21. 感謝を込めて
リュカの差し出した手に、私は自分の手を重ねた。
貴族の養女になって3年、とうとうデビュタントだ。
今までは、子爵家への来訪者に挨拶することはあったけれど、他家へ出かけるようなことはなかった。けれどデビュタントが終われば、私は貴族社会の一員として扱われる。
今後は他家へ訪問することもあるかもしれないし、大事に育ててくれているお養父様とお養母様のご恩に報いることが出来るようにしっかりしなくては。
私はリュカの手を頼りに椅子から立ち上がった。
あれ…?
立ち上がった時、少しだけ違和感があった。だけれど、それが何なのか分からずに、私は内心で首を捻った。
…まあ突然おかしな思いがよぎることは、時々あることだ。
私は考え込まないように気持ちを切り替えた。
リュカに手を取られて立ち上がった私を見て、お養母様とルネが顔を綻ばせている。
「お義姉様きれい…」
蕩けるような笑顔で言葉をこぼすルネの可愛らしいこと。私はルネを抱きしめたいのを我慢して、代わりにリュカの手をぎゅっと握った。
リュカがちらっと私を見た。
「さあ、遅れないように馬車に行きましょう」
お養母様が私たちを促すと、ルネが私に縋るような目を向けた。
「ルネ…」私は思わず義妹に手を伸ばしそうになったけれど、私が手を伸ばすよりはやくにハンスがルネに手を差し出した。
「さあルネ様、デビュタントに向かうサラ様をお見送り致しましょうか」
ルネはハンスを見上げて、ぎゅっと口を引き結ぶと頷いた。
ハンスの差し出す手を取って立ち上がると、ルネが私に向かってお辞儀した。
「お義姉様デビュタントおめでとうございます」
そういうルネと向かい合い、私はルネに向かってカーテシーをした。
アルノー子爵家の養女になって初めてのーーまだ出掛ける前ではデビュタントを終えたとは言えないかもしれないけれど、それでも気持ちだけは初めてのーー正式なカーテシーをルネに捧げた。
リュカが少し目を眇めたのが分かったけれど、仕方がないではないか、義妹は今日は一人でお留守番なのだ。まだデビュタント前のルネは夜会には行けない。
いつもであれば両親がいなくても、私やリュカがいるけれど、今日は私とリュカは出かけてしまうし、私のデビュタントなのに義両親が出ないわけにもいかない。
必然、留守番するしかないルネを可哀想に思ってしまう義姉心だ。
と思っていたらリュカが私に向かってきれいに腰を折った。
「義姉上私からもデビュタントのお祝いを言わせてください」
そういうリュカに向けて、私が再びのカーテシーをしない選択はなかった。
ルネの隣に座っていたお養母様がくすくすと笑っている。
「さて、馬車のご用意は出来ておりますので」
ハンスが私たちを促した。
私は再びリュカが差し出す手を取って、部屋の外へと歩みを進めた。
ルネ「お母様!私のデビュタントのドレスはお義姉様とお揃いにしたいです!」




