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7.卒業前夜1(入学の時を思い出しました)

一応R15とします

残酷な描写がたまにあります。

基本ゆるく行く予定です。


年末年始休暇頂きました。

20250105 投稿再開します。

 卒業試験が終わり、卒業が決まったものは、一月半の休みがある。

 進路決定や、これからのことについて、家族と打ち合わせたり、準備をする期間として設けられている。

 帝国は広大な領土を持っていて、学院のあるフラウヴェル伯爵領は、その北端にあるから、簡単に領地と行き来ができるものは少ない。

 一番離れたフィガルナ辺境伯領など、馬車で行ったら、100日以上かかる。

 まあ、フィガルナ領は、マジェハス河の河口付近なので、船を使えば2週間位でつくけど。

 船の使えない場所も多く、フィガルナ領ほどじゃなくても、2ヶ月くらいかかるところは、何箇所もある。

 だから、親や親族が、学院にほど近い帝都に宿泊して、そこで会う者も多い。

 領地に帰らず、親族も尋ねてくることがなく、ただ休みの者も少なくない。

 今後、領地に戻ったら、いつ帝都に出てこれるかわからない。

 「最後の機会」と帝都を満喫する者も多いみたいだ。

 クルトも帰らないうちの一人だ。

 スツルハミ伯爵領は、馬車で20日かけて、帝都から西の方にあるギュバン河の船着場へ行き、2日かけて対岸に渡る。馬車に乗り換えて、1ヶ月かけて伯爵領内。そこからさらに5日かけて、やっと領都に着く。

 最短でもほぼ2ヶ月かかる旅程だ。

 それは帰らないよね。

 もっともクルトは、この休みの間、騎士団の訓練に混ざっていたらしいから、遊んでいたわけじゃないけどね。

 僕は幸い?なことに、4日で領地に着くから、当然帰省した。

 いやあ、大変だった。アストン兄さんが。

 ブリュテ母さんは、いつも通り、ほんわかとした様子で「いいんじゃない」と言ってくれた。

 リンガン父さんは、最初は渋っていたけど、僕が、いつかは領地を出なくてはならないこと。そのために独り立ちできる力をつけるのは、今しかないことを説明したら、納得してくれた。

 父さんには、いろいろ迷惑かけることになるかもしれないと言ったことが、逆に良かったようだ。

 実際、僕が冒険者として手に負えないことが起きたり、なにかしでかした場合は、当然父さんへも責任の追求が行く。そのことが、かえって父さんには、父の威厳が示せる機会になると思えたようだ。

 愛されてるなあ、僕。

 アストン兄さんは、最初っから猛反対だった。

 まず、冒険者になること自体が気に入らない。

 次に、家を出て独り立ちしようとすることも、まだまだ早いという考えだった。

 あとは、兄さんの婚約者のオルヒデ嬢が、結構僕のことを気に入っていて、学院を卒業した僕と会うことを楽しみにしてくれていることも、僕を家から出したくない理由の一つらしい。

 いや、それ、どう考えても、最後のやつが理由だよね。

 アストン兄さんはオルヒデ嬢に、ベタ惚れだから、彼女が望むことは全力で叶えようとするからなあ。

 僕は、兄さんの心配をありがたく受け取りながら、一つ一つ説明した。

 最後に、冒険者登録はするけれども、しばらく家から出るつもりはないこと、オルヒデ譲とのお茶会を設けることを約束して、なんとかアストン兄さんをなだめた。

 いやあ、大変だった。

 でも、父さんも兄さんも、家の体面とかそういうことは全く無くて、純粋に僕のことを心配してくれているのが伝わってきて、僕は、泣きそうになった。

 ブリュテ母さんは、僕を信頼してくれているんだろうと思う。

 信頼の現れだよね?どうでもいいわけじゃないよね?あ、別の意味で泣きそうだ。

 とにかく僕は、卒業後の進路を家族に認めさせることができた。


 今日は12月10日、卒業の前夜祭だ。

 このパーティーが終わり、明日になれば、僕達はこの学院を巣立ち、それぞれの道に進む。

 僕はこの学院に来た3年前の春、1月20日の入学式を思い出していた。


「………以上で、歓迎の言葉とします」 

 学院長の挨拶が終わった。

 新入生代表のゲツァイヒネト・ド・ヘレタント侯爵家次男の決意表明から始まり、生徒会長のエールフルクトゥム・ヴァン・ド・クルトゥーア第三皇子の歓迎の言葉、騎士団長の激励、帝国副宰相と、この地の領主であるフラウヴェル伯爵の祝いの言葉を経て、学院長の挨拶があって、ようやく入学式は終了だ。

 長いよ!つまんないよ!

 仕方ないのかもしれないけど、どうして式典の言葉って、こんなにも長くて装飾過多なんだろう?しかも、ありきたり。

 もう少し、ワクワクするようなことはないのかな。

 必死であくびを噛み殺しながら入学式に参加していた僕は、自分のクラスへ移動する他の新入生の流れに紛れた。


 教室の扉を開けると、20人分くらいの整然と並んだ机と椅子に、思い思いに腰掛けたり、数人ずつ集まって、立ち話をしたりしている。

 その中でもひときわ目立つのは、新入生代表挨拶をしたゲツァイヒネトだ。

 教室中央の一番前の席、そこの机に、教室の後ろの方を向いて座っている。

 長い脚をことさらに見せつけるように組んで、その脚の上に、背中を丸めて肘をついている。肘をついた手を軽く握り、親指と人差指で顎を挟むようにしている。

 行儀悪いなあ。

 いや、端正な顔立ちで、ちょっと悪っぽくて、たしかに様になっているけど、品位はないね。

 ゲツァイヒネトは、12歳には見えない高身長で、鍛えられた身体をしていた。

 15、6歳と言っても通用するだろう。このクラスの中で、一番大人っぽいかな?

