第12話 40歳童貞様の未練
日本へ帰ってきた伊藤は、何気ない瞬間にふと、牢獄生活を思い出す。
牢獄生活は、快適だった。
けれど、自由がなかった。
今は行こうと思えばどこへだって行けるし、好きなものを食べられる。
やりたいことが出来るって、やっぱり嬉しい。
伊藤がいなくなった後、異世界はどうなったのか。
伊藤は何か役割があって、異世界召喚されたのではなかったのか。
にもかかわらず、何もせずに帰ってきてしまった。
これで良かったのか?
それだけがずっと、伊藤の心に引っ掛かり続けている。
☆★☆
今日も今日とて魔王軍陸軍大将と中将と少将は、会議室で話し合いをしていた。
中将は報告書を机の上に置き、大将の前に滑らせる。
「魔王軍の諜報部隊の報告によれば、異世界人たちは異世界へ帰ったらしいわ」
「え? なんで?」
「考えてみなさいよ。いきなり知らない場所に呼び出されたら、誰だって帰りたくなるに決まってんでしょうが」
「それはそう」
少将がうんうんと頷くと、中将が続ける。
「それだけじゃないの。実はあの捕虜が、伝説の大魔法使いだったそうよ」
「マジかよっ? でもアイツ、全然そんな素振り見せなかったよな?」
「アイツも、自分が大魔法使いだって、知らなかったんじゃない?」
「おれもアイツが異世界人なんて知らずに、捕虜にしちまったしな」
「知らんところに飛ばされてすぐ捕虜って、めっちゃ可哀想じゃね?」
「魔王軍が拾ってやって、逆に良かったかもな」
中将は、過去の報告書をまとめた分厚いファイルを開く。
「国王軍は戦争を終わらせる最終兵器として、大魔法使いを召喚したらしいわ」
「アイツが正しく国王軍の領地に召喚されて大魔法使いになってたら、魔王軍の敵になってたってこと?」
「最悪、魔王軍が負けてたかも」
「マジかよ……」
少将は少し考え込んだ後、疑問を口にする。
「国王軍は、大魔法使いを呼び戻したんだろ? なのに、なんで帰っちまったんだよ?」
「大魔法使いを呼び戻したのは国王軍じゃなくて、異世界人なのよ」
「異世界人が?」
「あとから召喚された異世界人たちは、大魔法使いの親友だったらしくてね。大魔法使いが行方不明になったと聞いて、ブチキレたそうよ」
「親友がいなくなったら、そらブチキレて当然か」
「召喚魔法で大魔法使いを呼び戻して、そのまま異世界へ帰ったんですって」
大将が不思議そうな顔で首を傾げて、胸の前で腕を組む。
「なんで、国王軍は召喚魔法で大魔法使いを呼び戻さなかったんだ?」
「出来なかったんじゃね?」
「でも、出来たじゃん」
大将と少将が言い合っていると、中将が呆れ顔で肩をすくめる。
「それが、召喚魔法で呼び戻すことを思い付かなかったみたいなのよ」
「は? バカなの?」
「バカなのよ」
国王軍がもう少し賢かったら、伊藤は戦争の道具になっていたかもしれない。
魔王軍も、大魔法使いの大魔法で壊滅的被害を受けていたかもしれない。
国王軍がバカだったおかげで、大魔法使いも魔王軍も助かった。
「「「国王軍が、バカで良かった」」」
☆★☆★
その後――
40歳童貞様と勇者様を失い、国王軍の士気は下がりまくった。
冬休みが終わっても、国王軍は戦争を再開する気が起きない。
魔王軍も休みボケになっちゃって、戦争を再開するのが面倒臭い。
誰もやる気がないから、休戦はだらだらズルズル伸び続け、そのままなんとなくで戦争は終わりを迎えたのだった。
【おしまい】




