第6話 蔵の湯
当たりだった。このハンバーグ凄く美味しい!
米沢で食べたハンバーガーもよかったが、これも負けてはいない。また来たくなる美味さだ。
「美味しかった!」
ルーシャも大満足。食後のデザート、豆乳プリンも完食。ほんと、この細い体のどこに消えているんだろうな?
「ほんと、美味しいものばかりで元の世界に帰りたくなくなるわ」
「そういや、帰れたりできるの?」
「うーん。不可能ではないと思うけど、今の魔力では無理だと思う。今の三倍、いえ、四倍は必要だと思う」
よくわからないが、帰ることが不可能じゃないのならなによりだ。
「オレも異世界に行ってみたいものだ」
世界を超えたらオレも魔法とか使えちゃうのかな? 魔物と戦うのは嫌だが、竜とか見てみたいな。空とかも飛べちゃうんだろうか?
「帰れるようになれば了も連れて行くわ。まあ、美味しいものもなければ泊まるところも最悪だけどね」
あーまあ、ファンタジーな世界っぽいしね。日本のような暮らしは期待してないよ。
「それまで体を鍛えておかないとな。魔物に殺されたくないし」
今から鍛えても魔物と戦えるようにはならんと思うが、ルーシャの邪魔にはならんようにしないとな。
「それならわたしが鍛えてあげる。これでも戦闘力は高いんだから」
細い体ながら結構力があったりする。たぶん、オレが挑めば瞬殺だろう。オレを勘がそうだと訴えている。敵にしちゃいけないタイプだ。
「あ、ああ。頼むよ。でも、まずはランニングだな」
教えてもらう前にある程度鍛えておかないとついて行けない気がする。そんな気がするのだ。
「道の駅で少し休んだら風呂に入ろうか」
満腹で風呂に入るのは体によくない。ゆっくりしてから入るとしよう。道の駅まだやっているだろうから地元の日本酒を買ってキャンピングカーの中で晩酌にしよう。
オレも健康な体を取り戻せたからか、酒が飲めるようになり、美味いと感じるようになった。まあ、そんなに飲めるわけじゃないけどな。
道の駅喜多の郷に移り、売店を巡り、地元の酒やつまみになりそうなものを買った。
「地元のお酒ってたくさんあるのね。なにを飲んでいいかわからないわ」
「まったくだ」
多すぎてなにを選んでいいかわからない。飲み比べセットだけでも数種類ある。拡大収納化魔法がなければキャンピングカー内は空瓶で埋まることだろうよ。
コーヒーを淹れて一休みしたら風呂に向かうとする。
「ん?」
あれ? このイエローのハスラー、賜の湯にもいなかったか? 車内も車中泊仕様になっていた。オレと同じく旅をしているのかな?
「どうしたの?」
「いや、なんでもないよ」
そんな偶然もあるだろうと、日帰り温泉、蔵の湯へとお邪魔します。
「お、十七時以降は三百円になるんだ。ラッキー」
通常でも五百円と安いのに、十七時以降は三百円になるとか神かな? こういう日帰り温泉は長く続いて欲しいものだ。
内風呂と露天風呂があり、客もそんなにいない。さすがに貸切状態とは言えないが、気にするほどの数でもない。体を洗い、湯船に入る。
「あ~。いい湯だ」
広い風呂ってだけで解放感がある。人がいなかったら泳ぎたいところだ。
体が温まったら体を洗い、今度は外湯に入ってみる。
至福の一時。オレは今、幸せを体現している。
まあ、それも三十分で限界。風を浴びて体を冷ましてから上がるとする。
「会津の牛乳か」
風呂上がりに牛乳を買ったら地元のものだった。こういうのも楽しみの一つだよな。東北は酪王カフェオレもいいよな。あれは癖になる美味しさだ。栃木のレモン牛乳も好きだな~。
自販機の前で待っていると、ルーシャが見知らぬ女性とやって来た。誰?
「初めまして。矢代八千代よです」
なんか名刺を渡された。
なんかオレでも聞いたことがある出版社の人だった。第六編集部編集長とのことだ。
見た感じ、オレとそう年齢は変わらない人なのに編集長なんだ。優秀な人なんか?
「まさか現代社会でエルフに出会うなんて思いませんでした!」
「頭を洗っていたら声をかけられたのよ」
ハァ~とばかりにため息をつくルーシャ。
「道端了です。ちなみにアンジェリカとは無関係ですから」
自己紹介すると関係者かと尋ねられるので、否定の言葉までがセットだ。
「日本人なんですか?」
「正真正銘、日本人ですよ。ルーシャとは米沢で出会いました」
「米沢出身なんですか!?」
いや、そんなわけねーだろう。この人天然か?
「異世界出身ですよ。神殿を探索してたらいつの間にかこの世界に来ていたようです」
ルーシャ自身もなぜこの世界に来たかはわからないらしい。それらしい装置を踏んだわけでもなければ異世界に放り出した人物もいなかったそうだ。
「え? 言葉がわかるんですか?!」
「なんかそんな魔法をかけられました。矢代さんはわからず声をかけたんですか?」
凄い度胸だな。海外旅行とか平気で行っちゃうタイプだろう。
「思い立ったら吉日タイプなので」
悪びれもせず、断言する矢代さん。オレ、ちょっとこの人苦手だわ……。




