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『オウエンお断りマン』 哀愁物語 ~断られる男の七転八起~ 蓬莱帝国の迷物議員~  作者: 如月妙美


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第一章:お断りの序曲 ~なぜ僕は愛されないのか~

 蓬莱国国会議員会館3階の一室で、山田拒絶太郎は今日も電話の前で深いため息をついていた。机の上には「応援演説依頼リスト」のファイルがあるが、全てのページに大きく赤い「REJECTED(拒否)」のスタンプが押されている。

 通称「オウエンお断りマン」。この不名誉な称号を得るまでの道のりは、実は意外にも平凡な始まりだった。

 5年前、拒絶太郎は希望に満ちた新人議員として政界入りした。当時の彼は「熱血漢の期待の新星」として注目され、多くの候補者から応援演説の依頼が殺到していた。

「山田先生、ぜひ我が選挙区にいらしてください!」 「先生の熱い語りを聞かせてください!」

 そんな声に応えて、拒絶太郎は全国を駆け回った。当初の応援演説は大好評で、彼が応援した候補者の8割が当選するという華々しい記録を打ち立てていた。

 転機となったのは、ある地方都市での市長選応援演説だった。候補者は老舗企業の二代目である田中堅実だった。堅実は「安定した市政運営」をスローガンに掲げる保守系候補で、拒絶太郎にとっても話しやすい相手だった。

 演説当日、拒絶太郎は意気込んでいた。「今日も絶対に勝たせてみせる!」

 しかし、会場に到着した拒絶太郎は奇妙な光景を目にした。堅実の選挙事務所の人々が、なぜか浮かない顔をしているのだ。

「どうかしましたか?」拒絶太郎が尋ねると、選挙参謀の佐々木が困った顔で答えた。

「実は...昨日、対立候補の鈴木革新さんが、とんでもない爆弾発言をしたんです」

 鈴木革新は改革派の候補者だった。彼が何を言ったかというと、「田中堅実は3年前に税務調査を受けている!隠蔽体質だ!」という暴露だった。

 しかし実際には、これは単なる定期的な税務調査で、何の問題も発見されなかった。むしろ帳簿の管理が素晴らしいと褒められたくらいだった。

「それなら何も問題ないじゃないですか!」拒絶太郎は安心した。

「そうなんですが...問題は山田先生の演説なんです」佐々木は言いにくそうに続けた。「先生は熱血漢で有名ですから、きっとこの件について反論してくださいますよね?」

「もちろんです!」拒絶太郎は力強く答えた。

「それが...実は...」佐々木はさらに困った顔になった。「鈴木さんの支持者の中に、先生の大ファンがいるんです。もし先生が激しく反論すると、その人たちが傷つくかもしれません」

 拒絶太郎は首をかしげた。「僕のファン?それは嬉しいですが、真実を語ることの方が大切でしょう」

「その通りです!でも...」佐々木は汗をかいていた。「実は、その『ファン』というのが、先生の奥様の姉妹の親戚の方々でして...」

 複雑な人間関係が絡んでいることが判明した。拒絶太郎の義理の親戚が鈴木革新を支持しており、もし拒絶太郎が強く反論すると、家庭内に亀裂が生じる可能性があったのだ。

「つまり...どういうことですか?」

「あの...もしよろしければ、今回は穏やかに、当たり障りのない応援演説を...」

 拒絶太郎は困惑した。彼の持ち味である「熱血」を封じられて、何を話せばいいのか。結局、その日の演説は史上最も無難で、最も印象に残らない内容になった。

「田中堅実さんは...良い人です。以上」

 聴衆はポカンとした。いつもの拒絶太郎らしさが全く感じられない、拍子抜けする演説だった。

 この「事件」以降、拒絶太郎に応援を頼む候補者たちは、なぜか事前に複雑な「条件」を提示するようになった。

「先生、応援演説をお願いしたいのですが、実は相手候補の支援者の中に先生の知人がいまして...」

「あの、恐れ入りますが、○○について言及するのは控えていただけますでしょうか...」

「できれば、先生らしい熱血演説ではなく、もう少し穏やかに...」

 条件は次第にエスカレートしていった。そして決定的な出来事が起こった。

 ある県議選で、拒絶太郎に応援を依頼した候補者の田村が、演説の3日前に突然電話をかけてきた。

「山田先生...申し訳ございませんが、今回の応援演説はキャンセルさせていただきたく...」

「え?なぜですか?準備はもうできているのに」

「実は...先生が応援に来ることを聞いた対立候補が『山田拒絶太郎に応援されるような候補者で大丈夫なのか』というネガティブキャンペーンを始めたんです」

 拒絶太郎は愕然とした。自分の存在がネガティブキャンペーンの材料になるなんて。

「それは...僕の何が問題なんですか?」

「いえいえ!先生に問題があるわけではありません!ただ...先生の熱血ぶりが、一部の穏健派有権者に『過激』と受け取られることがあるみたいで...」

 このあたりから、拒絶太郎の人生に暗雲が立ち込め始めた。応援演説の依頼は激減し、たまに依頼があっても、事前に条件だらけになるか、土壇場でキャンセルされるかのどちらかになった。

 彼の秘書である鈴木恵美は、この現象を「拒絶太郎スパイラル」と名付けた。一度「お断り」が続くと、その評判がさらなる「お断り」を呼ぶという悪循環だった。

「先生、もしかすると...」恵美は提案した。「しばらく応援演説から離れて、別の活動に専念されてはいかがでしょうか?」

 しかし拒絶太郎は首を振った。「いいや、僕は応援演説が好きなんだ。誰かを支えることの喜びを知ってしまった。簡単に諦めるわけにはいかない」

 こうして「オウエンお断りマン」の伝説が始まった。しかし拒絶太郎本人は、まだこの時点では「きっと運が悪いだけだ」と信じていた。

 彼が本格的な「お断り地獄」に突入することになるとは、この時はまだ知る由もなかった。


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