48. 義弟のエスコート
王太子が私のことを好きなのだろうということを、ステファニーはお茶会での王太子の態度から気がついたのだそうで、だからこそフォスティーヌに憧れているというセリアは、私を邪魔に思ったのではないかと考えたのだそうだ。
セリアの話を聞いてみれば、私には疎まれるような噂が過去にあり、それでますますフォスティーヌの為に王太子から遠ざけなければと使命感に駆られたのではないかと、ステファニーは感じたと語った。
けれども実際のところ、私とフォスティーヌは仲が良い。
ステファニーはそれが王太子を介して縁を深めたのだろうと考えたのだそうで、セリアの行いで王太子が誤解しているけれど、誤解が解ければ、私とフォスティーヌの二人で王太子を支えるのだろうなと考えていたのだとか。
なぜ!?
ステファニーの解釈には首を捻りたいところだけれど、
王太子が私のことを好きなのだと知っても、フォスティーヌの態度が変わらなくて良かった。
いや、まあ…それは婚約者として良かったのかと疑問に思う気持ちもなくはない。
なくはないけれど、私にとっては良い結果なのだと思っておこう。
なんだか隠し事が減って少しすっきりした私と、納得した顔をしたフォスティーヌと違って、おろおろしてしまっているステファニーを慰めているうちに時間が過ぎてしまった。
とにかくレアンドルに気をつけるようにと言いつけられて、私は馬車を降りた。
馬車を降りてから、おそらく午後からの卒業パーティーで婚約破棄騒動が起こるだろうことを伝えられなかったことを少しだけ悔やんだ。
けれど、どう伝えたらいいのかは分からないままなのだから、仕方ないと思うしかない。
それでも、王太子妃になりたくないことをフォスティーヌに伝えることが出来たのだから、ここまでの状況は上々と言っておこう。
これは土壇場になって吹っ切れたと言えばいいのだろうか。
逃げようがないと思ったら、やるしかないと気持ちが定まったみたいだ。
フォスティーヌに少しだけ気持ちを伝えられたというのもあるし、ステファニーという第三者にも理解してくれる人がいるのだと分かったことも気持ちを支えてくれているのかもしれない。
覚悟を決めた私は、急いで準備を整えて卒業式に向かう。
問題なく終わった卒業式は、本当ならば、学院の終わりという感慨に耽るべき時間なのだろうけれど、
私としては勝負の始まりに向けての心を整える時間だった。
手早く昼食を済ませて、支度を整えると、卒業パーティーの控え室でリュカの姿を探す。
フォスティーヌはタウンハウスで支度を行うと言っていたから、王太子が迎えに来るのだろうけれど、寮住まいの私は、身内と言えども異性であるリュカは寮へは入れないから控え室で待ち合わせだ。
リュカは私を直ぐに見つけてくれたから、私たちは緊張しながらパーティーの始まりをそのまま待つ。
私は人生の掛かったエンディングを目前にした緊張だけれど、リュカは今日こそは問題なくエスコートしてみせるぞと意気込んでの緊張だろう。
そんな義弟と見ると、心配な気持ちが沸き起こってくる。
なんせ、このあと問題が起こってしまうことを私は知っているのだから。
せめて、義弟が落ち込まないようにと私は願って、義弟に声を掛ける。
「リュカ、今日は入場してダンスを踊ったら、後は自由に回っていても大丈夫よ」
お養母様はルネと宿泊場所でお留守番だそうだけれど、お養父様は来ているのだし、出来ることならば離れたところにいて欲しい。
私がそんな気持ちを込めた言葉を口にすると、リュカが笑って答えた。
「うん。父上にも義姉上を誘いたい子息もいるだろうから邪魔しないように言われている」
「え?」
「でも、安心して。もちろん目は離しませんから」
「え…と?」
「声を掛けてきた相手が嫌なやつだったら、合図してくれれば追い払いますからね」
そう言う義弟はとても頼もしく見えたけれど、
王太子は追い払わせるわけにはいかないしなあと、私は心の中で苦笑した。