60. 話し合いのその後
婚約破棄…というか解消で構わないけれど、婚姻の必要があるのなら従うというフォスティーヌと、これほどのことをしてしまった自分は神殿に入るべきでフォスティーヌの伴侶としても相応しくないと主張する王太子については、この場でどうこう決めるわけにもいかないと処遇は先送りになった。
レアンドルについても同様で、また第三皇子からもたらされた話も、あとは議会で話し合うそうなので、この場で話すべきことは尽き、私はようやく部屋から出ることを許された。
もちろん部屋から出る前に、他言無用は言い付けられたけれど、それでも卒業パーティーでの騒動を目撃した人々は何があったのか気にしていることだろう。
基本的に参加者には、あれは王太子の戯れだと通達するとのことだけれど、とはいえ私の家族にまで何も知らせないわけにはいかない。
もちろん卒業パーティーに来ていないお養母様やルネには、話せばむしろ心配をかけるだろうから話したりはしないけれど、卒業パーティーに来ていたお養父様とリュカに、その説明で納得してもらえるとは思えない。
けれど私の心配は付け加えられた提案で、すぐに解消された。
どうやら控え室でお養父様たちが待ってくれているそうで、その部屋の中ではある程度の説明をしても構わないのだとか。とはいえ、それは私に関してのことのみで、帝国内での謀反の計略や、ニ国間で争いを起こす計略などは話さないようにと釘を刺されたけれど、それは当然のことだから問題ない。
私を心配して待ってくれている家族に、少しでも状況を説明して…いや、まあそれはそれで心配させそうではあるけれど…ともかく、早く顔を見せなくては。
私が案内された控え室に入ると、部屋にいた人たちの視線が集まり、すぐにリュカが飛んできた。
「義姉上!」
「リュカ!ごめんなさい心配かけたわね」
泣きそうな顔で私の手をぎゅっと握る義弟は、まるで昔の幼子に戻ったような顔をしている。
「ほら、リュカ、泣かないで、私は大丈夫だから」
「泣いてなどいません。僕が…義姉上の側についていられず…」
「違うわリュカ!ほら冷静になりなさい。リュカが悪いところなんてひとつもないわ」
「ですが…」
「リュカは立派にエスコートしてくれて入場させてくれたし、ダンスも綺麗に出来たでしょう?王太子殿下がダンスに誘ってくださった時もスマートな立ち振る舞いだったと思うわ」
「…けど」
「ほら、リュカ。サラの言う通りだ。お前は自分の役目をきちんと果たしたんだ。
サラ、…心配したよ」
「お養父様。心配かけてごめんなさい」
「ああ。顔を見て安心した」
そう言って私の頭を軽く撫でてくれた手が、私が子爵家へ入ったばかりの頃と同じものであると感じて、私は何だか急に気が抜けてしまった。
あの部屋から出られて随分安堵出来たつもりだったけれど、それでもまだ家族にどうやって事情を説明したものかと悩む気持ちから気を張っていたのだろう。
まだこれから説明しなければならないとはいえ、もう安心していいのだと実感できて、私は二人に笑顔を向けた。
「いやあ。そうして三人揃っているのを見ると、麗しさに見惚れてしまいますな」
「え?」
リュカを慰め、お養父様に無事を伝えることに一生懸命だった私は、部屋の中から知らない声が聞こえたことに驚いた。
そういえば部屋に入った時に、待っていたのは二人だけではないと目にした筈なのに、慌てて飛んできたリュカの相手に精一杯で、そちらに注意を向けることが出来なかった。
関係者…といっても思いつかないけれど、無関係の人ではないのだろうとそちらに目をやって私は驚いた。
「エクトル様!?」
「サラ…その、心配した」
続ける言葉を見つけられないでいるエクトルの横には、彼によく似た男性がいる。
「初めましてサラ嬢。私はエクトルの父親のドミニク=ソニエールだ」
「…!初めましてサラ=アルノーです。お会いできて光栄です」
なぜエクトルと彼の父親のソニエール伯爵までがこの部屋にいるのだろうと疑問を感じたものの、私は反射的に挨拶を返した。
「アルノー子爵とリュカくんも男性とは思えない麗しさだと思ったんだが、サラ嬢は二人から愛らしさだけを取り出したようなご令嬢だな」
「え…あの、過分なお褒めの言葉、ありがとうございます」
「いやいや、こんな言葉では足りないだろう。…だがまあ、それは一先ず後日愚息にさせることにして、話を聞かせてもらってもいいかな」
「え…」
ソニエール伯爵にそう促され、私は戸惑った。
エクトルに視線を向ければ、心配そうに瞳を揺らした彼に行き当たる。
エクトルは私を心配して待ってくれていたのだなと私は気がついた。
おそらくソニエール伯爵はそんな息子に付き添ったのだろう。
ここで話してしまって良いものか私は少しだけ悩んだけれど、すぐに、この部屋で説明するのは問題ないと言われたことを思い出す。
そもそもこの控え室に彼らを案内したことは、国王や侯爵たちが知らないはずがなく、その上で許可されたと考えるべきだろう。
ならば、心配を掛けた私はきちんと説明をしなくてはならない。
私たちがソファーに座り直すと、メイドがお茶を運んできてくれた。
メイドはお茶を入れると微笑んで部屋を後にした。
その様子を見ていて、やっぱり話しても大丈夫そうだと私は判断し、お茶を手に取る。
暖かいお茶で、ほっと息を吐き、私は彼らに話を始めた。




