50. 卒業パーティー
卒業パーティーは、卒業生とそのパートナー、そして卒業生が招待した人のみが参加することが出来る。
招待する人に明確な人数制限はされていないのだそうだけれど、あまりに多いと眉を顰められてしまう。パートナーのみで他には招待していないということも少なくないし、パートナーもいないということだってある。
そうはいってもパートナーなしでパーティーに出席する令嬢はいないから、一人で出席しているのは令息なのだけどーーーもっと正しく言えば、騎士科や官吏科の生徒に多い。
というのは、騎士科は卒業後に王立騎士団か家騎士になることが決まっているようなものだから、直ぐに役立てるように過密な授業が課せられているし、特に後期は剣術大会に向けての準備で奔走されるから、パートナー探しが出来ない生徒も少なくない。それは官吏科も同様…というか。もっと大変かもしれない。なにせ官吏科は卒業式も卒業パーティーもそして入学式の準備も整えなくてはならないからだ。
とはいえ、卒業に関連することは直前になれば新二年生に引き継がれるそうで、卒業目前には手を離れ、卒業生が自ら最後まで準備するわけではないのだそうだけれど、それでも彼らがパートナーを探せる余裕があるわけもなく、決まった婚約者が既にいたり、家族をパートナーにする生徒ももちろんいるけれど、一人で出席する生徒も少なくない。
そんな彼らと違って、教養科の生徒は卒業後のためにも社交を中心に学生生活を送るから、パートナーがいない生徒はほとんどいない。ほとんど…というか、おそらくは全く?
少なくとも一人で参加している令嬢がいないのだから、仮にいたとしてもそれは令息で、だとしたら、見ている限りは官吏科の生徒に見えてしまうのではないだろうか。
令嬢のパートナーが婚約者と限らないのは、私を見れば分かること。
つまり身内がパートナーということも出来るわけだからこその一人参加はない。というわけ。
私はリュカにエスコートされて入場し、卒業生が少しずつ増えていく会場を眺める。
そして壇上に目を向けて、そうだった。と思い出す。
壇上には国王と五大侯爵家の当主が揃っている。
今年の卒業生には、王太子だけでなく、アセルマン侯爵家のフォスティーヌ、サオルジャン侯爵家のレアンドル、クーベルタン侯爵家のレオナールがいる。
卒業パーティーには王族と五大侯爵家が出席するのは慣例だけれど、国王、そして侯爵家当主が揃っているのは、彼らの娘息子が卒業生だからだろう。卒業生に娘息子がいない家も、保守派の侯爵家の当主が揃って出席するならば名代というわけにはいかないと考えるだろうし、もしかしたらそれがなくとも王太子が卒業というだけで当主が出席する理由になるのかもしれない。
ここでこの後、婚約破棄イベントが起こるのかと思ったら、やっぱり逃げ出そうかなという気持ちが頭をもたげる。
だけど逃げるわけにはいかないことはもう十分にわかっているから、私はリュカの手をぎゅっと握る。
義弟は、私を勇気づけるように手を握り返してくれて、微笑み掛けてくれた。
こんなやりとりがデビュタントの時にもあった気がする。
少しだけ懐かしさを感じ、そして義弟を出来るだけ巻き込みたくないなと改めて思う。
気持ちが挫けそうだから、壇上のことは意識しないことに決めて、少なくともファーストダンスを踊り切るまでは義弟との時間を過ごせるはずだと少しだけ心を緩める。
すっかり背が伸びて男らしくなったのに、笑った顔は私にそっくりな義弟を見つめているうちに、どうやら卒業生の全ての入場が終わったようだ。
任せておけと言いたげな義弟を頼れないことを、なんだか申し訳ないような気持ちになった。
シナリオのことを話せないとしてもフォスティーヌと話し合えたように、もしかしたらリュカにも少しは事情を伝えた方が良かったのだろうか。
そんな風に思ったのは、もしかしたら土壇場で心細く感じたということなのかもしれないけれど、いずれにしても今からではどうしようもない。
だから、今は義弟とのダンスを楽しもう。
だって、本当に、私たちはこの日のためにたくさん練習したのだから。
リュカの差し出す手に、自分の手を重ね。
さて、いよいよダンスの時間だ。
ダンスが終わる時ーーーきっと終わりが始まる。