第4話 40歳童貞様の所在
今日も作戦会議室で、魔王軍陸軍大将と中将と少将が、顔を突き合わせて話し合いを行なっていた。
「なんか最近、国王軍が騒がしいけど、なんかあったのか?」
「魔王軍の諜報部隊によると、国王軍は大魔法使いを探しているらしいわ」
「大魔法使いって、何?」
少将が首を傾げると、中将が説明する。
「数百年、いや、千年以上も現れていない伝説の存在よ。世界を揺るがすほどの強大な力を持つと、言い伝えられている。40歳まで童貞を貫いた者だけが、大魔法使いになれるとかなんとか」
「はぁっ? 40歳まで童貞っ? そんなこと出来るかよっ!」
少将が「信じられない」と、目を丸くした。
大将も「ムリムリ」と、手を横に振る。
「40歳まで童貞を貫けたら、それこそマジもんの伝説だぜ」
「何をどうやったら、40歳まで童貞でいられんのよ?」
「おれだったら、40年どころか1ヶ月も我慢出来る気がしねぇ……」
「40歳まで童貞でいられるヤツって、生きてて何が楽しいの?」
「お母さんのお腹の中に、性欲忘れてきたんじゃない?」
「性欲を犠牲にして、得られるものってなんなんだろうな?」
3人は「40歳童貞などいるものか」と、言い合った。
★
それから1ヶ月後。
魔王軍陸軍大将と中将と少将は、今日も今日とて会議室で話し合いをしていた。
中将が諜報部隊の報告書を手に、口を開く。
「魔王軍の諜報部隊によると、国王軍が魔王領へ来たらしいわ」
「遠路遥々、ご苦労なこった。ヤツら、何を嗅ぎ回っていやがった?」
大将が真剣な表情で問い質すと、中将は軽く鼻で笑い飛ばす。
「それが、観光旅行を思いっきり楽しむだけ楽しんで、帰ってったそうよ」
「観光?」
意外な返答に大将は、真剣な顔を崩してポカンとした。
中将は報告書を机の上に置き、大将の前に滑らせる。
「ほら、これ見てみ」
「どれどれ……? うわ、マジでめっちゃ観光名所巡りしてんじゃん」
「ガイドまで雇ってるってことは、マジで観光か。なんか、楽しそうだな」
少将も報告書を覗き込んで、羨ましそうな顔をした。
中将が、報告書の一文を指差す。
「一応、40歳童貞の行方を聞いて回ってたらしいけどね」
「探してはいたんだ?」
「でも、『観光のついでに』って感じだったみたいよ」
「探すなら、真面目に探せや。やる気あんのか?」
「マジでな」
「で、結局、40歳童貞は見つからなかったの?」
「みたいね。行きも帰りも、人数は変わらなかったって」
「そっか。40歳童貞は、未だ行方知れず……か」
もし、国王軍が40歳童貞を見つけ出し、軍に引き入れたとしたら。
それは、魔王軍にとって脅威となりうる。
「魔王軍の諜報部隊にも、40歳童貞を捜索させてるけど。今んとこ、影も形も見つかってないってよ」
「だいたい、手掛かりが『40歳童貞だけ』って、絶望的じゃね?」
「姿形も分からない人間を探すって、ムリゲーだよな」
国王軍と魔王軍が、血眼になって探し続けている40歳童貞。
伝説の大魔法使いが、すでに魔王軍本拠地の地下牢に囚われているとは、誰ひとり知る由もない。
40歳童貞本人ですら、自分が伝説の存在であることを知らなかった。




