第11話 コスプレイヤー
九時半くらいに喜多の湯に入り、なんだかんだで昼過ぎまで休んでしまった。
「ビール二杯も飲んで大丈夫なんですか?」
温泉で流した以上の水分を補給してますよ、あなた。
ちなみにルーシャは四杯は飲んだが、丸っきり酔った様子はない。どんな身体機能してんだか。あの飲んで食べたものはどこに消えてんだ……?
「大丈夫大丈夫。ビール二杯で酔ったりしませんよ。まだイケますって」
「いや、これから写真を撮るんじゃなかったんですか?」
完全に忘れているでしょう。昨日の二の舞だよ。
「あ、そうでした。ルーシャさん。あなたの写真を撮りたいんですが、いいですか? 悪いようには使わないので」
「写真? 構わないわよ」
「ネットに出すなら名前は変えて、コスプレイヤーみたいな感じにしてくださいね。あまり、ではなく、素性がバレると困るので」
本物のエルフと知れたらどんなことになるか。それならエルフのコスプレイヤーとして誤魔化し欲しい。今の日本ならエルフのコスプレイヤーと言っても疑われないだろうよ。
「お、それいいですね。その設定いただきです」
ルーシャの存在がバレないならなんでもいいさ。矢代さんなら上手くやってくれるだろうしな。
……この人、破天荒ではあるがバカではない。むしろ、唸るほど頭の回転が速い。どっちが本当かわからなくなるがな……。
「じゃあ、タイトルはエルフさんの旅行とかどうです? ルーシャさんも旅の記録が残せていいと思いますよ。人気が出たら写真集とか出せます。もちろん、写真集の売上の十パーセントは払いますので」
写真集? グラビアアイドルの写真集ってわけでもないのに売れるものなのか? まあ、ルーシャは美人でモデル体型ではあるが、豊満とは言えない。需要、そんなにあるか?
「ルーシャ、どうする?」
「いいんじゃない。お金が入るなら。なにからなにまで了に負担させるのも申し訳ないしね。写真に映るだけでお金が稼げるなら全然構わないわ」
「有名になるといろいろ面倒になる。そのことも考えたほうがいい」
「そうね。変化の魔法を覚えないといけないわね」
「変化の魔法?」
「姿を変える魔法よ。わたしはまだやったことがないけど、今の魔力なら出来そうな気がするのよね」
魔法、便利だな。さすがファンタジーな世界から来たエルフさんだよ。
「まあ、まだ売れるともわからないんですし、そう深く考えないでくださいよ。反応を見て対処して行きましょう」
それもそうだな。まだ捕らぬ狸の皮算用なんだから。
「あ、その前にお酒を抜いて来ますよ」
「わたしも入って入って来る」
オレは遠慮します。いくら温泉がよくても日に何度も入れないって。一日一度。それで満足だ。
「じゃあ、オレは寝て待っているよ」
大広間で昼寝をする。これはこれで乙なもの。違った癒しを与えてくれるのだ。
座布団を折って枕に。お休み~と寝たらすぐに起こされた。
「そんなに眠ったら夜眠れなくなるわよ」
スマホの時計を見たら十五時過ぎていた。いや、君ら二時間も入ってたんかい!
「随分、長いこと入ってたね?」
「いろいろ魔法を見せてもらってました」
人前で? あまり目立つことしないで欲しいものだ。今は気軽に動画にしてネットに晒す人が多いんだからさ。
「大丈夫ですよ。結界魔法で周りから見えないようにしましたから」
そんなことまで出来んのかい。夏になったら虫除けにやってもらおうっと。
「ソフトクリーム食べたら写真を撮りましょう」
なんだかんだとエンジョイしているよな、矢代さん。なんか取材に来たとか言ってなかったっけ?
「日帰り温泉っていいわよね。温泉があって食事が出来て、美味しいお酒がある。神の世に来たかのようだわ」
「オレは神が降臨したかのようだよ。半年もない命がルーシャのお陰で延びたんだからな」
エルフと言うより女神様だな、オレの場合は。
「ふふ。なら、お互い様ね。わたしも了が神に見えるしね」
オレが神? そんな壮大なことなにもしてないだろう。どこにでもいる普通の男でしかないよ。
「──お待たせ~。ハイ、皆さんの分も買って来ました。お金はいいですからね」
と言うのでありがたくいただいた。うん。美味い。これならオレも入るんだったな。
美味しくいただいたら喜多の湯を出て、荷物をキャンピングカーに置いた。
「もう散ってきましたね」
花吹雪が凄い。今年はたくさんの桜を見たな~。来年もまたたくさん見たいものだ。
八方溜池の土手には散る桜を見る人らが疎らにいる。
その人たちの邪魔にならないよう矢代さんがルーシャを撮っている。オレ? は見ているだけ。矢代さんが撮りたいのはルーシャだしな。オレは周りの人が来たら矢代さんに教える係だ。
「う~ん。なんか上手く撮れないわね~」
そうなの? オレにはよく撮れていると思うけど。素人の目でも。なにが不満なんだ?
「なんかこう違うのよね~。記念写真にしかならないわ」
それでいいんじゃないの? 別に雑誌の表紙を飾るわけでもないんだしさ。
「──そんなんじゃダメよ!」
と、声がして振り向いたら女性がいた。なんなごっついカメラを首から下げていた。誰?




