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11.学院卒業1(学院に心残りなんてない!)

一応R15とします

残酷な描写がたまにあります。

基本ゆるく行く予定です。

「うあああああ」

 僕は、寮に戻って、自分の部屋のベッドで頭を抱えていた。

「気づかなかったよおおお」

 クラリネ嬢が、あれほど可愛らしいことも、僕のことを見てくれていたことも。

 今更ながら思い起こすと、彼女が、僕のことを見ていたり、話しかけたそうにしていることが何度もあった。

 僕は、その度、気の所為だ、自意識過剰だと判断していた。

 それが、本当に、僕と話したかったなんて。うあああああ。

 教室でのふとした瞬間に目が合ったこと。

 寮への行き帰りで、同じタイミングになったこと。

 自由に班が組める実習の際に、結構近くにいたこと。

 思い当たることだらけだ。あああああ。


「結婚するんだなあ」

 帝国貴族は、15歳で成人だから、婚約を公にしていないだけの同級生も結構いるんだろうなあ。

 ダンスした時に触れた指や、折れそうな細い腰が、浮かんでくる。

 テラスで話した時の、くるくる変わる明るい表情も、授業では見たことのないものだった。

 伯爵令嬢である彼女と男爵家次男で、ほぼ確実に平民になることが決まっている僕とでは、到底釣り合わないけど、学生時代に限っての交際ならできたんじゃないか、なんて埒も無いことも浮かぶ。

「あああああ、なんで気づかないかなあああああ」

 甘酸っぱい青春の思い出、そんなもんは欲しくない。

 現実の、今、交際したかったよおおお。

 僕は、枕を悔し涙で濡らしながら、眠りについた。

 夢の中のクラリネ嬢は、僕を見つめて笑顔だった。


 翌朝、夢を反芻しながら、物悲しい気分で身を起こした僕の目の前には、従者っぽい格好で巨漢の老翁が、跪いていた。

「ア……ギラー……?」

 老翁は顔を伏せたままで答える。

「は、我がお……ローグ様。お迎えにあがりました。」

 今、我が王って言いかけたよね。言い直したからまだいいけど。

「どうしたの?」

 何か問題でも起きたんだろうか?

 アギラーは満面の笑みを浮かべた顔を上げた。

「本日、卒業と聞きおよび、いよいよ、我がお……ローグ様が、勇躍されるかと思うと、居てもたってもいられず。

お側に付き従おうと、馳せ参じました。」

「いや、今日からは、家に帰るだけだよ。冒険者としての活動も、もうしばらく経ってからだから、アギラー達と一緒に動くのは、まだまだ先だよ」 

「そん……な……」

 いや、なんで、そんな絶望を貼り付けたみたいな顔になってるの?当然でしょう。って言うか、話はしたよね。聞いてないのかな?

 ああ、そう言えば、魔王軍四天王(笑)達はみんな、忠誠心はあきれる程持ってたけど、話を聞かないヤツばかりだったなあ。

 僕は遠い目をしていたと思う。

「ではっ!ご帰宅されるまでの道中、お供いたしますっ!」

 気を取り直したのか、アギラーは意気込んで言う。

 うーん、お供かあ。サツーミ領は、ここから帝都までの途中にあるから、街道も整備されてるし、街と街をつなぐ馬車もしっかり出ている。

 はっきり言って不要だよね。

 僕の考えていることが伝わったのか、アギラーの顔に再び絶望の表情が浮かぶ。うーん。困ったなあ。

 アギラーの気持ちも分からないではない。

 アギラーにしてみれば、忠誠を誓った主君を守れず、さらに100年間、待ちぼうけだ。

 再会した僕に執着するよねえ。

 こうならないように、「自由に生きて」って言ったつもりだったけどダメだったか。

「わかったよ」

 一瞬、何を言われたのかわからないようで呆けたアギラーの顔が、喜色に染まる。

「ではっ!お供をっ!」

「うん。一緒に領地に帰ろう」

「あ……あり……がたき……幸せ……」

 俯いたアギラーの顔の下の床に、ポタポタと染みができる。

 うーん。感動し過ぎじゃない?

 年取って涙もろくなったのかなあ。いや、こんなヤツだったかなあ。

 アギラーの重さに、多少辟易としながらも、真っ直ぐな忠誠心に感謝が込み上げる。

「これから、あらためて、よろしくね」

「はっ!」

 アギラーの頭がさらに下がった。

 うん。色々と常識はずれなところはあるけれど、あれから100年、生きてきたんだ。冒険者としても登録して、食い扶持を稼いでるみたいだし、アギラーも「普通」がどういうことかくらいはわかっているだろう。

 経験豊富な「先輩冒険者」と一緒に行動することで、僕も学ぶことはあるはずだ。

 不安もあるけれど、利点が多いかな。

 僕は、アギラーを同行させることに納得していた。けど、ふと気になった。

 そう言えば、そもそも、なんでアギラーはこの部屋の中にいるの? 

