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ともしびの街

作者: なと


懐かしい記憶を思い出してそっとサイダーの便底を見る

夢ばかり追っていた若い頃が

夏になると走馬灯の中できらきら光っている

夕べの夢は幻でしたか

たましひは何時だって夢を見る

夏が怖くてちょっと仏壇の後ろに隠れてみた

狂い咲きをする櫻が夏になるとあの坂の上で

姉様の命日には灯篭を流す


冷蔵庫に突っ込んでおいた夏が食べごろだ

夏の屍を拾いつつ引き出しの中は不幸だらけだ

夢ばかりが夏を覆い尽くす

あの隧道の壁には経文が書かれている

夜になると壁から白い影がおいでおいでをして

旅人はただ静かに街灯の下で亡くなった人を想い

カレンダーの裏に謎の真言

唱えると鬼やらいが来る








道端の陰に夏は潜んでいる

ゆっくりと日陰を食らいながら

黒い夏はどんどん大きくなってゆく

夏になると人生について考えたくなる

秋風に吹かれるまでは暑い日差しと遠い過去

刹那と久遠の声がどこまでも響き渡る祭り太鼓のよう

夢を見ていました

何処か遠い過去であなたを想いながら

陽炎が道に立つ






夏の気配が冷蔵庫のサイダーに溶け込んでいる

夏祭りの匂いが仏壇の線香から香る

幻のような季節それが夏だから

水に浮かんだ月みたいに掴めなくて懐かしい

子供の頃が浮かんでは消えてゆく走馬灯の様に

何処からかの家から流れ出た

お風呂のお湯の香りが夜道に漂っている

あの向日葵畑に置き忘れた夢








母の背中には消えない過去がある

年老いた猫が陽だまりの中に堕ちている

通りを行く自転車の老人の人生には

どれだけのドラマがあったのだろう

宿場町のお昼時は全ての生き物が

息絶えたかのように静けさが堕ちている

夕べ食べ残したクラゲが

シンクタンクの中で

遠くの國に行きたかったと嘆いている






遠い昔のものを見ていると

不思議な気持ちになる午後三時の頃

夏ばかりが梅雨に隠れて通せんぼ

通りゃんせの唄が聞こえる神社の境内には

誰もいませんでした

秘密ばかりが増えてゆく大人の机には

見知らぬ外国の煙草の匣

船町の街にはいつも潮の香り

背中だけが影になって

見知らぬ人のような父の姿









座敷裏に隠れている過去はいにしへの色

煎茶の美味しい季節になりました

気が付けば仏間に足が向かう盂蘭盆会

夏祭りには追憶の記憶に花束を

夢ばかりが回送列車から手を振っている

空に堕ちてゆく入道雲に引っかかるクラゲ

あの日はいつまでも夏に閉じ込められて

呼び声が聞こえる潮騒の夢








夏は古き街にもやってくる

緋色の着物が蔵の中で舞っている

小鬼たちが小さな侍達と闘っている座敷裏

たたみいわしは何処で買えますか

懐かしい声が商家の納屋の方から

夢を見ていたんです

古い懐中時計がカチカチと

そろばんを鳴らす音があの通りで

あの犬は暗闇に向かって吠えていた

神社の怪






夢うつつ

葡萄の乗った皿は露に濡れて

甘いかと仏間の方から声が

こんな季節にはあの世に逝きたくなる

隧道の向こうには向日葵畑が

夢ばかり見ていたんですね

よそ行きの服のナフタリンの香りに

脳が蕩けそうになりながら

夏がやってきたことを

入道雲が知らせる

夜のプールで泳いでみたい







懐かしい後ろ姿は誰のもの

微かな溜息が仏間の方から聞こえて

空耳が青空へ溶けてゆく

揺り籠の中はきっとこんな世界と

古い教科書の詩を大切に読み返す

風は問いかける人生の意味を

猫は眠る人生の哲学を隠しながら

過去はあの路地裏に転がっているから

早く取りにおいでと見知らぬ人の声が墓の裏から







懐かし街は風追い街

昔の人ばかりを追いかけていても

何も出てきませんか

祖母の背中のピップエレキバンの香り

線香の香りか蚊取り線香の香りかわかりゃしない

今では持ち主の違う母の実家

目が悪くなって遠くのものが人に見えてこわいなあ

切った木の根元にサルノコシカケがびっしりと

もうすぐ梅雨





大人の世界は影法師

煙草の火が危ないから近寄るまい

狐のお面は祭りで売ってるか

過去に囚われ人生は夕暮れの街

