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第13話 味方

「わたしが撮るわ! 代わって!」


 その迫力に押されて矢代さんが逃げ出した。いや、誰よ?


「す、すみません。うちの姉、写真家の弟子でして、つい血が騒いだみたいなんです。あ、あたし、阿佐ヶ谷璃子あさがやりこ。あっちは、阿佐ヶ谷実子あさがやみこです」


 妹さんが恐縮そうに頭を下げた。


「あ、歌ったりお笑いする姉妹とは違いますから」


 そんな姉妹がいるのか?


「あ、よく言われたりするんだ」


「はい。あたしたち、秋田出身なんですけどね」


 名前がそうだからって阿佐ヶ谷に住んでいるわけではないわな。会社にも福島さんがいたが、岐阜県生まれだったし。


「どうします?」


 矢代さんに尋ねる。オレには解決できそうになないので。


「写真家のお弟子さんならわたしより腕は確かですからね。お任せしましょう」


「ルーシャ、言葉わかりませんよ」


「あ、そうでしたね。ここでは不味いですし、わたしが相手します。カメラマンと話したことは何度もあるので」


 そうだった。出版社の人だったっけ。危うくその事実を忘れるところだった。


「お任せします」


 ルーシャも矢代さんの言葉なら聞いてくれるだろう。


「なんか、本当にすみません。おねーちゃん、写真のことになると常識とか捨てちゃうんで……」


「大丈夫ですよ。ちょっと前からそういう人といますから」


 矢代さんも阿佐ヶ谷(姉)さんと同じカテゴリーに入る人。まあ、まだ常識を放り出さないだけマシだろうけど……。


 写真のことはなにもわからないが、角度や明るさが大事ってことぐらいは知っている。写真家の弟子とは言え、言動からプロってのはわかった。


「あ、オレは道端了です。アンなジェリカさんとは無関係です」


「ぷっ。了さんもなんですね。あたしも自己紹介したとき言いますよ。歌ったりお笑いはしないって」


 あ、言ってたわ。有名人と同じ名字あるあるなんだな。


「これから東京に帰るんですか?」


「うーん。たぶん、ここに一泊になるかも。おねーちゃん、あの通りだし。きっと満足するまで解放してくれないと思う。了さんたちこそ大丈夫なんですか?」


「オレらも同じだよ。矢代さん、ビール飲んだし。きっとまた酒を飲むと思う」


 いや、確実に飲むだろう。短い時間とは言え、あの人の性格や方向性を知るには充分だったからな。


「了さんたちは、あの矢代さんとはどんな関係なんです?」


「んー。旅先で知り合った人、かな? 流れで一緒にいるってだけさ。まあ、ルーシャがエルフってことで話しかけてきた感じだね」


 まあ、わからないではない。オレだってエルフが歩いていたら目を向けるしな。話しかけたりはしないけどさ。


「秘密、ってわけじゃないんですか? 耳は隠していませんでしたけど」


「エルフのコスプレをしている外国人、って設定だね。下手に隠すと真実味が出るからね。矢代さんはその協力者、って感じかな? 出版社の人ならさらに真実味が出るしね」


 その設定がどこまで通じるかはわからない。が、今のオレにはそれしか考えつかないんだよ。


「それ、あたしたちに言っちゃったりしていいんですか?」


「君のお姉さんはたぶん、ルーシャがエルフかコスプレイヤーかなんて気にしないんじゃない? 被写体が美しく、輝ければいいってタイプでしょう。プロなんだよ。プロは信用に値する。矢代さんもそうだと思ったから任せているんだと思う」


 なにかを極めたりすると自分の仕事にウソがつけなくなる。阿佐ヶ谷(姉)さんはそういう人だ。


「オレは男だから相談に乗ってやれないこともある。女性が味方になってくれるのはありがたい限りだよ」


 矢代さんは、まあ、いろいろ問題はありそうだが、コミュニケーション能力がバカ高い。なんか顔も広そうだ。味方にしておくべき人だろうよ。


「妹さんは、仕事とか大丈夫?」


「フリーターなんで大丈夫です」


 ちっとも大丈夫じゃないが、無職のオレより遥かに立派だろうよ。オレもフリーターくらいにはレベルアップしないとな。


「じゃあ、ホテルに一泊しても大丈夫だね。オレが出すから予約するよ」


 あれはしばらく終わらなそうだ。阿佐ヶ谷姉妹にも協力してもらいたいし、ゆっくり話す場所を用意するとしよう。


 日帰り温泉を楽しみにキャンピングカーを買い、旅をしていたが、命が延びたのだから焦る必要はない。今はルーシャが問題なく生活する基盤を作るとしよう。


 そのためなら五人分のホテル代など安いものだ。てか、今から予約取れるかな? この近くだとどこだ?


 スマホで調べ、近くに熱塩温泉あつしおおんせんってのがあった。ここからだと五分くらいか。


 電話をして予約状況を尋ね、人数と部屋割りを相談したらオッケーのことだった。なんか数分前にキャンセルが入ったらしい。これは誰にとっての幸運だ?


 一泊二日で余が取れ、十八時入りを予約した。


「お姉さんの説得、お願いできる?」


「お任せください! 殴ってでも連れて行きます!」


 いや、殴っちゃダメでしょう。


「まあ、頼むよ」


 あ、ゴミ捨てや排水出来ないかも相談するんだった。行ったら相談してみるか。一応、RVパークも探しておくか。

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