6.卒業試験(再試験になりました)
一応R15とします
残酷な描写がたまにあります。
基本ゆるく行く予定です。
本日は2話投稿です(こちらは2話目です)。
あと、今日から年末年始休暇に入ります。家族と過ごす関係で、投稿は年始休暇後になるかもしれません。
せっかく読んでくださっている人がいらっしゃるのに申し訳ございません。
僕は、学院の訓練場の片隅で、魔法構築をいろいろ試していた。
100年前の「魔王(笑)」の記憶が蘇えるのにともなって、僕は恐ろしいほどの数の魔法を思い出した。その中には、山一つを崩す程の攻撃魔法や、大陸の半ばまでの距離を一瞬で移動できる長距離転移魔法などがあった。
もっとも、必要な魔力量が多過ぎて、ほとんど使えない。魔法陣の構築すらできないものばかりだった。
あの頃の僕の魔力量はとんでもなかったんだなあ。まあ、歴史の授業を思い出してみても、僕が使ったレベルの魔法は、僕のもの以外には記録が残っていない。僕の魔法も半分以上は伝説扱いだ。
本当どころか、割り引かれているくらいなんだけどなあ。
あの日、前世の記憶は戻ってきたけど、今世の意識が変わるようなことはなかった。ただ、知識が増えただけのように感じている。それも、かなり気合入れないと思い出せない知識だ。
まあ、勇者に討たれたときは、既に80歳近かったし、死んでから100年経ってるんだから、思い出せなくても仕方ないよね。
その知識の中で、今の僕でも使えそうな魔法を試している。
いや、なんというか、前世の僕、馬鹿だ。
どんだけ魔法研究に力注いでいたんだ。知ってるけど。
大げさではなく、生きるために必要なこと以外は全て魔法研究に打ち込んでいた。それを20年以上。
そのあとの20年も、中心は魔法研究だ。王族という為政者の一族として、いろいろとやりはしたけど、結局魔法のためだった。
故国が滅んだあとの流浪と戦いの日々の中でも魔法を使い続け、洗練させ続けた。命がけだからこそ編み出した魔法や最適化したものも多い。
しかし、精密で、複雑すぎる!
同じ結果が得られる魔法であっても、魔力軽減や魔力導通の滑らかさ、効果増幅などなど、馬鹿みたいに盛り込んでいる。
はっきり言って、趣味、道楽だね。
これを実際に使うとなると、脳が3人分は、いるんじゃないかな。とてもじゃないけど、そのままでは使えないものばかりだった。
今世で覚えたものを改良するくらいかなあ。本当に使えない記憶だ。
僕は心の中で愚痴をこぼしながら、魔法陣を展開しては崩すことを繰り返す。
集中しすぎて、頭が痛くなってきた。
「ローグ。頑張るなあ」
声をかけてきたのは、うっすらとかいた汗を拭いながら、長い髪をかきあげて微笑むイケメン、クルトだ。
「君だって、朝からずっと剣を振るってるじゃないか」
「俺のは休日の日課みたいなもんだよ。騎士団に行ったらこんなもんじゃすまないから、せめて体力はつけないとな」
恐ろしいことをさらっと言う。
「フィニーはどうしてるかな?」
「図書館じゃないか。進路先の法務の予習は十分だとか言って、魔の森の魔物を調べ直すって言ってたから」
僕の疑問にクルトが答える。
あの日、僕はもちろんだけど、クルトもフィニーも人生が変わったようだった。
それぞれ進路先は決まっているけど、 生命の危機に出会い、圧倒的な力の差というものが存在する現実を見せつけられたからだ。
アギラーのせいだよなあ。
しかも、フローラから、あれでもたいしたことないって説明されて、余計に落ち込んでいたもんなあ。
二人には申し訳ない気分になっていると、クルトがモジモジし始めた。
「と…ところで、あれから…フローラ……さんには会ってるのか?」
「一度だけ。あの時のお礼、サツーミ男爵家からの正式なお礼を渡すために、ギルドで会ったきりだよ」
僕の言葉に、クルトは露骨にがっかりした顔をする。
ごめん。会ってるけど言えない。クルトとフローラを引き合わせるといろいろとマズイ気がする。
「それは、そうと、ローグは卒業後どうするか決まったのかい?」
気を取り直すようにクルトが言った。
「とりあえず冒険者登録することにしたよ。実際どんな活動するかは未定だけど」
僕の言葉にクルトが目を見開く。
「や、やっぱり、フローラさん目当てか!?」
やっぱりってなんだよ。それは君だろう。まあ、フローラたちとのつながりもあるけどね。
そう、僕は「とりあえず」冒険者になろう。
様々な場所への移動の自由と、自分自身の強さを求めるため。
100年前、望んだわけではないけれど、僕は王だった。
王というからには、治める国があり、そこには国民がいる。
彼らがどうなったのか、その子孫たちは?僕には責任があるだろう。
幸せに暮らせているのならいいけれど、そうでなかったなら、どうにかしなくちゃいけない。