 灰色がかった銀髪に、濃い灰色の瞳で、周囲を見回している。

 端正な顔立ちだが、口元を歪ませているその表情は、僕にはあまりお近づきになりたいとは思えないタイプだった。

 その周りには、男子生徒が3人、女子生徒が2人集まっている。座っているのは、ゲツァイヒネトだけだ。

 僕は、視線に捕まらないように、教室の一番うしろの窓際を目指した。

 席はこのあと実施されるテストによって決まるらしいけど、それまでは自由に座っていいらしい。

 今まで、領地から出たことがなく、同年齢の子供と付き合ったことのない僕が選ぶのは、目立たない隅の席一択だ。

 この学院に入学するにあたって、僕は3つほど目標を立てていた。

 一つ目は、自分の身を立てる(すべ)を身に着けて、進路を確定すること。

 二つ目は、できるだけ目立たないように、波風立てないように過ごすこと。男爵家なんて貴族最下位なんだから、目立っていいことはない。

 三つ目が一番大事!友人を作ること。いや、だってね。仕方ないだろう。

 これまで領地から出たこともなく、リンガン父さんも王宮勤めだから、領地で何かやって人を呼ぶようなこともなかったんで、僕には年の近い貴族の知り合いはいない。

 領地の子供たちとは多少接触はあったけど、やはり領主の息子とは、隔意なく付き合うことはできないようだった。

 だから、この学院で、絶対友人を作る!


 窓際の一番うしろの席には、ゲツァイヒネトよりも高身長で、びっくりするほど整った顔立ちをした少年が座っていた。

 輝く銀髪を長く伸ばし、頬杖をついて、ぼんやりと教室内を見ている。

 僕は、恐る恐る声をかけた。一世一代の勇気を振り絞ってだ。

「前の席、空いてるかな?」

 少年の緑色の瞳が僕を見上げた。

「いいんじゃないか?何も指示されてないし」

 ぶっきらぼうな物言いだったけど、不快な感じはしなかった。

 僕は彼の前の椅子に座った。

 ここで、勇気を出さないと、ずっと一人ぼっちかもしれない。

 とりあえず、応答してくれたし、彼なら大丈夫かもしれない。

 僕は、体を捻って、彼を見た。

「僕はローグ・ボ・サツーミ。男爵家の次男」

「俺は、クルトゥガンシン・ド・スツルハミ。伯爵嫡男だ」

 はっきりとした発声で、彼は言った。

 僕は慌てた。やばい、二つも身分上だし、嫡男様だよ。

 無礼者!とか(なじ)られるんだろうなあ。ああ、やっぱり、僕なんかが声をかけようなんて間違いだった。僕は一人がお似合いなんだ。

 内心大汗をかきながら、僕は必死で言った。

「す、すみません。礼儀知らずで……」

 伯爵嫡男様のクルトゥガンシンは、煩そうに手を振った。

「ああ、そういうのいいから」

 不機嫌そうに言う。

「へ?」

 思わず間抜けな声が出た。きっと顔の方も間抜けに呆けていただろう。

 クルトゥガンシンは、にやりと笑った。

「この学院は『実力主義』だろう。まだ、お互いの実力がわからないのに(へりくだ)る必要なんかない」 

 へえ、そういう考えの帝国貴族もいるんだ。正確には「能力主義」だったと思うけど、違いはよく分からないな。

 でも、生まれつきの身分そのものに重きを置いていないということでは同じか。

 僕は、他の貴族子息と話したことは、本当にないから、わからないけど、多分少数派じゃないかなあ。

「それに、ローグ。君、結構やるだろ」

 クルトゥガンシンは、楽しそうに唇を曲げた。

 僕は、あらためて、彼の全身を見直した。

 この年で身長が高い分、細身に見えるけど、首周りは結構太いし、手は荒れてゴツゴツしている。

 相当に剣術をやり込んでいるんだろう。

 その彼に認められて、僕は嬉しくなった。

「スツルハミ卿ほどではありませんし、どちらかと言うと魔法職です」 

「卿もやめてくれ。クルトでいい。敬語もいらない」

 整った、美麗と言っていいほどの顔をしかめながら、クルトゥガンシン=クルトが言う。

「わかった。僕は、縮めようがないから、そのままローグで」

 入学早々、得難い友人ができたようだ。

 



前夜祭までしばらくかかります。

3年をざっくり振り返ります。

帝国学院の学期は、以下のとおりです。

春 1月10日始業〜4月30日終業(1学期)【4ヶ月弱】

   ※入学式は1月20日

夏季休暇 5月1日〜5月30日【1ヶ月】

夏〜冬 6月1日始業〜10月30日終業(2学期)【5ヶ月】

     ※3年生の卒業試験は本来10月10日から

冬季休暇 11月1日〜11月15日【半月】

冬 11月16日始業〜12月20日終業(3学期)【1ヶ月強】

   ※1,2年生はここで進級試験

春季休暇 12月21日〜1月9日【20日間】※卒業は12月10日

原則、全寮制です。特別な事情がない限り、帝国貴族子息令嬢は、学院に入学します。


季節と月の関係

春1〜3月 夏4〜6月 秋7〜9月 冬10〜12月 

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