第31話 帰宅
白河市から那須塩原市まで一時間もかからない。でも、我が家、どこだっけ? 住所、スマホに登録していたよう? あ、あったあった。
「了さん、コーヒーです」
国道4号線沿いのコンビニにてスマから住所を探し、カーナビで場所を探す。経路設定したら阿佐ヶ谷妹とルーシャが戻って来た。
「ありがと」
ここからはオレが運転して我が家を目指した。
「栃木も田舎ですね」
栃木の人にケンカを売るようなセリフだが、山形と福島を見て来たら否定も出来ない。そもそもその田舎がよくて選んだのだ。都会になってもらっても困るってものだ。
オレがお世話になっている田村さんは、田んぼをやっている農家で、ありあまる土地を活かして平屋を建てて貸し出していた。
だが、時代が進み、田んぼの中にある平屋を借りる人はいなくなり、もう十五年くらい空き家だったそうだ。
「家の造りが雪が降らないことを示してますね」
確かに山形の家とは違う。栃木はまだ関東ってことか。
「スキーとかもやってみたいな~」
「冬になったら秋田に来ますか? 岩手のほうが大きいスキー場はありますが、その分、空いてますよ。ゆっくりするなら秋田ですね」
「いいね。是非とも行ってみたいものだ」
そうなると冬タイヤも買わないといかんな~。てか、冬の道、走れるかな? そこは阿佐ヶ谷妹に任せるか。雪国育ちだし。
「あ、そこだよ」
県道から細い道を入ったところに田村家がある。
昔、庄屋だったの? ってくらい大きな敷地で瓦屋根の立派な家だ。
一応、平屋にも駐車場はあり、縦に二台は置けるようになっている。
「草ボーボーですね」
「借りるにあって刈ってはくれたみたいだけどね」
まだ三月だったから草は生えてなかった。四月も終わりだから草も元気なんだろうよ。
「オレは挨拶に行って来るよ」
まだ畑仕事しているかもしれんが、今時スマホを持たず畑に行く人はいない。田村さんも常に持ち歩いていたよ。
「その間、家の周りの草を抜いておくわ。リコは家の窓を開けて空気の入れ換えをして」
「はーい」
家は任せて電話をかけると、息子さんが家にいるそうとのことだった。
家主である田村さんは六十過ぎ。息子さんはオレより二、三歳上で結婚をしている。子供も二人いて小学生と幼稚園児のこと。あと、出戻りしたお姉さん、その娘さんも一緒に暮らしている。
息子さんの悠人さんとは会っていて、元ヤンキーとか。最初は驚いたが、栃木ではそう珍しいことではないとのこと。今はいい旦那さんでいい父親だ。
物置に行くと、トラクターを整備していた悠人さんがいた。
「こんにちは~。帰って来ました」
「おー。お帰り。旅はどうだったい?」
「とてもよかったです。いろんな人にも会えました。あ、お土産たくさんあるんでカート貸してもらえますか?」
「そんないいのに」
「これからお世話になりますしね」
「病気、よくなったんだって? 親父がそんなこと言ってたが」
「はい。ストレスが消えたからか、なんか体調がよくなったんですよね。まあ、一度病院で検査してもらわないといけませんけどね」
治った証明がないとウソをついていたとか思われてしまうからな。
「そうか。完全に治っているといいな」
「はい。旅先で知り合った人と暮らすのでよろしくお願いします」
「外人だって?」
「外人と言うか、まあ、夜にでも紹介させてください。旅先で日本酒をたくさん買ったので皆で飲みましょう」
「そうか。カートは好きに持って行きな。うちのをあとで行かせるから」
「ありがとうございます。では、夜に」
カートを借りて家に戻った──ら、草が完全に消えていた。ホワイ?
「早かったわね。草は一本残らず抜いておいたわ」
「ま、魔法で?」
「ええ。この世界の植物にも効いてよかったわ」
どう効いたか怖くて尋ねられない。ここは流しておこう。
「夜、挨拶に行くからよろしくな」
「このままでいいの?」
「まあ、大丈夫だろう。下手に隠すのもなんだしな。一応、コスプレイヤーってことにしておくよ」
言葉は通じないし、なんとかなるだろうさ。
「周りのゴミもなんとかしないとな」
「捨ててもいいものなの?」
「いいとは聞いているよ。纏めて捨てないとな」
軽トラを借りて焼却場に持って行くか。それとも業者に頼んだほうがいいかな?
「処分していいのなら消滅させるわよ」
消滅?
玄関脇の木箱に手をかざしたら忽然と消えてしまった。ブ、ブラックホールですか?
「大きいものは無理だけど、このくらいなら問題ないわ」
魔法、どんだけ~!
「ま、まあ、手間が省けていっか」
いらないものだしな。次からちゃんとゴミ集積所に出せばいいんだしな。
「壁のカビも取り除いても構わない?」
「あ、ああ。よろしく頼むよ」
もうなにも言うまい。綺麗になってよかったね、だ。
「了さん。掃除機かけました」
「ありがとう。次は隣の平屋も頼むよ。そっちを阿佐ヶ谷家にするから」
一応、平屋は三軒あり、いずれ事務所にさせてもらうつもりだ。オレはここに住むつもりであり、東京に戻るつもりはない。スタジオは駅前の空きビルを借りる予定だ。
「おー! 阿佐ヶ谷家か~! 悪くないですね!」
若い子なら東京のほうがいいと思うのだが、無職の身には東京は辛いらしい。衣食住完備のところなら田舎でも構わないらしい。新幹線に乗れば東京なんてすぐだしな。
「念入りに掃除機かけてきます!」
がんばってくださいなと見送り、家の中に入った。




