3. 二冊の絵本
エマさんと二人でお昼ご飯を食べたら、お勉強。
もうすぐ見習い仕事をするから、どれくらい出来るかエマさんに見てもらうのだ。
「計算は、もう私よりも出来るくらいだわ」
エマさんが褒めてくれる。
「読み書きもこれなら見習い仕事で困らないと思うわ」
まだ分からない言葉もあるけれど、それはこれから少しずつ覚えていけばいい。
エマさんは微笑んで私の頭を撫で、それから二冊の絵本を机に置いた。
「新しい本!」
私は久しぶりに見た新しい本を手に取る。
本を開いて読もうとしたけれど…
「え…?」
そのまま何頁か捲って、そしてもう一冊を手に取る。
「…」
もう一冊も最初の何頁かを捲ったけれど、読むことが出来なくてエマさんの顔を見る。
エマさんは、微笑みながら開いた頁の文字を指さした。
「これはアスカム語。アスカム帝国の言葉。それから…」エマさんがもう一冊の本の文字を指さす。
「こっちはサラサール語。サラサール王国の言葉」
「アスカム語とサラサール語…」
私は二冊の本の文字を目で追った。絵に関係した文章が書いてあるのであろうことは分かるけれど、何が書いてあるのかは全く分からない。
「エマさんは読めるの?」
私は文字を見るのは諦めてエマさんを見た。
「ふふふっ…」エマさんが笑って続けた言葉に、私は驚いた。「実は私も読めないの」
「…!」
私は本とエマさんの顔を交互に見ながら混乱した。
だって当然エマさんがこれからこの文字を教えてくれるつもりなのだろうと思ったのに、エマさんも読めないだなんて。
「サラちゃんが見習い仕事を始めたら、知らない国の言葉を見ることもあるかもしれないでしょう?そんな時に、見たことがある言葉だったら、読めなくても少しだけ気が楽になるかなと思って」
「エマさん…」
エマさんは「でも私も読めないから教えてはあげられないんだけど」と眉を下げたけれど、私は嬉しかった。
「エマさん!私、いつか一人で読めるようになるから!そしたらエマさんに読んであげる!」
「それは楽しみだわ」
何て書いてあるのかは分からなかったけれど、エマさんと一緒に絵を見ながら頁を捲って、どんなお話か想像するのはとても楽しかった。
エマ「アスカム語の絵本とサラサール語の絵本、どちらをサラちゃんにあげようかしら…。アスカム語の方がよく見るけれど、サラサール語の絵本の方が絵がきれいだし…うーん。…選べないなら、両方!」