未来の記憶
人は、自分の記憶を疑うことがあるだろうか。
確かに見たはずの光景が、どこか現実味を帯びていなかったり、
逆に、見たことのないはずの景色に、妙な既視感を覚えたりする。
それが夢なのか、過去なのか、あるいは――まだ訪れていない何かなのか。
はっきりと区別できる人は、そう多くないはずだ。
もしも、自分の知らない“記憶”が、確かにそこにあるとしたら。
それは本当に、自分のものなのだろうか。
この物語は、ある一人の少年が見る「記憶」から始まる。
それが何を意味するのか、彼自身もまだ知らない。
ただ一つ言えるのは――
それは決して、偶然ではないということだ。
――まただ。
視界が揺れている。
焼け焦げた匂いと、鉄のような血の匂いが混ざり合って、喉の奥に張り付く。
崩れた建物。
倒れている人影。
誰かの叫び声。
自分は――立っている。
右手には、何かを握っている感触がある。
重い。冷たい。見たことのないはずの感触。
そのとき、不意に声がした。
「繋げ――」
誰の声かはわからない。
だが、その言葉だけは、はっきりと耳に残った。
次の瞬間、視界が途切れる。
「……っ!!」
体が跳ねるように起き上がった。
荒い呼吸が止まらない。額には汗が滲んでいる。
見慣れた天井。
自分の部屋だ。
「……夢、か」
そう呟いてみるが、妙な違和感が残る。
夢にしては、あまりにも現実的すぎた。
匂いも、重さも、声も――やけに“はっきり”している。
手を見る。
震えている。
「……なんなんだよ」
カーテンの隙間から、朝の光が差し込んでいる。
外ではいつも通りの音がしていた。車の走る音、遠くの人の話し声。
さっきまでの光景が嘘のように、世界は静かだ。
だが、頭の奥に残っている。
――見たことがある。
いや、違う。
「……まだ起きてない、はずだろ」
自分でも意味がわからない言葉が、自然と口からこぼれた。
教室のざわめきの中で、友人が顔を覗き込んでくる。
「おい、またその顔だな」
「その顔?」
「なんか、ずっと考え込んでるやつ。最近多いぞ」
軽い調子で言われて、視線を逸らす。
「別に。変な夢見ただけ」
「どんな夢?」
そう聞かれて、一瞬言葉に詰まる。
どんな夢だったのか。
説明しようとすると、途端に曖昧になる。
「……わからない」
結局、そう答えるしかなかった。
授業中、黒板の文字をぼんやりと眺める。
教師が何かを説明している。
「この国の“系譜”は――」
その言葉を聞いた瞬間、視界が歪んだ。
焼けた空気。
瓦礫。
血。
また、あの場所だ。
今度は、はっきりとわかる。
これは夢なんかじゃない。
自分は今、誰かの視点で――
「繋げ――」
同じ声が、すぐ近くで響いた。
「……っ!」
気づけば、机を強く掴んでいた。
「どうした?」
教師の声に現実へ引き戻される。
「……なんでもないです」
そう答えながらも、心臓の鼓動は収まらない。
今のは――
「俺じゃない」
確信だけが、残っていた。
放課後。
帰り道で、友人が隣を歩く。
「なあ」
自分でも迷いながら、口を開く。
「未来って、見えると思うか?」
一瞬の沈黙のあと、友人は吹き出した。
「は?急にどうした。中二病か?」
「……じゃあこれは何だよ」
言葉と同時に、頭の奥で映像がよぎる。
血の匂い。握っていた感触。あの声。
「知らないはずのことを、知ってるんだ」
真剣な声に、友人の表情が少しだけ変わる。
だがすぐに肩をすくめた。
「ただの夢だろ。リアルだっただけだって」
「……そう、だよな」
納得したふりをする。
だが、違う。
あれは夢じゃない。
家に帰ると、壁にかけられた古い写真が目に入った。
見慣れているはずのそれに、なぜか足が止まる。
写っているのは、知らないはずの人物たち。
だが――
「……似てる?」
誰に、とは言えない。
けれど、どこかで見た気がする。
さっきの“記憶”と、重なりかけて――すぐに消えた。
その夜、また夢を見る。
同じ場所。
同じ空気。
今度は、少しだけ長い。
誰かが、こちらを振り返る。
顔は見えない。
だが、確かにこちらを見ている。
そして、口を開いた。
「お前は――」
音が歪む。
「継ぐ者だ」
「……っ!!」
目を開ける。
暗い部屋。静かな夜。
荒い呼吸だけが響いている。
天井を見つめながら、ゆっくりと息を吐いた。
「……これは未来だ」
そう、思った。
思ってしまった。
「……きっと」
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
初投稿で読みにくかったかもしれませんが、引き続き物語を見守っていただければ幸いです。