「アギラー、この部屋、鍵かかってなかった?」

 昨日は、かなり狼狽えていたけど、鍵は、かけたはず。

「はっ!ドアノブをひねったら、開きました。これがそのドアノブです。この安っぽい作りは、我がお……ローグ様が就寝なさる部屋としては、警備上、大きく問題ですな。まあ、今日まで、なので良いですが」

 アギラーが差し出したのは、確かにドアノブだった。

 ちょっとおおおおっ!何してんの?

 えっ?ドア破壊?

 今日僕、ここを()つんですけど。

 安っぽいって、君の力が強すぎるだけでしょう。

「開きましたじゃないよおおっ!」


 僕は、寮監にひた謝りして、旅費のつもりで持っていたお金から、修理費用を払うことになった。

 もう既に、アギラーの同行を許したことを後悔したくなった。

 

 帝国学院は入学式はあるけれど、卒業式はないので、僕たちは、思い思いに旅立つ。

 日程の関係上、もうしばらく寮に残るものもいるけれど、僕は今日発つつもりだった。

 けれど、一つ忘れていることを思い出した。

 冒険者登録をしないといけない。

 冒険者ギルドは、ある程度の大きさの街には支部を置いていて、サツーミ領にも支部はあるけれど、折角ギルド本部があるフラウヴェル伯爵領にいるんだから、ここで登録しようと思っていたんだった。

 登録が済むまでは、寮にいることもできるけれど、やはり、今日、学院から出発したい。

 旅立ちを決めた日をずらしたくなかった。

 決して、学院にいると、クラリネ嬢の面影が浮かぶからではない。ないったらない。


 お金は余分にかかるけれど、街中で宿を取って、冒険者登録を済ませ、明日、フラウヴェル領から出よう。

 僕は、旅に必要な最低限の荷物を入れた袋を背負って、腰に剣を佩いた。

 旅装の基本であるマントを羽織り、3年間学んだ帝国学院をあとにした。


「部屋……が、ない……?」

 僕は愕然とした。

「はい。申し訳ございません。ご卒業ということで、お迎えに来られたご親族の方も多くお泊まりいただいております。また、ご入学の準備でいらっしゃっている方も。」

 受付の男性が、慇懃な態度で説明してくれた。

 ああ、そうだね。僕も卒業生だ。なんて読みが甘い。

 この宿は清潔で料理も美味しいから人気の宿だった。僕も3年前に利用した。

「他の宿を紹介してもらうことは……」

「今現在空いているところと申しますと、少々お値段が……」

 言葉を濁そうとする男性に、強いて尋ねると、本当に高い。一番安い部屋に泊まっても、そこを出てから家までの4日間、飲まず食わずの野宿になる。それは無理だ。

 ドアの修理代がなければ、もう少し余裕があったんだけどなあ。アギラーめ。文句の一つでも言ってやらねば。

 がっくりと肩を落として宿からでた僕を、アギラーが嬉しそうに迎えた。外で待てをされた犬そっくりだ。尻尾が出てたら千切れんばかりに振られていることだろう。

 何だか、文句を言う気が失せた。

 僕は大きくため息をついた。

「アギラーは、宿どうしているの?」

「野宿です」

 間髪をいれずに返ってきた答えは、予想通りのものだった。

 そうだよねえ。人狼(ウェアウルフ)の君なら野宿もお手の物だよね。

 さすがに貴族の端くれの僕には、野宿の経験はほとんどない。

 移動時にどうしても次の街まで進めなくて、馬車と天幕を張った野営をしたことと、学院の野外実習の時くらいだ。

 ここで、ふと、前世の僕はどうしていたのかと思った。

 王族として暮らしていた時や魔王(笑)時代はともかく、宿に泊まれないような状況もたくさんあったんじゃないかと思い当たった。

 僕は記憶を探る。

 そして気づいた。

 貴族として泊まろうとするから宿がないことに。

 しかし、アギラーは頼りにならない。さて、どうしようか?

「ギルドだな」

 僕がこぼした言葉にアギラーが反応する。

「宿泊先を先にお決めになるのでは?」

「うん。そのためにもギルドだったよ」

 そう。冒険者ギルドは、冒険者たちのための宿泊所なども便宜を図っているはずだった。 貴族が近づかない安宿の情報もあるだろう。

 僕は、まだ貴族だけど、冒険者になろうとしてるんだ。そういう宿を利用しよう。

 僕はギルド本部を目指すことにした。


 

 














  







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