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4.無事報告(僕の友人はやっぱりイケメン)

一応R15とします

残酷な描写がたまにあります。

基本ゆるく行く予定です。

 僕は、フローラと一緒に実地試験の出発地に戻った。

 先生方がいるところはもう一箇所、ゴール地点があるのだけども、クルトとフィニーは出発地点に向かったはずだからね。

 見えてきたのは、真っ赤に泣き腫らした目をしながら、教官の一人にすがりついているフィニーとその横で腕組みをしながら眉をひそめているクルトの姿だった。

「それでは間に合いません。今すぐでも……ローグが、ローグが……」

 興奮して切れ切れになりながらフィニーが言っている。

 教官は困り顔だ。

「フィネガンヴィ君。何度も言うが、君たちが言うような魔物が出たならば、私では無理だ。

 あちらに緊急事態は発信した。

 そして、ソルセルリー教官が、連絡に行っている。すぐに、複数の教官が来てくれるから」

 困り顔の教官はベシュベルング教官。

 魔法陣学と薬草学を専門にしている30代半ばの男性だ。栄養失調が疑われる痩せ型で、見た目通り、戦闘力はないらしい。

 ソルセルリー教官は、脳筋という言葉がピッタリの30代前半の男性で、格闘技術と肉体強化魔法が専門だ。

 おそらく、強化した肉体で、ゴール地点に報告に行ったのだろう。

 あちらにほとんどの先生がいるはずだから。

 離れたところへの連絡は、魔鳥による伝書鳥か、とんでもなく高額な魔道具を使うしかない。

 「発信した」ということは、緊急連絡の魔道具かな。あれは使い捨てだけど安価だから、いざというときのために準備していたんだろうな。

 じゃあ、他の先生方もこっちに向かってるのか。

 先生方が増える前に話をしておいたほうが良さそうだな。

 僕は、急ぎ足で3人のもとへ向かった。

 周りを警戒していたクルトが僕に気づくと、目を見開いた。

 イケメンがちょっと怖い顔になっている。

「ロ……ローグ……」

 そのまま、かすれた声で言う。

 ベシュベルング教官とフィニーは、クルトの方を見て、その視線をたどって、僕に気づいた。

「ローグっ!」

 フィニーは僕の方へ突進してきた。

 それに反応して僕の前に出ようとしたフローラの動きを身振りで止める。

 フィニーはぶつかる寸前で足を止め、僕の頭の先から足先まで、何度も視線を往復させる。

 革鎧の破損とその周りの血痕に気づいたのか、顔をしかめた。

 額を割ったせいで流れた血のあとも拭ききれてはないから、結構ひどい見た目をしているんだろう。

「だ、大丈夫なのか?」

 フィニーの言葉に、僕は笑顔で大きく頷く。

「ちょっと怪我したけど、こちらのフローラさんに治してもらった。全力疾走の筋肉痛があるくらいかな」

 僕は大丈夫だと請け合うように胸を叩く。

「馬鹿野郎っ!!」

 怒鳴り声は、教官と一緒に近づいてきていたクルトだ。顔を真赤にしている。

「お前は、いつもいつも……」

 言葉を途中で切って僕に殴りかかってきた。

 僕の横にいたフローラが、クルトの殴りかかってきた右手首をつまむようにして、その場でくるりと回った。

 クルトの身体が浮き上がり、そのまま僕の頭上を超えて宙を舞った。

 僕は、フローラに後ろから抱きついた。

 ああ、柔らかくていい匂いが……って違う!僕は頭を振って煩悩を追い払う。

「フローラさん。彼は心配してくれただけ、敵じゃない」

 投げ飛ばす瞬間に見えたフローラの瞳はゾッとするほど冷たく、クルトの命に一欠片も価値を認めていないものだった。

「ああ、我が王が、抱きしめてくださっている」

 フローラが恍惚とした表情になった。

「フローラ!」

 僕は、耳元で小さく叫ぶ。

 フローラが真顔に戻った。

「申し訳ございません。急に飛びかかってこられたものですから、つい、投げてしまいました」

 誰に言うともなく発した言葉だったが、その場にいた全員の耳に届いた。 

 フィニーは固まったままだが、ベシュベルング教官は、探るようにフローラを見ている。

 受け身を取って無事だったらしいクルトは、地面から半ば身を起こしたままで、フローラを見つめていた。

 そして、立ち上がると、爽やかイケメンスマイルで、フローラに近づく。

「フローラさんと仰るのですね。美しい名前だ。私は、クルトゥガンシン・ド・スツルハミ。我が友ローグを助けていただいたとか。友人として感謝いたします」

 フローラは、それなりの仕立てとはいえ、明らかに冒険者の格好をしている。

 冒険者をしている貴族もいないわけではないが、少数のため、クルトぐらいの人脈持ちならば、そういう変わり種は把握しているはずだから、フローラが平民であると判断したはずだ。

