5. レオナールとフォスティーヌ
結果を先に言えば、フォスティーヌとレオナールはあっという間に仲良くなってしまった。
ーーなどと言って、実際こんなにとんとん拍子に進むとは予想していなかったし、そもそもこんなに早くにレオナールと顔を合わせられるとも思っていなかった。
私がレオナールのことをフォスティーヌに教えると、彼女は不思議そうに私とレオナールが親しかったのかと尋ねた。
だから私は図書室でよく彼が見かけたので、読んでいる本からの推測だと答えた。
それでフォスティーヌはレオナールがどんな本を読んでいたのかと聞いてきたので、私たちは王城の図書室へと足を運ぶことにしたのだ。
私は王城の図書室に行くのはもちろん初めてだから、学院の図書室と同じ本があるのかどうか分からなかったけれど、フォスティーヌが他国に関しての本ならば王城経由で学院に入っているから同じだと思うというので、見てみることにしたのだ。
ただ実際に私はレオナールが読んでいた本を見知っていたわけではないから少しだけ焦った。
けれども、ゲームの通りであれば言語関係は絶対に読んでいるだろうから、その辺りを示して、しっかりとは覚えていないけれどと言って誤魔化そうと考えながら図書室への廊下を進んだ。
…のだけれど。
実際に図書室にたどり着けば、そこにはレオナールがいた。
父親が緊急議会に出ていて手が空いてしまったため、レオナールは王城の図書室へ通い詰めていたようなのだ。
一介の貴族であればそんなわけにはいかないだろうけれどクーベルタン侯爵家は、アセルマン侯爵家同様に王城に専用区画を持っている。
だからその次男であるレオナールはその恩恵を利用して心の赴くままに過ごしていたようだ。
フォスティーヌに似ているな。というのが、そんなレオナールの行動を知った私の感想である。
そして、図書室で会ったレオナールがアスカム語の辞書を読んでいるのを見て、フォスティーヌは迷わず話しかけた。
最初は読書ーー辞書を読み耽るのを読書と表現していいのか少々迷うけれど他に言いようがないーーを邪魔されて言葉が少なかったレナールだけれど、フォスティーヌがアスカム語は地域によって同じ表記でも発音が異なるという話を持ち出したことで興味をひいたようだ。
アスカム帝国が現在の形に統一されてさほど長くはない。
公式文章の言葉は統一されていることから書き言葉は概ね地域に差はないようだけれど、話し言葉は元の国の影響がまだまだ強い。
それが発音までは統一されていない理由だ。
…と私もフォスティーヌから以前聞いたけれど、私にとってアスカム語を学ぶことはあの絵本を読むための手段だった。だから話し言葉までは私には必要ではなくて、興味深くは思ったけれど、フォスティーヌと語り合うのは無理だった。
レオナールは現在議会で話し合われていることを、まだ何も知らされていない。
だけれど、クーベルタン侯爵家の彼は、今後きっと事情を説明されるはずの一人になるのだろうと思う。
そして、言語に興味を持っていても、他国語で話す相手もおらず、書物に興味の全てを捧げていたレオナールも、他国との交流が始まれば他国語での会話を交わすことが出来るようになるはず。
といって。話題が言語についてだけでは相手が困ってしまうだろうから、話題についてはこれから…フォスティーヌと話をすることで、なんとかして欲しい。
レオナールとフォスティーヌは好きな対象が言語と文化で少し異なっているけれど、通じ合う部分がある。興味があることに貪欲な気性も似ているように思うから、噛み合えばきっと上手く行くのではないだろうか。
そんなことを思いながら図書室の奥で話に耽る二人を眺め、
私はのんびりと本の頁をめくった。




