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異世界転移3秒で、ドラゴンスレイヤー!

掲載日:2026/07/23




 さっき、神様っぽいやつがいた。


 目を開けると、森にいた。

 見知らぬ空、見知らぬ匂い、見知らぬ世界。


 そう、異世界転移だ。



「やったぜ」



 思わずガッツポーズが出た。

 まずはステータス確認だろ、と思った瞬間だった。


 空が、黒くなった。



「……は?」



 影。

 圧倒的な質量。

 翼が風を裂き、森がざわめく。


 巨大な赤いドラゴンだった。



「いやいや、初手でそれは反則だろ?」



 言い終わる前に、俺は丸呑みにされた。

 ぱっくんちょ、と。




 ******




「……は?」



 ブリブリブリッ、ブリッ、とすごい音がした。

 俺は一瞬、自分の耳を疑った。


 ここは異世界だ。

 剣と魔法の世界だ。


 ドラゴンもいる。

 神様っぽいのもいた。


 だけど、今聞こえたのは、ファンタジーに要らない音だった。


 アイドルがトイレに行かないように。

 俺の憧れたファンタジーの王『ドラゴン』だって、こんな音は出さないはずだ。



「ええっ……。マジで?」



 胃袋が激しく躍動する。


 ごろごろごろっ……。

 ぎゅるるるるるっ……。


 外から苦しそうな咆哮が響いた。



『GERIIIIIIIIIIIッ!?』

「ちょっ、待てよ」



 嫌な予感がする。

 ものすごく嫌な予感がする。


 ぐぐぐぐぐっ、と押され、流され、運ばれる。



「俺は、毒ですか?」



 どこへ向かっているのか。

 考えたくない。


 だが、考えなくても分かる。

 生物の構造なんて異世界でも大差ないはずだ。



「臭っ!? くさああああっ!」



 勢いはどんどん加速する。

 臭いもどんどん強くなる。


 目が痛い。

 鼻が痛い。

 心も痛い。



「待て待て待て待て待て!」



 光が見えた。


 希望の光ではない。

 人生でできれば一度も目にしたくない種類の光だ。



「いや、それは駄目だろ!!」



 ブリッパッ!

 俺は空へ放り出された。


 飛んだ。

 とても飛んだ。

 信じられないくらい飛んだ。


 ドラゴンの尻から放たれたとは思えないほど、美しい放物線だった。



「死因、ドラゴンの脱糞による墜落死」



 空は青かった。

 雲は白かった。

 人類が手つかずの雄大な森が広がっていた。



「嫌すぎる……。死にたい」



 遠くには険しい山々。

 その向こうには、雪を頂いた山脈まで見える。


 絶景だった。



「……いや、死ぬのか。これ」



 異世界だ。

 間違いなく異世界だ。


 俺が夢見た冒険の世界が、そこにあった。




 ******




 ベチャッ!

 巨大なドラゴンだけに、うんこも巨大だった。


 俺は、うんこに守られた。

 うんこがクッションになったのだ。



「……助かった?」



 助かったらしい。


 全身は痛い。

 心はもっと痛い。


 だが、生きている。

 少なくとも骨は折れていない。


 うんこの中、俺はゆっくりと立ち上がった。


 足元を見る。

 うんこだった。


 見渡す。

 うんこだった。


 振り返る。

 やはりうんこだらけだった。



『SINUUUUUUUUUUUッ!』



 ドラゴンの咆哮が轟いた。

 見上げると、巨体が空中でふらついている。


 翼が乱れる。

 高度が落ちる。


 どう見ても様子がおかしい。



「えっ……。」



 不意に羽ばたきが止み、そのまま落下。

 巨体が森に叩きつけられる。


 地面が揺れた。

 鳥たちが一斉に飛び立つ。

 木々が大きく揺れる。

 ファンファーレが高らかに鳴った。



「……は?」



 色とりどりの紙吹雪が舞い、地面に落ちる寸前で消える。

 どこからともなく光が差した。


 神々しい。

 やたら神々しい。


 俺の周囲だけスポットライトみたいになっている。



「なんで?」



 視界にウィンドウが浮かんだ。



『伝説のドラゴン:エンシェントルビードラゴンの討伐成功!』

「討伐してないんだけど?」

『獲得経験値:999999』

「聞けよ」

『レベルアップ!』

「……待って」

『レベルアップ!』

「待って」

『レベルアップ!』

「待てってば!」



 クラッカーが鳴り続ける。

 うるさい。


 視界がウィンドウで埋まっていく。

 数字が凄い勢いで増えていく。


 もう何レベルになったのか分からない。




 ******




『称号獲得!』

『ドラゴンスレイヤー』

「おっ!?」



 体育座りで半日待っていると、反応が変わった。



『称号獲得!』

『伝説殺し』

「いいじゃん、いいじゃん! 格好いい!」



 思わず立ち上がる。


 いい。

 実にいい。


 これぞ、俺の求めていた異世界だ。



『称号獲得!』

『うんこ』

「……は?」



 固まった。

 三秒ほど固まった。


 もう一度見た。



『うんこ』



 誤字ではない。

 見間違いでもない。


 うんこだった。



『称号合体!』

「むっ!?」



 その文字が表示されると、三つの称号が渦を巻く。


 『ドラゴンスレイヤー』が回る。

 『伝説殺し』も回る。

 さらに、『うんこ』も回った。


 いや、『うんこ』は回るな。

 絶対に要らない。


 眩しい。

 無駄に神々しい。


 そして、大爆発。


 ドゴォォォォォン!!



「うおっ!?」



 数秒後、恐る恐る目を開いた。



『伝説のドラゴンうんこ』

「悪魔合体すんなよ!」



 そこには、金色に輝く新たな称号が浮かんでいた。




 ******




 俺の名前は、レオンハルト・ブラッドフォード。


 異世界に相応しい、俺自身が付けた名だ。

 今では、世界に五人しかいないSSSランク冒険者の一人でもある。



「……ドラゴンうんこだ」

「あいつが……。あの伝説のドラゴンうんこ!」



 だけど、誰も俺を名前で呼んでくれない。


 冒険者ギルドでも。

 酒場でも。

 城でも。


 子供たちでさえ。



「ドラゴンうんこ!」

「本物のドラゴンうんこだ!」

「サインくれよ! うんこ!」



 俺の名前は、レオンハルト・ブラッドフォードだって言ってるだろうが。




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