第3話 旅の開始
「お待たせ」
やっとルーシャが出て来た。
エルフとは言え、女性の風呂は長いものなんだな。一時間もよく入っていられたものだ。オレは四十分が限界だよ。
「なにか飲むかい?」
「ええ、飲みたいわ。なにがいいの?」
「風呂上がりにはこれだな」
牛乳とコーヒー牛乳を買った。やっぱ伝統的飲み物でしょう。
「まずは基本から飲んでみるか。苦手なら無理に飲むことないからな」
エルフじゃなくても好みはあるだろう。無理なら水でもいいだろうさ。と思ったが、別に問題ないようだ。美味しそうに一気飲みしちゃったよ。
牛乳を渡し、一口飲んでもらった。
「こんなすっきりした牛の乳なんて初めて!」
口に合わないってこともなく、ゴクゴク飲み干してしまった。
「美味しかったわ!」
白いヒゲを生やしながらご機嫌顔。
「それはなにより。これも飲んでみるか?」
まだ飲みたそうにしていたのでコーヒー牛乳も渡した。
「これも美味しい!」
異世界なエルフさんは胃が丈夫らしい。でも、三本目は止めておこう。腹を下してしまうからな。
「了はいいの?」
「上がってすぐに飲んだから大丈夫だよ」
風呂上がり一番に飲んでこそだからな。お先にご馳走さまです。
「外で涼もうか」
借りてまで休憩することもない。これから服を買いに行くんだからな。
風はないが、そこまで気温が高いわけじゃない。三十分くらいで汗が落ち着いてくれた。
十時前だが、移動している間に十時は過ぎるだろうと、し○むらへレッツゴー。カーナビ様、よろしく~。
計算どおり開店しており、店内に入った。
今さらだが、女性物ってなにを買えばいいんだ? サイズとかどうしたらいいんだ? 店員さんに訊けばいいのか?
「すごぉーい! 服がたくさんあるわ!」
ここはルーシャの女子力とやらに頼るとしよう。カゴを渡し、好みの服と女性用下着を入れてもらうことに。
さすがに下着は試着できないので、合いそうなのを一枚買ってキャンピングカーで穿いてもらい、ちょうどよかったら十枚買うことにした。
「こんなに買っていいの?」
「毎日同じもの着るわけにもいかないしな。十枚は買っておいたほうがいいよ」
一日で洗濯するのも面倒だ。一週間くらい溜めてから洗濯するのがいいってもんでしょう。
買った服をキャンピングカーの中で着替えてもらい、披露してもらった。
「ど、どうかしら?」
思わず見惚れてしまった。
綺麗な人だとは思っていたが、服装一つでびっくりするぐらい見違えてしまった。これは、逆に目立って大変なことになるのではないか?
「……と、とっても綺麗です……」
なに畏まってんだオレは? って、オレ、生まれた年齢=彼女なしだったわ。よくこれまで平然と話してたもんだ。いや、二人でホテルとか泊まっちゃってたよ。
「……あ、ありがとう……」
お互い恥ずかしくなってしまった。
「つ、次は、生活必需品を買いに行こうか」
ラブコメする年齢でもない。いや、ラブなんてしたことないが、いつまでもテレる年齢でもない。ホームセンターに向かうとする。
女性がなにを使うかわからんが、ルーシャ用の歯ブラシやお風呂セット。毛布やシーツ、タオルなんかを買った。
「二人分となると結構な量になるもんだ」
キャンピングカーは買ったものの、すべてを利用しているわけじゃない。シャワーやトイレは道が駅やコンビニを利用している。
食料や水もコンビニだ。出たゴミも同じ系列のコンビニに捨てている。
でも、これからはRVパークや車を停めれるキャンプ場を利用しないとダメだな。ゴミはすぐに溜まるから。
「せっかく米沢に来たんだから観光しようか」
「観光?」
「旧所名跡や観光地を回ることだよ。旅の醍醐味はそれだね」
旅なんてしてこなかったからいろんなところに行っていろんな景色を見てみたい。命を繋いだのだから無駄にはしたくない。
それに、誰かと旅をするのはおもしろいと思う。いや、誰かがいるってことが嬉しい。
いつかルーシャは消えるかもしれない。オレに嫌気をさすかもしれない。その日が来るまで、一緒に旅を続けよう。今はそれがオレの目標であり生き甲斐だ。
「米沢城跡に行きたくて米沢に来たんだ。あと、米沢ラーメンや米沢牛も食べたい。あ、サクランボもいいな」
四月後半だが、温室なら栽培していると雑誌に書いてあったっけ。
「わたしも、いいの?」
「もちろん。そのための買い物さ」
一人より二人。楽しさも倍増、とか聞いたことがある。受け売りですみません。
「さあ、行こうか。これからが本格的な旅の始まりだ」
「うん。よろしくお願いします」
「こちらこそ」
キャンピングカーに乗り込み、二人での旅を開始した。
さあ、人生を楽しもうじゃないか!