ep2 冒険者ギルドへ
オークを倒したものの、心身ともにボロボロのレイジと、ただ俺を殴っただけなのでピンピンしているマロンは、一旦近くに見えている街へ向かうことにした。異世界初の勝利(?)を収めたとはいえ、状況を整理しないと何も始まらない。
「なぁ、マロン。とりあえず街で情報集めるしかねぇよな。」
「まぁね。でも、どうやって? 」
「冒険者ギルドだ!」
突然、大声で言うレイジに、マロンは驚いて目を丸くする。
「冒険者ギルド? なんでそんなの知ってんのよ。」
「異世界モノのテンプレだろ! とりあえず冒険者ギルドに行けば、情報も仕事も手に入るんだよ。」
「……思ったより考えてるじゃない。」
剣が腰から口を挟む。
「ほっほっほ。負け犬としての冒険の始まりじゃな。」
「おいクソ剣、うるせぇ!」
今は着ているジャージ、財布の中には小銭と国民保険証、くしゃくしゃになったレシートしか入っていない。後は折れたこのアホ剣のみ。他の持ち物はなく、ワンピース姿のマロンも同様に特に持ち物はない。
20分ほど歩き、街の門をくぐると、レイジは目を輝かせて周囲を見回した。そこには現実では決して見られない光景が広がっていた。石畳の道にはカラフルな装飾を施した屋台が所狭しと並び、そこには人間だけでなく、異種族たちが活気に満ちた市場を行き交っている。
大柄な牛の角を持つ男性が巨大な荷物を軽々と運び、通りの隅では小柄な獣耳を持つ少女が歌を歌いながら果物を売っている。その歌声に誘われるように、小さなドラゴンのような生き物が空を舞い、果物を一つ盗もうとして屋台の主に追い払われていた。空には、大きな翼を持つ鳥人族が優雅に飛び回り、遠くの鐘楼の上から市場全体を見下ろしている。
「おー、異世界感バリバリだな! すげぇ!」
「感心してる場合じゃないでしょ。ギルドはどこ?」
「だいたい目立つ建物がギルドだろ!」
市場を抜け、少し広場の方へ進むと、レイジの予想通り、一際目立つ建物が見えてきた。冒険者ギルドと書かれた看板が掲げられ、筋骨隆々の冒険者たちが行き来している。
「よし、ここだな!」
レイジは自信満々に扉を押し開けた。
ギルドの中は喧騒に満ちていた。受付カウンターには長い列ができており、壁にはクエストの掲示板が並ぶ。レイジは列に並びながらマロンに言う。
「ほらな! こういうとこだろ、まずは登録して仕事をもらうんだ。」
「で、ちゃんとやれるの?」
「なんとかなるだろ! なんせ俺には、この伝説の剣があるんだからな!」
剣を掲げるが、周囲の冒険者たちは一斉に笑い出す。
「おいおい、あいつ、剣が折れてるぞ!」
「ははは! 伝説の剣? どこがだよ!」
レイジは周りの視線に赤面しながら剣を下ろした。
「くそっ……!」
剣は嬉しそうに喋る。
「ほほほ、いいぞいいぞ! 周りに笑われるその姿、負け犬ポイントがどんどん溜まっておるぞい。」
「うるせぇ!」
ようやく順番が回ってきたレイジは、受付嬢に話しかけた。
「すみません、冒険者登録をお願いします。」
受付嬢はレイジの身なりをみてか、少し怪訝そうに答える。
「冒険者登録はできますが、登録料として銅貨10枚が必要です。」
「銅貨10枚……」
元の世界から一緒に転移してきた財布を覗くが、もちろん中身に銅貨は無い。
「いや、俺、金がないんですけど……。」
受付嬢はさらに困った顔をするが、周囲の冒険者たちが再び笑い始める。
「登録料も払えないやつが冒険者になろうとしてるぞ!」
「せいぜい雑用でもして稼ぐんだな!」
レイジは耳まで真っ赤にして頭を抱えた。
「もういい、どっかで稼いでから出直す!」
「ねぇちゃんたち、頑張れよっ!!」
さっき貶してきた冒険者っぽい筋肉隆々のおっさん達からエールを贈られる。いいやつなのか悪いやつなのかわからない。
っていうか、、、
「俺はねぇちゃんじゃねぇ!!男だ!!」
「ブハハハハハハ、何言ってんだ?どうみてもねぇちゃんだろ?」
くそっ!!久しぶりに対面で人と話して嫌なことを思い出した。昔からこの外見でいじられていた事を。
剣がまたもや満足げに声を上げる。
「ほっほっほ、負け犬っぷりが光っておるのぉ。」
「くそっ、もう黙れ!」