52. あなたのヒロインにはなれない
私は王太子とダンスをしながら、エンディングを思い浮かべる。
ここ数ヶ月は、何度も何度も思い浮かべて対策を考えていたから、一字一句とまでは言えないけれど、すんなりと思い返すことが出来る。
決めたつもりの覚悟は、何度も崩れかけた。その度にまた覚悟を固めて、そしてまた揺らぐ。
そんな繰り返しも、もう逃げようがないところまで来ているのだから、本当にこれが最後の覚悟を決める時だ。
そして崩れる暇もない間に、きっと終わりが始まる。
ダンスが終わった後もきっと王太子は私から離れる気はないのだろう。
優しい眼差しを私に向けている王太子に確信を抱く。
王太子の甘い視線は、ゲームの彼と同じだ。
優しくて、誠実で、真っ直ぐなアルフォンスは、私を心から心配している。
これまで王太子を避けようと思うばかりで、彼と向き合わないようにしていたことが、少しだけ申し訳ないような気分になった。
彼はレアンドルに唆されただけで、悪気どころか、純粋な善意のつもりなのだろう。
だとしても、他のやり方を選べなかった王太子に、私は情けをかけようとは思わない。
だからこの後のあなたの言葉を私は受け取るつもりはない。
私はあなたのヒロインにはなれない。
それでも私を気遣ってくれた気持ちを否定することだけはしたくなくて、私はダンスが終わるまでの時間は王太子に感謝を捧げようと思った。
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ダンスは終わった。
私は王太子と向かい合って、軽く頭を下げる。
彼に感謝する時間はこれでおしまい。
さて、ここからは決めたことをするだけ。
私の王太子へ向けた真っ直ぐな視線に、彼はふわりと笑った。
そして、視線を上げると彼は彼女へと目を向けたーーー
「フォスティーヌ=アセルマン侯爵令嬢、あなたとの婚約を破棄します!」
王太子アルフォンス=パジェスは高らかに宣言した。