第9話 40歳童貞様の痕跡
「召喚魔法ブロックするような大魔法使い様を、どうやって見つけんの?」
「俺らだって、選ばれし勇者様だろ? 今ならきっと、伊藤に匹敵する極大魔法が使えるに違いねぇぜ」
「ほぉ? だったら、その極大魔法ってヤツを使って見せろ」
「そうだ! やれやれ~っ!」
高橋と田中が楽しそうに、鈴木を囃し立てた。
すると、執事が冷静に止めてくる。
「ここではお止め下さい。魔法をお使いになられるのでしたら、場所を変えて頂けますか?」
「じゃあ、さっきの召喚の間ってとこに連れてってくれ。俺が特級魔術で、伊藤を呼び戻してみせるからよっ!」
「かしこまりました」
執事の案内で、勇者3人は再び召喚の間へ戻って来た。
鈴木は、さっき自分たちが呼び出された魔法陣の前に立つ。
後ろで控えている執事に向かって、問い掛ける。
「召喚って、どうやんの?」
「魔法陣に魔力を注ぎながら、魔法書の呪文を詠唱します」
「この魔法陣って、このまま使える?」
「大魔法使い様を呼び戻すには、書き換える必要があります」
「魔法書ってのは?」
「こちらでございます」
執事は召喚の間に置かれた本棚から、1冊の本を取り出して手渡してくる。
しかし、異世界人の3人はこの世界の文字が全く読めなかった。
「執事さん、これなんて書いてあるか、読んでもらえる?」
「かしこまりました」
本のタイトルは、「☆超初心者向け! ☆とってもやさしい召喚のやり方☆」
執事に読んでもらったところ、魔力さえあれば誰でも使えるらしい。
魔力の注ぎ方や手順まで、丁寧に図解されている。
ただし、魔法陣に込める魔力の量が多いようだ。
ひとりでは魔力が足りないので、3人以上推奨と書いてある。
「なぁ、これ3人以上じゃないとダメなんだってさ。お前らも、手伝ってくれ」
「さっき、『ひとりでやる』って息巻いてやがったくせに」
「それで、これをどうすればいいんだって?」
3人は執事から、魔法の使い方を教わることになった。
伊藤を召喚するには、まだしばらくかかりそうだ。
☆
それから数日後、執事が報告してくる。
「休戦が、魔王軍に受け入れられました。今でしたら、area Δへご案内出来ます」
執事の返事を聞いて、3人はそれぞれ複雑な表情を浮かべる。
「伊藤が最初に召喚された場所、だったよな」
「半年後じゃ、今頃もう骨になってんだろ」
「せめて、アイツがいた痕跡くらい残っていたらいいんだけど」
伊藤が召喚された場所を見たい。
せめて、遺品くらいは持ち帰りたい。
本音を言えば、誰かに救われてどこかで生きていてくれたら。
そう、願わずにはいられなかった。
「さっそく、連れて行ってくれっ!」
「かしこまりました。準備を致しますので、しばらくお待ち下さいませ」
執事が出て行くと、使用人たちが軍服や防具を持って現れた。
「こちらにお召替えくださいませ」
渡されたのは、全員同じデザインの軍服だった。
軍服の上から、防弾チョッキやヘルメットなどの防具を着せられた。
休戦中とはいえ、防具なしで紛争地域へ行くことは危険だ。
そんな危険な場所へ、伊藤は身ひとつで放り込まれたと思うと、やりきれない。
ますます、伊藤が生きている可能性は低いと思えた。
屈強な兵士たちが、3人の周りを固めた。
さらに、3人の魔法使いがついて来た。
彼らは、勇者様たちを護衛する為に組織された分隊である。
分隊は、10人前後で組まれたグループのこと。
分隊の案内で、3人はarea Δへ向かった。
☆
「ここがarea Δでございます」
「ここが……?」
3人はarea Δの光景を見て、呆然とした。
ニュースでしか観たことがない紛争地域が、そこにあった。
かつては街があったであろう場所に、瓦礫が積み重なっている。
ところどころ、爆炎で黒く焼け焦げたであろう跡も残っている。
周囲には、硝煙や血の臭いも漂っていた。
昨日まで、この場所で戦闘が行なわれていた。
今は休戦中だから、静かなものだ。
休戦を祝福するように、空は青く晴れ渡り、白い雲が浮かんでいた。
3人は伊藤がいた痕跡を探そうと、area Δを歩き回った。
国王軍は大魔法使いの持ち物は、『やたら手触りの良い布』しか見つけられなかったという。
しかし同じ世界から来た3人ならば、何か気付くことがあるかもしれない。
歩き回ること、数十分。
田中が、踏み潰されて壊れたメガネを見つけた。
それは、伊藤が愛用していたメガネだった。
「やっぱり、お前はここにいたんだな……」




