第二章:お断りの交響曲 ~断られ方の芸術的進歩~
オウエンお断りマン山田拒絶太郎の「お断り伝説」が本格化したのは、最初の事件から1年後のことだった。この頃になると、彼の断られ方は単純な「キャンセル」を超えて、まるで芸術作品のような創造性を見せ始めていた。
拒絶太郎の事務所には「お断り理由データベース」というファイルが存在する。秘書の鈴木恵美が、科学的興味から記録を始めたものだ。
「第47号案件:町議選応援依頼」とラベルの貼られたファイルには、こんな記録がある。
『依頼者:斉藤清廉(新人、元銀行員) 依頼日:4月15日 お断り日:4月18日 お断り理由:「急遽、祖母の三十三回忌法要が入りまして...」 備考:後日確認したところ、祖母は存命であることが判明』
恵美は統計を取り始めた。お断り理由のトップ10は以下の通りだった:
1位:急病(本人または親族) - 23件 2位:冠婚葬祭の急用 - 19件
3位:海外出張の突然の決定 - 15件 4位:選挙戦略の変更 - 12件 5位:自然災害への対応 - 8件 6位:宇宙人関連 - 3件 7位:時空の歪み - 2件 8位:前世の因縁 - 1件 9位:占い師の助言 - 1件 10位:正直な理由 - 0件
特に注目すべきは6位以下の「創造的な理由」だった。宇宙人関連では「UFOに誘拐される予定で」「宇宙人から選挙妨害の警告を受けた」「火星人の知人に頼まれて」などのバリエーションがあった。
時空の歪みに関しては、物理学者を名乗る候補者が「山田先生の応援演説の日程と、私の存在する時空が合致しない可能性が量子力学的に証明された」と説明してきたこともあった。
最も印象的だったのは、前世の因縁を理由にした候補者だった。「私の前世の記憶によると、先生の前世と私の前世は戦国時代に敵同士だったようです。現世での共闘は、宇宙の調和を乱す可能性があります」というものだった。
しかし拒絶太郎は諦めなかった。お断りされるたびに、彼は新しい戦略を考案した。
まず試したのは「匿名作戦」だった。本名を伏せて応援演説の依頼を出すのだ。
「こちら、蓬莱国国会議員の...えーっと...田中...じゃない、鈴木...」
電話口で名前を言いかけては言い直すので、逆に怪しまれた。しかも、拒絶太郎の特徴的な声は、政界関係者にはすっかり知られてしまっていた。
「あ、山田拒絶太郎先生ですね。申し訳ございませんが...」
匿名作戦は開始3分で破綻した。
次に試したのは「代理人作戦」だった。秘書の恵美が拒絶太郎の代わりに応援演説の交渉をするのだ。
「こちら、とある国会議員の秘書の鈴木と申します。弊所の議員が応援演説を...」
「どちらの議員さんでしょうか?」
「えーっと...『拒絶』という字が名前に入っている...」
「山田拒絶太郎先生ですね。お断りします」
代理人作戦も即座に見破られた。
そこで拒絶太郎は「変装作戦」を思いついた。ヅラとサングラスを着用し、別人として応援演説に参加するのだ。
結果は惨憺たるものだった。明らかに不自然な風貌に、聴衆は困惑。「あの人、誰?」「なんか怖い」というささやきが会場を支配した。候補者は「知らない人が勝手に演説している」と慌て、警備員に通報される騒ぎになった。
この頃、拒絶太郎のお断られ方は、さらに高度化していた。
ある日、県議選の候補者から「ぜひ応援を」という熱烈な依頼があった。拒絶太郎は喜んで承諾したが、演説当日の朝、候補者から連絡が入った。
「山田先生、今日はありがとうございます!ところで、会場が変更になりました」
「どちらに?」
「月面です」
「...え?」
「はい、急遽、月面での演説会になりました。ロケットの用意ができ次第、お迎えに参ります」
この候補者は後に、精神的なストレスで選挙を辞退した。拒絶太郎を断るプレッシャーで、現実逃避が極限まで達したのである。
別の候補者は、より直接的なアプローチを取った。
「山田先生、お願いがあります」
「はい、何でしょう?」
「私の応援演説をしないでください」
「...はい?」
「つまり、先生が応援しないことが、私への最大の応援になります。お断りされることをお願いします」
これは「逆オファー」という新しいジャンルだった。拒絶太郎は哲学的な混乱に陥った。お断りをお願いされると、それを断ることになるのか、受け入れることになるのか。
恵美は後にこの現象を「拒絶太郎パラドックス」と名付けた。
しかし、最も創造的なお断り方法を提示したのは、芸術家出身の候補者だった。
「山田先生、私は先生をお断りすることで、新しい芸術作品を作りたいと思います。題名は『お断りという名の愛』です」
そして彼は実際に、拒絶太郎をお断りする様子を録画し、それを芸術作品として発表した。作品は話題となり、候補者は「革新的な芸術活動をする政治家」として注目を集め、見事当選した。
拒絶太郎は複雑な心境だった。自分がお断りされることで、誰かが成功している。これは応援なのか、それとも...?
この章の終わりに、拒絶太郎は恵美に言った。
「僕は一体、何のために存在しているんだろう?」
恵美は温かい眼差しで答えた。「先生、もしかすると、それを見つけるのがこれからの課題なのかもしれませんね」
お断りの芸術的進化は、拒絶太郎に新たな人生の課題を提示していた。




