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【完結】誰が為にシナリオはあるのか〜乙女ゲームと謀りごとの関係〜  作者:
第一章「長いプロローグ ーbefore the game beginsー」
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23. 入場

 緊張は紅茶と一緒に飲み込んだつもりだったのだけれど、まだ緊張しているのかもしれない。


 控室を出て、案内役の後を歩きながら、私はリュカの手をぎゅっと握った。

 初めて会った時は同じくらいの背丈だったのに、今のリュカは私よりも背が高い。

 リュカの顔を見れば落ち着くかもしれないけれど、今はきちんと前を見て優雅に歩かなくてはならない。だから私はリュカの顔を見る代わりに手に力を込めた。リュカが私の手を握り返してくれる。

 それに勇気付けられて私は気合を入れた。

 今日はみんなが私を磨き上げてくれた。アルノー子爵家の長女として頑張らなくては。

 私たちの後ろには、義両親もいる。

 私はリュカにエスコートされて廊下を進んだ。


 廊下を進んでしばらく、廊下の幅が広くなったところから絨毯の柔らかさが変わった。

 会場が近づいたのだろうと、もう一度背筋を伸ばして気持ちを奮い立たせる。


 と。勇んだ気持ちで足を踏み出すのだが、何歩か歩むと絨毯の柔らかさからか、今までの歩幅で進むのが少しだけ辛くなった。

 といって。歩幅を狭めればリュカから遅れてしまう。

 少しだけ歩調を緩めてもらおうかと私が考えた時、案内役が歩みを止めた。


 そこから先、絨毯は短い階段に続いていた。

 階段を上った先には扉があり、今、その扉から父親と思われる男性にエスコートされた少女が中へと入るところだった。続けて後ろから入っていった女性は母親だろうか。年若い男性のエスコートを受けていた。


 彼らが中に入ると扉が閉まった。

 そこで案内役に促されて、私たちは階段を上った。


 柔らかい絨毯は、華やかで美しく、触ったとしたら手触りも良さそうだ。

 けれど足元にあり、その上を歩く限りにおいては、私に不安しか感じさせない。

 なんというか身体が浮いているように感じるのだ。軽やかに歩けると言えれば良いのだが、私にとっては足が地についている実感が乏しくて、次の足を踏み出すことを躊躇してしまう。


 幸いだったのは階段が短かったことだ。

 足元を気にしながら短い階段を上り切り、扉の前に控えて待つ。


 扉がゆっくりと開かれた。

 「アルノー子爵夫妻、ご令息リュカ様、ご令嬢サラ様のご入場です」

 会場の中へ向けて、扉の前に立つ男性が私たちを紹介する。


 促されるままに私たちは扉の中へと進んだ。


 夜会の会場は子爵邸がそのまま入りそうなくらい広かった。

 しかし伯爵邸の広さから考えれば十分予測出来たことだったので、「やはり」と思っただけだったが、会場中から集まる視線は、予測していたとしても、実際に晒されなければ、その圧力までは想像することが出来なかった。


 

 今日の夜会は、デビュタントを迎える六人の令嬢のためのもの。

 だから、紹介されて入場するのは六人の令嬢の家族だけで、他の招待客は会場で紹介される令嬢家族を待ち受けている。


 私たちの入場順は四番目だと聞いている。

 家族で入場したけれど、注目を浴びるのは今日がデビュタントの私だ。


 お養父様とうさまに、お養母様かあさま。ルネやリュカにデビュタントのお祝いをしてもらって、私は家族に向けてもらった温かい気持ちに応えられるように頑張らなくてはと背筋を正した。


 一生に一度。生まれて初めてのデビュタントは、感謝と覚悟とが混ざり合っていて、そしてそんな私を見守ってくれる家族の存在が嬉しかった。

 だから私は、扉から中に入るまで、デビュタントにお祝いの温かさを感じていた。


 けれど、扉の中で私が最初に感じたのは温かさよりも冷たさだった。

 集まった視線に、私は絡みつくような気持ち悪さを感じた。

 視線の中に、新しい仲間に向けられた好奇心よりも、検品されているような無遠慮さを感じ取ったのかもしれない。

 反射的に後退りそうになったけれど、後ろで扉が閉じる音が聞こえてなんとか踏ん張った。


 リュカの手をぎゅっと握った。

 リュカが手を握り返してくれる。

 息をゆっくり吐き出して、少しだけ高くなった場所から会場を見渡せば、私に向けての拍手が起こり、最初に感じた冷たさは、もう感じることはなかった。


 緊張していたのかもしれない。私は意識して笑顔を作るとリュカに合図を送る。

 リュカが私をエスコートして、入口の高くなっているこの場所から会場の中へと進むために段を降り始めた。

リュカ(やばいやばいやばい緊張してきた)

サラが手をぎゅっと握る。

リュカ「…!(僕がしっかりしなきゃ!)」

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