そっと帽子を取って笑顔で夏を行李箱に閉じ込める

父の鼻歌が聞こえて来る仏壇のなかから

引きずり込まれまいと大人の本に頭から突っ込む

はあこの世は何処まで行っても大人大人






夢のあとに梅雨の雨曇りの空

掌にそっとサクマドロップ何処からか犬の遠吠え

昭和はそっと肩を叩くドッペルゲンガーの夢を見た跡

悲しみばかりが空を覆う柔らかい過去の思い出を壺にしまって

軍服の老人が街角に立ち見てはいけませんと母は言う

どうしてと振り返りがなり立てるスピーカーが懐かしく






この季節のなると押し入れにしまった人魚の人形を思い出す

夜は這い出る座敷の壺の中から蛇のように

忘れられてしまった屋敷の仏壇から

今でも線香の香りが刻を超え

夏の仏壇には西瓜つまみ食いをしようとすると仏陀像と目が合い気まずい

逆さの浮世は黒い影がタップダンスを踊って雨の町






静かに貝の中で蜃気楼は育つ

洗面台に出現したブラックホールから謎の入れ歯を入手

美術室の粘土の模型はひそかに夜になると動く

人生にはあの曲がり角の裸電球の下で

死について考える時間が必要

春の余命はあといくばくだから

蔵の裏の人魚と酒盛りをする

道という字は人生の長さを意味する気がする







遠くの山から祭囃子が聞こえる

潮騒は静かに光る貝殻を集める

人生とは其処の道に堕ちている一匹の猫

過去を語ると鬼が出る

夕べの夢が枕の下でにやにや笑っている

静かな部屋で念仏の音を聞く男には

大事にしていた記憶があった

夏という季節が凡てを懐かしい色に変え

男はいつの間にか影になって







誰も来ない山奥に仏像は眠る

誰も来ないと分かってても

其処に何百もの仏像が人を待つ

ある時人生に疲れた男が仏像を見にやってきて

男も仏像になってしまった

魂眠る昔の人々の隠れ里に今年も夏が来て

向日葵が咲く畑で

ひそひそと子供達が極楽教の教えを伝え合う

どうかこの山に訪れた際には線香を







磯貝は阿古屋貝の如く静かに潮騒を聞く

狭い小さな部屋の中で過去に取りつかれた男が死ぬ

不幸とは幸福の始まりではないか

お墓を眺めては何故か遠くの寺の桜を想う

夏を閉じ込めておいた冷蔵庫から

逆さの仏像が転がり出てきてから

僕の枕元には雲水さんの幽霊が夜立つ

死が怖くないのか

夏を想う







夢の中で櫻は咲く

夏の気配のする隧道では木漏れ日がきらきらと

過去へと向かう列車の中

どうして人生は終わりがあるのだろう

終わらない人生に喜びはあるのだろうか

言葉は外の街灯に照らされて

煙草の煙の様に消えてゆく

朝の気配に夜は怯えて墓石の裏に隠れてる

煎茶の美味しい季節に

夏は来る





懐かしい記憶を思い出してそっとサイダーの便底を見る

夢ばかり追っていた若い頃が

夏になると走馬灯の中できらきら光っている

夕べの夢は幻でしたか

たましひは何時だって夢を見る

夏が怖くてちょっと仏壇の後ろに隠れてみた

狂い咲きをする櫻が夏になるとあの坂の上で

姉様の命日には灯篭を流す







夏を欠片を探して枕元の夢を覗き見る

言葉のいらない友達はあのトイレの花子さんだ

テストの答案用紙に見覚えのない謎の真言が書き込まれている

宿場町はただ静かに夏を待つ

路地裏を横切る黒猫と目が合う

部屋の暗がりに真っ赤に血走った瞳が落ちていて

そっと瞳にはめ込むと過去が見える

夢のかけら









海辺の炎は人の裏側を映し出す

所詮この世はうつつのまぼろし

想い出引きずったって

カラスが不吉な声で空で鳴いている

瞼の裏側に万華鏡模様が

弱虫の心を映し出す一三番目の鏡

虫下しをこっそり飲んだら

十二時に消えてしまおう

合わせ鏡の中の自分に

手を取られて

或る日の海は

ダイヤみたいに輝く


道端の陰に夏は潜んでいる

ゆっくりと日陰を食らいながら

黒い夏はどんどん大きくなってゆく

夏になると人生について考えたくなる

秋風に吹かれるまでは暑い日差しと遠い過去

刹那と久遠の声がどこまでも響き渡る祭り太鼓のよう

夢を見ていました

何処か遠い過去であなたを想いながら

陽炎が道に立つ

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