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8.卒業前夜2(二人目の親友との出会い)

一応R15とします

残酷な描写がたまにあります。

基本ゆるく行く予定です。

「そう言えば、スツルハミ伯爵家って、騎士団長輩出の家だよね」

 僕はふと思い出した 

「ああ。父上も現騎士団長だ。俺はどちらかと言うと近衛を目指しているけどな」

 誇らしげに、でも少し照れたようにクルトが微笑んで言う。

 美形の少年の照れたような微笑み。

 うん。その気はなくてもクラッときそうだ。女子が見ていたら腰を抜かすかもしれない。

 いや、現実に、僕の背後で数人分の押し殺した悲鳴が聞こえた気もする。

「ローグは何を目指すんだ?」

 クルトは悲鳴に気づいていないのか、そのまま話を続ける。

「うーん。まだ決まっていない。僕は次男だから、家を出ることにはなると思うけど」

 僕には、今年この学院を優秀な成績で卒業した兄がいる。

 領地は当然兄が継ぐ。そうなると僕の居場所はどこだろう?

「そうなると、尚更、早く目標決めたほうがいいぞ。鍛えるならば、少しでも早いほうがいいんだから」

 うん。ほんのちょっとしか話していないけどわかった。

 クルトは脳筋だ。今はまだ細身で華奢な感じがするけど、きっと3年後は、美形マッチョになっているに違いない。

 周りがどうあれ関係無しに、我が道を行くタイプだな。

 色々気を回す必要がないから付き合うのが楽だ。

 クルトのような気の置けない少年と知り合えたことを、僕は本当に嬉しく思っていた。

 ふと教室を見回すと、全員揃っているのかな?

 中央の一番前には、変わらずゲツァイヒネト達。窓際の前方には女子生徒が3人、かたまっている。先ほどの悲鳴はこの子達かな?今も、チラチラとクルトの方を覗ったり、ゲツァイヒネトの方へ視線をやったりしている。

 あとは入り口付近に立ったままの男子生徒が数人。

 僕らのクラスは、男子10人、女子5人の15人だから、これで全員だろう。


「それは間違ってる」

 押し殺した、でも甲高い声が聞こえた。声変わりまだかな?

 教室入口近くの男子生徒の集まりからだ。

 誰かを取り囲んでいるのかな?

 男子生徒数名の背中が見える。 

 その頭が少し下がっていることから、彼らに対峙しているのは、かなり小柄なんだろう。

「ぼくは、断固として断る」

 先ほどと同じ声だ。ただ、その声には怯えが混じっているような気がする。

 僕は立ち上がった。

「ローグどうした?」

 怪訝そうにクルトは言うけど、僕も確証はないから、言葉にはできない。

「ちょっと待ってて」

 僕は、先程の集団に気づかれないように、できるだけ近づく。

 十分に何を喋っているのかわかる距離だ。

 そこから伺うと、4人に囲まれて、身を縮めそうになりながらも、精一杯顔を上げている巻き毛の金髪の少年がいた。

 不謹慎だけど、僕は彼に共感を覚えた。だって、背の高さが僕と変わらない。

 リンガン父さんもアストン兄さんも、普通よりも背が高いのに、僕だけ、背が伸びていない。

 ブリュテ母さんは、女性としても小柄な方だけど、いまだに負けている。きっとこれから伸びるとは確信しているけど、それでも、この体格はコンプレックスだった。

 僕のことはどうでもいい、今は、どう見ても絡まれている彼のことだ。

「成績で決められている席ならば、そのようにすべきだし、そこに不正が入ってはならない」

「そんな堅いこと言うなよ。俺達は仲間なんだから近くがいいんだよ。ただ、あんたみたいに勉強できないから、ちょっと協力できる位置に座ってくれたらいいんだよ。幼年学園の秀才さんよお」

「試験配ったら、教官は出ていくらしいから、そん時見せてくれるだけでいいからさあ」

 ああ、見当がついた。

 詳しいことはわからないけど、この4人が仲間で、近くの席になるために成績を揃えたい、と。

 でも、そんな事ができる実力はないから、どうやら優秀らしい彼に目をつけて、協力させようと。

 で、彼は、不正には加担しないと。

 いいなあ。体格的には僕と変わらない上に、どう見ても鍛えている風ではない、どちらかと言うと小太りな彼は、当然腕力もないだろう。それなのに、自分より遥かに体格の良い4人に凄まれても負けていない。

