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追放された大聖女は黒狼王子の『運命の番』だったようです  作者: 星名柚花


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13:拒絶と笑顔と

「いまは、でしょ。これから先、気が変わって入れるかもしれない。あんたがエレギアに害を成さない保証がどこにあるの。冤罪で追放されたなんて真っ赤な嘘で、裏では聖王国の王と結託し、森の豊かな資源や《神樹》を狙ってエレギアを滅ぼしに来たのかもしれないじゃないの。無条件で愛される《精霊の愛し子》なら大精霊を唆すのも簡単よね」

「唆したりなんてしないわ!」

 思わず叫んだが、メルトリンデの目は冷ややかだった。


「どうかしら。人間なんてみんな同じよ。優しそうな顔をしながら平気で裏切る汚い連中。国王や王子を味方につけたからって良い気にならないで。誰が何と言おうとあたしはあんたを信じない。あんたたちがやったことを許さない」

 親の仇でも見るような目で睨まれた。

 いや、確かに過去、人間は彼女の母を殺しているのだ。


「…………」

 何も言えず、私は唇を噛んだ。


 ――メルトリンデが人間を嫌うのも無理はない。


 過去には獣人族を獣に見立てて狩る『獣狩り』だなんて野蛮極まりない行為も当たり前に行われていたし、いまでも亜人に対する差別はなくなっていない。

 聖王国に奴隷制度はないが、大国ミグロムでは亜人は奴隷として売買されている。

 シャノンは命からがらエレギアに逃げ込んできた亜人奴隷を何度か保護したことがあるそうだ。

 奴隷刻印が刻まれた首輪を嵌められた者の中には酷い傷を負った者もいたらしい。


 メルトリンデは人間に傷つけられた亜人を癒す一方で、恨みと憎しみを募らせてきたのだろう。


 ――きっと何を言っても、彼女に私の言葉は響かない。

 彼女の信頼を得るには、並大抵の努力では済まないことを痛感する。


 私が黙り込んでいる間にメルトリンデは顔を背け、ポーション片手に部屋を出ていった。

 遠ざかる彼女にかける言葉はない。

 メルトリンデの小さな背中は、はっきりと私を拒絶していたから。




 昼食を摂った後、私は自室のソファに座っていた。

 兎のぬいぐるみを撫でながら、今朝のやり取りを思い出して重い息を吐く。


《今日は出かけないの?》

 テーブルの端に座って足をぶらぶらさせながら、ディーネが聞いてきた。


「……ううん、出かけるわ。ついてきてくれる?」

 手に持っていた兎のぬいぐるみをテーブルに置いて立ち上がる。

 亜人を虐げる酷い人間がいるのはわかっているけれど、少なくとも私はそんなことしないと、亜人を助ける側の人間だとわかってほしい。


 ――現状を嘆いて引きこもっていたところで何の意味もないわ。信頼してもらうためには、自分から動かないと!


《いいわよ。ていうか、あたしがいなきゃ言葉がわかんないだろうし》

 他の契約精霊たちもついていきたいという意思表示をしたため、私は全員を連れて今日も王都を回ることにした。


 空が青く晴れ渡った夏の昼下がり。

 負傷者を見つけるたびにその傷を癒していた私は、とある民家を訪れていた。


 私の目の前には使い古された木造のベッド。

 そこには立てた膝の下にクッションを挟んだ大柄な男性が寝転がっている。


 男性の頭には、この家まで私の手を引いて案内してくれた男の子と同じく熊の耳が生えていた。

 人間に身を任せるのは不安なのか、それとも単純に腰が痛むのか、男性は見事なしかめっ面。

 男の子の話によると、この男性は木こりの仕事中にぎっくり腰になってしまったらしい。


「×××……」

 男性の妻が胸の前で両手を合わせて何か言った。

 彼女の瞳には期待と不安が同居している。

 彼女の頭に夫や子のような熊の耳はない。

 その代わり、額から一本の角が生えている。

 彼女は獣人族ではなく、鬼族と呼ばれる種族だ。

 この二週間、街を回り、様々な亜人と交流することで、亜人の種族については大体把握できた。


 どこにどんな亜人が住んでいるのかもシャノンが地図を片手に教えてくれた。

 失礼があってはいけないので、『やってはいけない仕草や行動』については特に厳しく学んだ。


 たとえば、鬼族に手招きしてはいけない。

 それは最悪の侮辱行為にあたるため、殺されても文句は言えないのだとか。

 手招きしただけで殺されるとは。無知って恐ろしいですね。


《××××。××××。×××》

 ディーネが明るい声で女性に何か言った。

 アンジェリカに任せとけば大丈夫よ、とでも言ってくれたのかもしれない。


「お任せください」

 私は亜人の言葉でそう言った。

 必死で勉強してきたから、少しだけ亜人の言葉を喋れるようになった。


 私は一歩前に進み、男性の腰に向かって手をかざした。

 精神を集中し、治癒魔法をかける。

 ぱあっ――と、私の手から金色の光が放たれた。

 金色の光は男性の腰を優しく包み込み、瞬く間に痛みを消した。はずだ。

 数秒して光が収まると、男性は驚き顔で起き上がった。


「×××××!」

 自分の腰を叩いて短い言葉を叫び、男性はベッドから下りて立ち上がった。

 女性は安堵したように笑い、男の子は嬉しそうに男性の腰に抱きつく。

 戯れる親子を壁際で見守りながら、私は微笑みを浮かべた。


 治癒を終えると、相手は笑顔を見せてくれる。

 私はその顔が見たくて頑張ってきたのだ。

 笑顔で礼を述べられると、ちっぽけな自分にも価値があるように思えて嬉しくなる。

 いまもそうだ。

 あんなに怖い顔をしていた男性は私の手を取り、最高の笑顔で「ありがとう」と言ってくれた。


「どういたしまして」

 大きな手を握り返し、私は笑った。

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