 それなのに、この丁寧な挨拶。流石、僕の親友、イケメンだ。

 僕は感心しきりだが、フローラの琴線には全く触れなかったらしい。真顔のままで答えた。

「感謝のお言葉、頂きました。私のようなものへの丁寧なお言葉、恐縮です。こちらこそ、ご無礼お許しください」

 ほとんど温度を感じない口調だ。

 クルトは苦笑した。

「いや、突然殴りかかった私が悪い。申し訳なかった」

 フローラは軽く会釈するのみだ。

 クルトは僕の方を向いた。

「なんか、気が削がれたが、ローグ、お前、もっと自分を大事にしろよ」

 堅い口調で言う。ああ、そういうことか。

「心配かけてごめん。でも、あの場は、ああするしかないと言うか、あれが一番だと思ったから……」

 クルトは拳を握りしめて僕を睨んだが、強く目をつぶったあと、下を向いて大きく息を吐いた。

 そして、フィニーをちらりと見た。

「お前は正しいよ。でも、友人の身を案じる立場のことも考えろ」

 今度は僕が俯く番だった。

「ありがとう。そして、心配かけてごめん。フィニー、クルト」

 クルトは軽く鼻を鳴らし、フィニーは強く頷いてくれた。

 僕が胸を撫で下ろしていると、後ろから肩を叩かれた。

 振り返ると、ベシュベルング教官が、とてもいい笑顔だった。

「さて、麗しい友情はそこまでにして、状況を教えてくれますね」

 僕は、何度も頷いた。 


 合流する前に打ち合わせたとおりに、フローラと僕は起こったことを説明した。

 とは言っても、僕はひたすら逃げていただけで、よく見ていないということで、説明はもっぱらフローラがした。

「では、出てきた狼種の魔物は、一般的な森林魔狼(ヴォルフィルワンド)の亜種。

 年老いた個体だったことから、森の奥で生活できなくなって、辺縁部に流れてきたのではないか、と。

 白銀級のあなたが一人であしらえる程度から判断して、おそらくそのうち別の魔物に狩られるか、餌を取れずに死亡する可能性が高いが、しばらくは警戒を密にすべきだ、ということですね」

 ベシュベルング教官がまとめる。

 フローラが頷く。まあ、決めた通りの内容だけど、「年老いた」とか「死亡する可能性」とかをやけに強調して聞こえたのは気のせいかなあ。

「私は、冒険者ギルドに報告にいきます。それではこれで」

 淡々とした口調で説明したあと、フローラは踵を返す。

「ご協力、そして、生徒の救出ありがとうございました」

 ベシュベルング教官が、深々と頭を下げた。

 僕を含めた3人も、しっかり頭を下げる。

 フローラは振り返らなかった。

 フローラの姿が見えなくなったあと、フィニーが大きく息を吐いた。

「いやあ、すごい美人だったね。色っぽいし。ローグを治療してくれたってことは治癒魔法の使い手なんだろうけど、それで強いって反則だよねえ」

「ちょっと、貴族にも見ないぐらいの美女だったな。あれほどの美女がいるんだったら、学院卒業後2,3年くらい冒険者をしてもいいかもな」

 クルトも鼻の下が微妙に伸びている。

「白銀級冒険者の『フローラ』。おそらく採取関係で、トップを取り続けている冒険者だね。私も貴重植物の採取でお世話になったことがあるよ。依頼を通してしか知らなかったが、あそこまでの美人だったとはね」

 みんな、フローラのことばかり。まあ、アギラーについて突っ込まれても困るからいいんだけど、アギラーの悲しそうな瞳が思い出されてしまった。 






森林狼ティンバーウルフとは関係ありません

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