 やせ我慢。好きだなあ。こういうタイプ。

『凍てつく夜の闇より生まれし、氷の(あぎと)よ……』

 こっそり呟いて、小さな魔法陣を、小柄な少年を取り囲む4人の首の後ろに、構築する。

 4つの魔法陣の同時展開だ。

 おそらくこれができる同級生はいない。当然、何が起こったのかもわからないはずだ。

『……かの者たちを喰らえ』

 詠唱を終えると、魔法陣から闇で作られた牙だけの口が、4人の首元に現れ、喰らいついた。

 と同時に顎は消滅する。

「が!」「ぐ!」「ぎ!」「げ!」

 見事な四重唱を上げたあと、揃って首筋に手をやった。

 僕が使った魔法は、喰らいついた場所を麻痺させるものだけど、あんなに小さければ効果は殆どない。

 ちょっと驚くくらいだ。

 彼らは周りを見回した。

「だれだっ?」

「ふざけたことしやがってっ!」

 僕は彼らの方を向いてたから、当然目が合った。

「お前かっ!」

 4人のうちの1人、一番体格が良く、ガラの悪そうな奴が僕の方へ勢いよく、向かってこようとした。

 しかし、その踏み出しかけた足は、足裏が床に凍りついていて、動かない。

 当然彼は、上半身だけが勢いよく前方に動き、その勢いのまま転倒した。

 前方にあった机や椅子を巻き込んで、大きな音を立てる。

 教室は騒然となった。

 立ち上がろうとして踏みしめた足の下の床には、なぜか、とてもよく滑る氷。

 更に激しくひっくり返った。


 今、彼を転ばせた氷も、先ほど足を固定したのも、想像つくと思うけど、どちらも僕の魔法だ。

 僕は昔からなぜか、魔法規模を小さくするのが得意だった。生まれつき魔力が多く、普通に魔法構築すると、予定外の規模で発現するから、無意識に発動を抑えようとしたのかもしれない。

 魔法陣の縮小と注ぎ込む魔力をできるだけ絞ることで、魔法の効果を小さくする。余剰魔力は、詠唱省略と高速化に使うことで、使用しても他人に気づかれない魔法をいくつか持っていた。

 今回の魔法も、最初っから注視していた者がいない限りバレないだろう。


 ひっくり返った少年は、宙を向いたままで叫ぶ。

「貴様っ!俺様を、ハラトゥヌ伯爵家のものと知った上での狼藉かっ!」 

 おうっ!「俺様」に「狼藉」と来たか。そんな言葉を使う人間がいるんだなあ。

「お前らもっ!何ぼさっとしてやがるっ!俺を起こせっ!」

 仲間の3人が、わけがわからないと言った顔をしながら、助け起こす。

 その間に、先ほどの小柄な金髪の彼は、クルトが、場から離して、自分の身体で4人組から見えないようにしていた。

 気が利くなあ。

 仲間に助けられて、ようやく起き上がった「ハラトゥヌ卿」は、その仲間の手を振り払うようにして、僕に詰め寄った。

 僕の胸ぐらをつかんで凄む。

「お前、どういうつもりだ」

「何のことですか?」

 僕は、心底不思議そうに言う。

「ふざけたことしやがっただろう!?」

「申し訳ありませんが、何のことかわかりません」

 平然とした態度のまま答える僕に、「ハラトゥヌ卿」の目が泳いだ。それはそうだろう。なんの証拠もないのだから。

 背後に控える仲間に、助けを求めるような視線を送るが、みんな気まずそうに目をそらす。

「離してもらってよろしいでしょうか?ハラトゥヌ卿。僕は、ローグ・ボ・サツーミ。しがない男爵家ですが、無体なことをされるのであれば、それなりの対処をしなくてはならなくなります」

 僕がそういった時、後ろから軽く肩を叩かれた。

 振り返ると、クルトだった。

 クルトは真顔で、4人組を見渡したあとで、低い声で言った。

「名誉をかけて決闘するのであれば、この私、現騎士団長子息である、クルトゥガンシン・ド・スツルハミが立会人を務めよう」

 いいね。大ごとにするの。

 大ごとにすればするほど、コイツラの立場は悪くなる。ぜひ、この流れに乗ろう。

「そうですね。僕ごときでは、ハラトゥヌ卿には物足りないと思いますが、一対一ならば、全力で、()()()でやらせてもらいます」

 僕は深く頷きながら、そう言って、足を一歩踏み出した。

 4人組は一歩下がる。


 その時、どこか気の抜けるような声がした。

「はい。みんな席について、試験を始めるよ。」

 僕らは一斉に、声の方を向いた。

 教卓には、ひどく痩せた30代半ばくらいの教官が立っていた。

 僕らの担任のベシュベルング教官だった。

 4人組もどこかホッとした様子で、踵を返し、集まって廊下近くの席に着いた。

 僕とクルトは、呆然とした様子で立っていた金髪巻き毛の彼の背を押して、窓際に連れていき、僕の隣の席に座らせた。

 席に着くと我に返ったのか、僕に軽く頭を下げたあと、小声で言った。

「ぼくは、フィネガンヴィ・ボ・ヤークシタナン。助かったよ」

 僕は、何のことかわからないと肩をすくめて、前を向いた。

 後ろから、クルトの押し殺しきれない笑い声が聞こえてきた。

 さ、試験に集中しようっと。



 

 

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