第8話 クリスマス休戦
今日も今日とて、魔王軍陸軍大将と中将と少将は、会議室で話し合いをしていた。
中将が一枚の書類を机の上に置き、大将の前に滑らせる。
「ちょっと、これ見て。国王軍が、一時休戦を求めてきたんだけど」
「え? なんで?」
「なんか、紛争地域の視察をしたいんですって」
「視察ねぇ……。なんか、裏事情がありそうだな」
書類に目を通して大将は顔をしかめると、少将にも書類を見せた。
少将は首を傾げて、中将に問う。
「諜報部隊の報告は?」
「魔王軍の諜報部隊によれば、国王軍はまた異世界人を召喚したらしいわ。それも、3人」
「マジで? 国王軍、異世界人召喚しすぎじゃね?」
「大魔法使いが見つからなかったから、代わりの人間を呼んだみたいね」
「一時休戦も、たぶんそれが理由か?」
「でしょうね」
中将は少しおどけた口調で、大将に決断を委ねる。
「それで、どうすんのよ? 魔王軍陸軍大将殿」
「まずは、魔王様に報告だ」
「そうね。報連相(報告・連絡・相談)は大事」
中将は、会議室備え付けの電話から魔王に連絡する。
「もしもし、魔王様。今、お時間よろしいでしょうか? ……はい、はい、そうですよね。奥様とお嬢様とお過ごしの貴重なお時間に、誠に申し訳ございません。すぐ済ませますので、ええ、はい」
通話を開始してから、2分くらいで電話は切れた。
受話器を置いた中将に、大将が訊ねる。
「で? 魔王様はなんて?」
「家族で過ごすクリスマスの準備で手が離せないから、こっちに任せるそうよ」
「マジか」
魔王様は妻子持ちで、4歳のひとり娘がいる。
可愛い盛りで、魔王様もデロデロ甘々に溺愛しまくっている。
最愛の妻と娘との大事な時間を取られたくなくて、こちらへ丸投げしたらしい。
それを聞いた大将は、ニカッと明るく笑う。
「じゃあ、俺らで好きにやろうぜ」
「好きにって、どうすんだよ?」
少将が聞くと、大将は大きく頷く。
「とりま、批准すっか」
戦争を全面的休戦するには、批准が必要となる。
批准とは国家間において、条約や協定を確認し、同意する。
国の代表者が署名した条約を国へ持ち帰って、国の偉い人たちと相談する。
偉い人たちが話し合って、GOサインを出したら、その条約は発動する。
小難しい説明をしたけど、早い話が「国の偉い人同士が、約束を守ること」である。
なお、部分的休戦(一部地域だけ戦争を一時中断する)の場合、批准は必要ない。
両軍の代表者同士が「疲れちゃったから、ちょっと休憩しない?」「いいよ」と認め合えば、その場ですぐに休戦出来る。
大将の言葉を聞いて、少将が詰め寄る。
「いいのかよ? 何企んでやがんのか分かんねぇし、罠かもしんねぇぞ」
「かもしんないけど、冬休み欲しくない?」
「欲しい」
ず~っと戦争ばっかりしていると、国全体が戦争疲れしてしまう。
国王軍も魔王軍も、心身ともに疲れ果てて弱っている。
一時休戦して、兵士たちや国民たちをゆっくりと休ませてあげたい。
っていうか、ぶっちゃけ休みが欲しい。
家族や友人や恋人と、クリスマスを楽しみたい。
クリスマスパーティーしたいし、ケーキも食べたいし、ごちそうだって食べたい。
「休戦開始日時と期間は?」
「それはこのあと、国王軍と話し合いをして決める。ただし休戦期間中も、監視体制は強化しろ」
「そんなん、当たり前よ」
★
こうして、国王軍と魔王軍で話し合いの場が設けられることになった。
どちらも大将と中将と少将が出席し、互いに腹の探り合いのような緊迫した空気が流れた。
それはそれとして、冬休みが欲しいのはどちらも同じ。
話し合いの結果、12月24日~1月7日までゆっくり休もうということになった。
ちょうどクリスマスということで、「クリスマス休戦」と呼ばれた。




