してないんだけど?」
『獲得経験値:999999』
「聞けよ」
『レベルアップ!』
「……待って」
『レベルアップ!』
「待って」
『レベルアップ!』
「待てってば!」
クラッカーが鳴り続ける。
うるさい。
視界がウィンドウで埋まっていく。
数字が凄い勢いで増えていく。
もう何レベルになったのか分からない。
******
『称号獲得!』
『ドラゴンスレイヤー』
「おっ!?」
体育座りで半日待っていると、反応が変わった。
『称号獲得!』
『伝説殺し』
「いいじゃん、いいじゃん! 格好いい!」
思わず立ち上がる。
いい。
実にいい。
これぞ、俺の求めていた異世界だ。
『称号獲得!』
『うんこ』
「……は?」
固まった。
三秒ほど固まった。
もう一度見た。
『うんこ』
誤字ではない。
見間違いでもない。
うんこだった。
『称号合体!』
「むっ!?」
その文字が表示されると、三つの称号が渦を巻く。
『ドラゴンスレイヤー』が回る。
『伝説殺し』も回る。
さらに、『うんこ』も回った。
いや、『うんこ』は回るな。
絶対に要らない。
眩しい。
無駄に神々しい。
そして、大爆発。
ドゴォォォォォン!!
「うおっ!?」
数秒後、恐る恐る目を開いた。
『伝説のドラゴンうんこ』
「悪魔合体すんなよ!」
そこには、金色に輝く新たな称号が浮かんでいた。
******
俺の名前は、レオンハルト・ブラッドフォード。
異世界に相応しい、俺自身が付けた名だ。
今では、世界に五人しかいないSSSランク冒険者の一人でもある。
「……ドラゴンうんこだ」
「あいつが……。あの伝説のドラゴンうんこ!」
だけど、誰も俺を名前で呼んでくれない。
冒険者ギルドでも。
酒場でも。
城でも。
子供たちでさえ。
「ドラゴンうんこ!」
「本物のドラゴンうんこだ!」
「サインくれよ! うんこ!」
俺の名前は、レオンハルト・ブラッドフォードだって言ってるだろうが。




