ep.3 マロンの物乞いからの号泣
冒険者ギルドで登録料を払えず、途方に暮れるレイジとマロン。市場の端に座り込んだ二人は、次の一手を考えていた。
「なぁ、マロン。どうすんだよ、金がないとギルド登録もできねぇし、このままじゃ野宿だぞ。」
「そんなの分かってるわよ! でも、どうやって稼ぐのよ!」
レイジは少し考え込み、不敵に笑った。
「……よし、決めた。お前が物乞いしろ。」
マロンは眉をピクリと上げて、鋭い目でレイジを睨む。
「はぁぁ? ??何言ってんのよ、このバカニートっ!!」
「いやいや、冷静に考えろって。お前、子どもっぽい見た目してるだろ? 同情されやすいんだから、俺より稼げるに決まってる。」
「このクズがっ!!?私のプライドが傷つくから絶対にやらない!」
剣が腰から一言。
「ほっほっほ、確かにこの小娘の方が物乞いには向いておるな。純粋そうな顔をしておるしのぉ。」
「剣、お前は黙ってろ!噛み潰すわよ!!」
「絶対にやらないから!」
腕を組んで拒否するマロンだったが、レイジの「異世界で生きるために頼む!どうしてもおまえの力が必要なんだ」という真剣な懇願(笑)に、最終的に折れることに。
「……これで金が集まらなかったら、絶対に許さないからね。」
「分かった分かった! 大丈夫、きっとうまくいくって!」
こいつ、チョロいな。
なんだかんだでレイジに説得され、仕方なく市場の広場で物乞いをすることになったマロン。彼女は地面にちょこんと座り、小柄な体を丸めて涙目を作りながら演技を開始した。
「……どなたか、助けてください……。お腹が空いて、もう歩けなくて……。」
最初は誰も気に留めなかったが、次第に周囲の人々がマロンの存在に気づき始めた。
「おい、あの子、物乞いしてるぞ?」
「こんな小さな子が……気の毒に。」
見かねた大人たちにより、銅貨が少しづつ貯まっていく。
その様子を見たレイジは、通りすがりを装い、指示を飛ばす。
「もっと悲壮感出せよ! 涙を流すんだ!」
「うるさいわね! 分かってるわよ!」
マロンは涙を流しながら両手を合わせて叫んだ。
「どうか、少しでも助けてください……!」
そこへ近くで遊んでいた子供たちが駆け寄ってきた。彼らは興味津々の様子でマロンを見つめる。
「お姉ちゃん、大丈夫? 泣いてるの?」
「お腹空いてるの?」
マロンはその言葉にさらに涙をこぼし、小さく頷いた。
「……はい。何も食べられなくて……。」
子供たちは一斉に自分のポケットを探り始め、小銭やお菓子を取り出した。
「これ、僕のお小遣い!」
「私のおやつだけど、あげる!」
銅貨数枚とパンの切れ端、そして飴玉が手渡され、マロンは頭を下げる。
「ありがとうございます……本当に助かります……。」
すると、一人の子供がさらにポケットを探り、くしゃくしゃの紙を取り出した。
「そうだ! 僕のお父さんがくれた宿泊券、これもあげる!」
「え……?」
マロンはその紙を受け取り、信じられないような顔をする。そこには確かに「やればできる宿 1組1泊無料」と書かれていた。
「本当に、、、いいの?」
「うん! お姉ちゃん、お腹いっぱい食べてゆっくり休んでね!」
子供たちの無邪気な笑顔に、マロンの心はズタズタになった。
「……うぅ……」
物乞いを終えたマロンは、手に持った銅貨と宿泊券を握りしめながら、ボロボロ泣きながらレイジのもとへ走って帰った。
「うわぁぁぁぁぁん!!」
遠くから泣き声が聞こえ、レイジは振り返る。
「おい、なんで泣いてんだよ!」
マロンはレイジの前で膝から崩れ落ち、泣きながら手に持った銅貨と宿泊券を差し出した。
「えぐっ、えぐっ、グスッ、、これよ、、っ! これで満足でしょ!? 子どもたちに恵んでもらって、屈辱で死にそうよぉぉ!!血統書、、つきなのに、、グスッ、、」
レイジは吹き出しながら宿泊券を受け取る。
「お前、泣きながら帰ってくるとか、どんだけプライド高いんだよ! ブハハハ!」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーん」
マロンは言い返す気力も残っていないらしい。
剣が腰から楽しげに言葉を放つ。
「ほっほっほ、いいぞいいぞ! 負け犬ポイントが一気に高まっとるわい!」
こいつ、、ブレねぇな。
その夜、二人➕1無機物は子どもたちにもらった宿泊券を手に宿屋を訪れた。部屋は広く、夕食も豪華だった。
「これ、マジでありがてぇな。子供たちに感謝だわ。」
レイジはベッドに寝転びながら、満足げに呟く。
一方、マロンはふてくされた顔でちまちまパンをかじりながら言う。
「……これ、全部アンタのせいだからね。」
真っ赤に腫らした目でこちらを睨むマロン。
「いやいや、俺の作戦が完璧だったってことだろ?」
「もう寝る! おやすみ!」
剣が締めくくるように言った。
「ほっほっほ、今日は負け犬ポイントの大収穫じゃったのぉ。次はどんな醜態を見せてくれるか楽しみじゃ!」
「だから負け犬言うなぁぁ!」
マロンは叫びながらベットに潜った。