今世の僕ではまだまだ力が足りないけれど、どう力をつければいいのか知るためにも、彼らの行く末を知らなくちゃいけない。
そのために、まずはとりあえず、魔の森の一角を目指すことにした。
前世の僕の故国シャイネゼーバルト国の王都跡、一旦帝国領となって、僕達が占拠して魔王国と呼ばれていた場所に行かなくてはならない。
地理の教科書によると、今は完全に魔の森に飲まれているみたいだけど。
僕の最期の場所でもあるけど、それ以上に、あそこはみんなが生活していた場所だ。
周りに被害が及ばないよう、勇者一行が直接来るように、王城に向かう街道には結界を張ってなかったけど、それ以外は霧と迷いの結界を張った。
トレントたちに協力してもらったから、彼らが無事ならば、まだ残っているだろう。
その辺もフローラたちに確認しないといけない。
ついこの間までは、1、2年は領地でのんびり過ごすつもりだったけど、そうはいかないみたいだ。
「フローラさんは関係ないよ。僕が色々と知りたいんだ」
本音だったけど、クルトは疑わしげだ。悔しそうでもある。
「流石に騎士をしながら冒険者は無理だな」
「当たり前だよ。そもそも、近衛騎士になりたいんだったら、よそ見する暇なんかないだろう?」
「いや、そうだけど。しかし……」
あんまり悔しそうだから、僕は提案する。
「冒険者になって、フローラさんと話せるようになったら、クルトも一緒に食事でもしよう。いつになるかわからないけど」
「それはいい。待ってるぞ。明日でもいいからな」
いや、それは無理だって。まず僕は両親を説得するところから始めるんだから。
話しているうちに、昼食の時間が来たので、僕は着替えに行くクルトと別れて、食堂へ向かった。
食堂はあまり混んでいない。
僕達のように自分で時間を決められる訳では無い1、2年生は、まだ、授業中だろう。
見回すとフィニーが、スープの入った器を睨みつけていた。
僕は今日のランチセットを受け取ると、フィニーのもとへ向かった。
「フィニー、どうしたの?」
僕の言葉に、初めて気づいたように、フィニーは顔を上げた。
「いや、これも魔物なんだよな」
フィニーが、スプーンの先で、スープに入っている塊肉をつつく。
「そうだね。確かヴィゼシュティアとかいう、魔牛の肉だね。」
「これも冒険者が取ってくるんだよな」
「うん。群れを作るらしいから、かなりの人数で狩りに行くらしいよ。一頭ごとは、そんなに強くないみたいだけど、一斉に走られると、とても止められないらしい」
フィニーは眉間にシワを寄せている。
「どうしたの?」
「いや、これまで学問として魔物については学んできたが、基本的には素材としてしか見てなかった。
強い魔物は魔の森から出てこないからいいが、もし、出てきたら、多くの人間は無力だ。
ぼくは法務官僚を目指す。
法務官僚が守るのは秩序と平和だ。
帝国の秩序を守るものとしては、魔の森の危険について考えないわけには行かない」
「今まで出てきたことないし、冒険者たちが間引きしているから増えることもないらしい。大丈夫じゃない?」
フィニーの向かい側に座るとことさらに軽い調子で言う。
「ぼくもそう思ってきたけど、万が一のことだとしても、準備はしておくべきだ」
「おしゃべりしながらでも食べないとスープ冷えちゃうよ。ぼくも食べるし」
そう言いながら、ぼくはサラダに手を付けた。
フィニーは、唸りながら、食事を始めた。
僕とフィニーが食事を終える前に、クルトも食堂にやってきた。
「午後はどうする?」
僕達の3人前くらいの量を、またたくまに平らげて、クルトは尋ねる。
「ぼくは、また図書館だな」
フィニーは即答だ。
僕はどうしようかな?魔法は楽しいけど、ちょっと根詰めすぎたのか、頭痛が残っている。
「3年生は、午後は各教室に集まるように」
食堂に姿を現したベシュベルング教官のおかげで、僕は悩まなくて良くなった。
「卒業実地試験は、君たちも知っての通り、しばらくは魔の森が使用できない。
そのため、筆記試験を再度行い、実習は、各々得意科目を選んでもらうことになった。筆記の点数が足りないものは、その分を実習で補う形で選んでも良い。試験は3日後、各自奮闘するように」
ベシュベルング教官の言葉に、クラスメイトの反応は様々だ。多くはホッとした顔をしている。
まあ、行きたくないよね。さらに、得意科目の実習だったら、本来のものより楽だろう。問題は筆記だな。
既に一度筆記試験は終わっている。それを再試験ということは難しくなるのか、変わらないのか?
まあ、筆記試験は大丈夫だろう。問題は、実技だ。
さて、何を選ぼうかな?
「前書き」にも書きましたが、本日は2話投稿です。こちらは2話目となります。