17. リュカと勉強
「パジェス王国を建国から支えた四つの侯爵家ーーアセルマン侯爵家、サオルジャン侯爵家、クーベルタン侯爵家、パスマール侯爵家ーーに、ラファルグ侯爵家を加えた五つの侯爵家が我が国にはあります。
アルノー子爵家はクーベルタン侯爵の派閥であるオードラン伯爵家が寄家ですから、クーベルタン侯爵の派閥と言えます」
家庭教師の話に、私とリュカは頷きを返した。家庭教師は私たちの顔に視線をやってから再び話し始める。
「パジェス王国は、国王の元に議会があり、議会を構成しているのがこの五つの侯爵家です。国の政は、国王と議会の話し合いによって決められます」
私とリュカは再び頷く。
「アセルマン侯爵家、サオルジャン侯爵家、クーベルタン侯爵家は我が国の三大侯爵家と言われており、建国の志を大切に考えています。保守派とも言われますね。三家の中でも筆頭侯爵家となるのがアセルマン侯爵家です。
しかしアセルマン侯爵家が筆頭と言われているのは力関係というよりも、各家の家風によるものでしょう。
アセルマン侯爵家は官吏を多く輩出している家系、サオルジャン侯爵家は騎士の家系、そしてクーベルタン侯爵家は官吏も多いですが、学者や芸術家も多い家柄です。政に一番関心が強いのがアセルマン侯爵家であるため筆頭と言われていますが、三大侯爵家の力関係は対等と言えるでしょう」
リュカは来年には、寄家であるオードラン伯爵家へ鍛錬のため通うことになる。
貴族の男子は12歳になると鍛錬を始めるものなのだそうだ。
寄家というのは、男爵家や子爵家といった下位貴族が頼る親ともいえる役割をする家のことで、寄家には同じ年頃の男の子たちが集まる。そのためリュカは寄家に行くまでに、必要な礼儀作法を身につけ、貴族の常識的な知識を覚えなくてはならない。
女子はデビュタントまでに覚えれば良いことだけれど、リュカが義姉と一緒に勉強したいと主張したために、私も一緒に家庭教師に学んでいるところだ。
「パスマール侯爵家は建国から王家を支えた家ではありますが、三大侯爵家に対抗することが多く、革新派と言われています」
家庭教師の口調が冷たくなった。おそらくパスマール侯爵家のことがあまり好きではないのだろう。我が家はクーベルタン侯爵の派閥、つまり保守派と言うことらしいから、対抗派閥とも言えるパスマール侯爵を嫌っているのかもしれない。
「ラファルグ侯爵家は新興の侯爵家で、交易で力をつけた家です。パジェス王国のあらゆる場所に行けるようになったのはラファルグ侯爵家が街道を整備したことによるもので、その功績により侯爵に陞爵しました。交易により力をつけた家のため、どちらの派閥にも属さず中立派と言われています」
国の仕組みや貴族の派閥についての知識がないと、他家との交流に困ることになる。だから家の外に出るようになる前にこうして家庭教師に教えてもらう。
それは大事なことではあるけれど、リュカが鍛錬のために出かけるのは寄家であるオードラン伯爵家で、集まるのも同じく伯爵家を寄家にしている子爵家や男爵家の子息たち。
つまり同派閥の男子たちが集まるわけだから、必要な知識ではあるかもしれないけれど、重要度で言えば礼儀作法の方が高い。
女子のデビュタントも同じように寄家で行うことになるので、やっぱり集まるのは同派閥の家ばかりだ。私のデビュタントがいつになるのかは、まだ決まっていないけれど家庭教師の話す侯爵家とは会う機会もなさそうだし、遠い世界のお話を聞いている気分になってしまう。
と思っていたら…
「侯爵家の方と会うとしたらおそらくサラ様のデビュタントでしょうね」
家庭教師がこう言うから、私は目を瞬かせた。
「デビュタントはオードラン伯爵家が主催されますが、クーベルタン侯爵家からもお見えになりますから」
「そうなのですか…」
「ですから、失礼がないようにきちん勉強いたしましょうね」
家庭教師がにこりと笑った。
リュカと私は顔を見合わせて苦笑した。
クーベルタン侯爵家だって同派閥だ。けれど知らなければ、何か失言してしまうことだってあるかもしれない。
家庭教師に言われて、自分と関わることだと少しだけ分かったけれど、それでもまだ私には遠い話だ。
だから私はこっそりとリュカにお願い事をした。
「リュカ、鍛錬が始まったら伯爵家のお話を聞かせて」
リュカは私のお願い事を聞いて、笑顔で首を縦に振ってくれた。
リュカの話を聞けば、少しは私も身近に感じるかもしれない。
まだ私には遠い。けれど私よりも先に外に行くリュカが困らないように、一緒に頑張って勉強をしよう。
私はリュカを見て、自分の中に気合を込めた。
ルネ「お兄様に少しだけお義姉様を貸してあげるわ」
リュカ「貸すってなんだよ。ルネはいつも義姉上と一緒じゃないか」
ルネ「でも…お兄様とも遊びたいわ…」
リュカ「…!勉強は無理だけど…次は三人で遊ぼう!」




