第7話 ある意味勇者様の希望
「area Δへ連れて行ってくれ」
「かしこまりました。では、魔王軍に一時休戦を申し出て参ります」
勇者様たちが、自ら大魔法使い様の捜索へ行きたいと言い出した。
しかし召喚したばかりの勇者様たちまで、死なせる訳にはいかない。
勇者様たちまで殺したとなれば、国王軍のイメージダウンに繋がる。
国王軍は、わりと世間体を気にする。
やっぱり、軍は信用第一。
安全に紛争地域へ行くには、休戦する必要がある。
休戦するには、まずは魔王軍と話し合いをなければならない。
話し合いには、お互いの予定を合わせなければならない。
話し合いが出来るのは数時間後か、はたまた数日か。
魔王軍との予定が合わなければ、月単位なんてこともある。
☆
魔法使いたちは、魔王軍と話し合いの申請をする為にその場から立ち去った。
入れ替わりで、執事らしき初老の男が現れた。
「初めまして、勇者様がた。お待ちいただく間、応接室へご案内致します」
「あ、はい」
執事の後をついて行くと、勇者様たちは広々とした応接室へ通される。
テーブルの上には、ティーセットが用意されていた。
来客用のカップに良い匂いがするお茶が注がれ、中央の大皿には美味しそうな焼き菓子が山盛りにされていた。
「どうぞ、こちらでごゆるりとお過ごし下さい。ご用命の際には呼び鈴を鳴らして下されば、すぐに参ります」
「どうも、ありがとうございます」
執事はテーブルの上に呼び鈴を置くと、一礼して立ち去った。
執事がいなくなると、3人は椅子に腰掛けて深々とため息を吐いた。
3人だけになって、ようやく緊張を解くことが出来た。
いきなり異世界に召喚されて、親友の死を知らされた。
見知らぬ環境と衝撃的な展開の連続に、ずっと気を張り詰めていた。
ほんの数十分で、どっと疲れてしまった。
これからもずっと、4人でバカやれるものだと信じて疑わなかった。
伊藤が死ぬなんて、信じられなかった。
いや、信じたくなかった。
気が緩むと同時に涙腺も緩んで、涙があふれ出した。
鈴木が泣き出すと、高橋と田中も釣られて涙を流し始める。
「うぅ……、伊藤ぉ……っ」
「鈴木、泣くな。てめぇが泣くと、オレまで泣きたくなるだろうが……」
「アイツがこんなに早く死ぬなんて、思わなかったな……」
3人は泣きながら肩を寄せ合い、伊藤の死を悼んだ。
思いっきり泣いて落ち着いた頃、高橋が涙を拭いながら口を開く。
「そういえばさ、召喚って死んだヤツにも可能なのかな?」
「呼び出せたとしても、ゾンビかガイコツになってそうだけど」
「この世界に、|necromancer(死霊使い)っていんのか?」
「伊藤を蘇らせるつもりか?」
「蘇らせるんなら、聖職者じゃね?」
「とりあえず、さっきのヤツに聞いてみるか」
田中が呼び鈴を振って、チリンチリンと鳴らす。
まもなく、扉の前で控えていた執事が入って来る。
「はい。お呼びでしょうか?」
「執事さんは、この世界に詳しい人?」
「私の知り得る範囲であれば、お答えいたします」
「魔法の知識は?」
「何をお聞きになりたいかによりますが、ある程度なら」
この執事は有能そうだと判断して、鈴木が質問する。
「召喚魔法って、この世界にいる人間も呼び出せんのか?」
「はい、可能でございます」
「だったら召喚に失敗しても、もう一回召喚し直せば良かったんじゃね?」
「はい、左様にございます」
「だったら、なんでそうしなかったんだよ?」
田中が問い詰めると、執事は淡々と答える。
「出来なかったのではないでしょうか」
「というと?」
「対象が死んでいた、あるいは召喚を阻まれた場合、召喚は不可能です」
「死んでいた、か……」
鈴木が、悲しげにぽつりとつぶやいた。
高橋は、もうひとつの可能性に食いつく。
「召喚を阻まれるってのは?」
「召喚魔法を阻む魔法や魔道具を使っていたら、召喚出来ません」
「伊藤にそんなこと、出来るわきゃねぇだろ」
「いや、出来るね。伝説の大魔法使いなら」
「大魔法使い様ほどのお方でしたら、造作もございません」
執事が当然とばかりに、頷いた。
伊藤が生きているかもしれない。
希望を見出して、3人は笑顔を取り戻した。




