第32話 田村家
夕方、悠人さんの奥さん(名前は忘れました)がやって来た。
この人もヤンキー出(?)なので、見た目は派手だ。だが、子供がいるのでヤンママか? 農家に嫁ぐほどなんだから悪い人ではないんだろうよ。
「二人も連れて帰って来たのかい?」
「奇跡みたいな出会いがありまして。あ、これお土産です」
玄関先に用意していたお土産を見せた。
「凄い量だね。人生最後の旅だと思ってたくさん買ってしまいました。病気が治っていたらしっかり稼ぎますよ」
「確かに顔色よくなっているね。ここに来たときは痩せこけて青白い顔してたからね」
あの頃は最後の火を燃やして生きている感じだったっけ。
「出会った彼女、ルーシャ、来てくれ」
家の中を掃除しているルーシャを呼んで紹介した。
「留学生のルーシャです。まだ日本語は不自由ですが、簡単な言葉はしゃべれやす」
「ルーシャです。よろしくでーす」
ギャグみたいな挨拶をするルーシャ。ネットで学んだのか?
「仁美だよ。よろしくね」
あ、仁美さんだ! 思い出したよ!
「ヒロミさん、よろしくでーす。エルフのコスプレをやってまーす」
「コスプレイヤーってヤツみたいです。オレはその手に詳しくないのですが、特殊メイクが専門みたいですね。マッサージ師としても生計を立てていたそうですね」
ってな設定を皆で決めました。
「旅の途中で出版社の人とカメラマンの人に出会って会社を創ろうってことになったんです」
「あ、初めまして~。そのカメラマンの妹の阿佐ヶ谷璃子と申します。あたしは、サポート要員として雇ってもらいました~」
阿佐ヶ谷妹も現れて挨拶をした。
「な、なんだか賑やかな子だね」
「ムードメーカーってよく言われます! お隣に住まわせていただきますね」
「住んでもらえるならこちらとしてはありがたいよ。お義父さんが税金対策になってありがたいって言ってたからね」
「ありがたいのはこちらのほうです。オレはもう親しい親族もいないので。貸してもらえるだけでありがたいですよ」
保証人は会社でお世話になった田村さん。ここの田村慎吾さんの弟さんがなってくれた。感謝しても感謝し切れないよ。
「和樹叔父さんがお願いしてきたときは驚いたけど、悪い人でないのはわかったからね。うちとしては大歓迎だよ」
「家賃も上げてもらって構いません。リフォーム代も出してもらえるみたいなんで」
「それも税金対策だから気にしなくていいよ。あたしはその辺わかんないけど、この平屋はそのために建てたみたいだからね」
へーそうなんだ。頭がいい人だったんだな。
「璃子さん。お土産を運んでくれる? 酒はおれが運ぶから」
お土産が多すぎてカートに載り切らなかった。ルーシャたち、どんだけ買ったんだか。日本酒だけで二十本もあった。もう田村家をアル中にしようかって量だわ。
「わかりました~!」
「ルーシャ。運んで来るから掃除を頼むよ」
「任せてくださーい」
仁美さんにも手伝って貰い、母屋に運んだ。
「はー。立派な家ですね~! 実家の家より凄いかも!」
「あたしも初めて来たときは驚いたものよ。璃子ちゃんは実家どこなの?」
「秋田です。声優になりたくて東京に出ましたけど、泣かず飛ばす。ニートやってました」
「あはは。明るいね~」
「それが取り柄ですから!」
その取り柄で別の職につけばよかったのに。この子なら大抵の職についても上手くやって行けると思うのにな。
「しかし、凄い量だよね。食べ切れるかな?」
「そのときはご近所に配ってください。これからお世話になるんで」
「そうだね。お、喜多方拉麺かい。旦那とデートで食べに行った以来だ。また行きたいもんだ。今日はこれにしようか。道端さんらも食べて行きな。なんも用意してないでしょう」
「はい、お願いします」
「そうだ。お寿司でも取ろうか。旦那に買って来てもらうよ」
そう言えば、挨拶しに来たときも寿司を出してくれたっけ。栃木は寿司を出す習慣があるのか?
「お寿司、食べたいです!」
おねだり上手な子だよ。
「あ、仁美さん。どうしたの?」
出戻りしたお姉さんの娘が現れた。学校帰りかな? ここから高校に通うって大変じゃない? バス、通ってたっけ?
「お帰り。道端さんが帰って来たんだよ。淳子さんにラインしておいてよ。帰って来てたくさんいたらびっくりするだろうからね」
「わかった~」
お土産を置いたら戻り、掃除を続け、さっきの女子高生──陽愛ちゃんと悠人さんの子供たちが呼びに来た。
「おー。エルフだ~」
ルーシャの姿に三人が目を丸くしている。エルフってそんなに有名なん?
いやまあ、オレですら知ってんだから今の子が知らないわけないか。Vチューバーとかエルフでやっている人、結構いるみたいだからな。
「ずっとそんな姿でいるんですか?」
「一度メイクするとなかなか取れないんだよ。今度、ルーシャにやってもらうといいよ。魔法のようなメイクだから」
事実、魔法なんだけどな。
「あたしもやってもらったんだよ。ほら」
と、自分のスマホを出してエルフになったときの写真を見せた。
「おー! エルフだ! 本当に魔法みたい!」
「あたしもなりたい!」
女の子は興味津々だ。幼稚園児の男の子には響いてないようだが。
「ルーシャ。戸締まりしてくれ。璃子さんもな」
「わかりました~」
「オッケーでーす」
残りの日本酒を持って母屋に向かった。




