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【完結】誰が為にシナリオはあるのか〜乙女ゲームと謀りごとの関係〜  作者:
第二章 「王立学院 ーthe game has startedー」
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4. 書棚の間での出会い

 私とリズとソニアの三人で勉強するようになって、私たちは図書室にいることが多くなった。

 最初は寮の部屋で勉強していたけれど、歴史の勉強中に教科書では解消しきれない疑問に直面し、解消するための資料を求めて図書室に赴いた。以来そこで勉強する便利さから、すっかり入り浸るようになってしまった。


 いつもは三人で図書室の定位置になり始めた一角で勉強しているのだが、今日の私は一人だ。

 リズは街に行く用事があるらしくお出掛け。そしてソニアはお茶のお招きを受けたらしい。


 一人で図書室に来た私は、とある取り組みのために辞書を探している。


 とある取り組みーーーそうエマさんの絵本の翻訳だ。


 アスカム語の絵本は家の図書室にあった辞書を使って翻訳を進めてはいたけれど、まだ全部は訳しきれていなかった。サラサール語の絵本については家に辞書はあるのだけれど、まだ手をつけられていない。

 それに家の図書室よりも、学院の図書室の方が当然ながら充実している。家の辞書では分からなかった言葉も学院の辞書ならば分かるのではないか。そう期待してはいたのだけれど、学院が始まってからはバタバタと落ち着かず、手をつけられずにいたのだ。


 今日はせっかく一人の時間なのだから、翻訳に着手しようと辞書を求めて図書室に来ていた。


 アスカム語の辞書を手に取った私は、ついでにアスカム帝国についての本はどのようなものがあるのか見てみることにした。

 アスカム語の絵本の内容は、おそらくアスカム帝国の神話を由来にしているようなのだけれど、私は他国の文化には明るくない。だからアスカム帝国のことをもう少し勉強したら、絵本の翻訳にも役立つのではないかと思ったのだ。


 学院の図書室には色々な本が揃っていて、授業に関するものだけではなく、物語のような娯楽性のあるものもある。そのうちそういった本も読みたいとは思っているけれど、なかなかそれに手を伸ばすほどには時間が取れそうにない。


 書棚を眺めながら学院の蔵書の多さに感嘆する。

 これらを読むだけでも学院に入る価値があるだろうなと考えながら歩みを進め、ようやくアスカム帝国の本が並ぶ書棚を見つけた。


 「まあ…」

 他国の言葉で書かれた本を私はあまり見たことがなかったので、書棚に並んでいるのを目にして思わず声を漏らしてしまった。

 アスカム語で書かれた本もあるが、パジェス語に翻訳した書物も並んでいる。

 いずれアスカム語を読めるようになれば、アスカム語で書かれた本も読みたくはあるが、今の私ではまだ難しいだろう。並んだ本を見ても、装丁の雰囲気から内容を予測することがせいぜいで、『読む』というのは出来そうにない。

 となれば、翻訳された本を物色することになる。


 私は書棚に並んだ中に、アスカム帝国の神話についての本を見つけて手を伸ばした。

…のだが、背が足りずに手が届かない。


 「ぅん…」

 仕方なく踏み台を探そうと伸ばした手を引いたところで、隣に人が立つ気配がした。

 「必要なのは、こちらですか?」

 隣から伸びた手が、私の届かなかった本を掴み取る。

 「は…い…」

 差し出された本を思わず受け取った。

 本の表紙を見るに、やはりアスカム帝国の神話について書かれているようだ。

 と、本に見入るわけにはいかない。


 私は隣に体を向けた。

 「ありがとうございます。助かりました」

 「いえ。お役に立てたのでしたら良かった」

 そういうと彼は書棚に視線を向けたので、私は頭を下げて彼に場を譲った。


 アスカム語の辞書と神話の本の、貸出手続きの為に書棚から離れる私の耳に、密やかな会話が聞こえてくる。

 「あちらにいらっしゃるのはレオナール様ではない?」

 「本当だわ…今日も素敵でいらっしゃるわね」


 そう、先ほど本を取ってくださったのはレオナール=クーベルタン様。

 生徒執行部員でもいらっしゃるし、我がアルノー子爵家は末端とはいえクーベルタン侯爵の派閥であるので存じ上げているけれど、言葉を交わしたのは初めてだ。

 少しだけご挨拶するべきか悩んだけれど、図書室で自己紹介するわけにもいかないと悩みは湧いた端から流した。

 まあそれで正解だろう。


 レオナール様もアスカム帝国にご興味がおありなのかしら。

 そんなことを考えながら貸出手続きを済ませ、私は図書室を後にした。

レオナール「アスカムの本に興味があるとは珍しい。しかもご令嬢が…」

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