第6話 ある意味勇者様の激怒
魔法使いは、心底申し訳なさそうな苦笑いを浮かべる。
「実はあの……、40歳童貞様は行方不明でして……」
「は? なんで?」
「行方不明って、どういうこと?」
「アイツは、どこ行っちまったんだよ?」
勇者様たちの顔から笑みが消え、魔法使いに詰め寄った。
魔法使いはしどろもどろで、事情を説明し始める。
「それが――」
国王軍は戦争を終わらせる最終兵器として、40歳童貞様を召喚した。
40歳童貞様に丸投げして、魔王軍を倒してもらおう大作戦。
ゴリッゴリの他力本願。
40歳童貞様を召喚してみたものの、魔法陣の座標が間違っていた。
40歳童貞様は、area Δへ転送されてしまった。
area Δは現在、紛争地域である。
何も知らない異世界人が、紛争地域に身ひとつで放り出されたらどうなるか。
想像に難くない。
国王軍の兵士たちが慌てて迎えに行ったけど、40歳童貞様は見つからなかった。
半年掛けて探したが、40歳童貞様は未だ行方知れず。
見つからないから、諦めた。
だけどこのままでは、戦争は終わらない。
しょうがないから、代わりに勇者様たちを召喚した。
「――ってことでして……」
魔法使いの話を聞いて、勇者様たちはブチキレた。
「はぁ~っ? そっちの都合で勝手に召喚しといて、行方不明になりましたって、無責任すぎんだろっ!」
「ってことは、生きてるか死んでるかも分かんねぇのかよっ?」
「最悪、死んでんじゃ……」
ひとりがそう言い掛けて、苦虫を噛み潰したような顔で口を閉ざした。
他のふたりも、悔しそうに歯を噛み締めた。
勇者様は怒りのまま、魔法使いの胸倉を掴む。
「ふざけんな! アイツが何したってんだよっ? 俺の親友を返せよっ!」
「すみません! すみませんっ! 誠に申し訳ございませんっ!」
胸倉を掴まれた魔法使いは、ひたすら謝り続けるしかなかった。
いくら謝られたところで、勇者様の怒りは収まらない。
他の魔法使いたちも、懸命に止めに入る。
「40歳童貞様を見失ったのは多大なるミスであり、我々の責任ですっ!」
「我々も全力を尽くしたのですが、どうしても見つからずっ!」
「お怒りになられるのは、当然ですっ! ですが、どうかお怒りをお収め下さいっ! 何とぞ何とぞ……っ!」
キレ散らかす勇者様を見かねて、ふたりの勇者様たちも肩を掴む。
「コイツに当たったって、アイツは帰ってこねぇよ」
「あとは、おれたちで探そう。見つからなくても、せめて遺品だけでも持って帰ろう」
「お前ら……。クソッ、分かったよっ!」
ふたりに静かな声でいさめられて、勇者様はようやく手を離した。
落ち着きを取り戻した勇者様に、魔法使いが『やたら手触りが良い布』を差し出す。
「これは40歳童貞様の物と思われる、唯一の品でございます」
「これはアイツの……!」
勇者様たちは、『やたら手触りが良い布』に見覚えがあったようだ。
勇者様は震える手で受け取り、強く握りしめた。
勇者様たちの話によると、『やたら手触りが良い布』には「♡愛ラブ! 10th |Anniversary Final Live Tour♡ ~♡愛ラブ! Forever♡~」と書いてあるらしい。
「愛ラブ!」の千穐楽ライブの為だけに作られた、特別仕様のマフラータオルなんだとか。
これは40歳童貞様の愛用品で、よく首に掛けていたという。
ちなみにこれは「使う用」で、「観賞用」と「保管用」は未開封状態で大切に保管されているそうだ。
「愛ラブ!」は学園アイドルグループ「µ's」の活躍を描いた美少女アイドルアニメ。
美少女アイドルものでありながら、友情・努力・勝利がテーマで、やたら暑苦しい青春ドラマに定評がある。
魔法使いたちは、勇者様たちの話を聞いて確信した。
『やたら手触りが良い布』は、40歳童貞様の魔道具で間違いなかったと。




